「このくらいなら大丈夫」が危ない。 営業現場で小さな無理が積み重なるとき

田中直才

田中直才

テーマ:コンプライアンス

営業の仕事には、どうしても数字がついて回ります。
目標があり、進捗があり、締切があり、その中で何とか結果を出そうと動く。これは営業の仕事として自然なことですし、数字を意識すること自体が問題なのではありません。



ただ、現場で起きるコンプライアンス上の問題を見ていると、最初から大きな不正をしようとして始まるケースばかりではないように感じます。
むしろ、「このくらいなら大丈夫だろう」「今回は仕方がない」「後で整えればよい」といった、小さな無理、小さな省略、小さな先送りから始まることが少なくありません。

そして、その“小さな無理”が積み重なった結果として、後から見れば大きな問題になっていた、ということがあります。

最初から危ないことをしようと思っている人は多くない

コンプライアンス違反というと、ルールを軽視している人が起こすもの、というイメージを持たれることがあります。
もちろん、そのようなケースが全くないとはいえません。

ただ、実際には、責任感が強く、目の前の仕事を何とか進めようとする人ほど、苦しい状況の中で判断を誤ることがあります。

お客様を待たせたくない。
上司に未達成の報告をしたくない。
今ここで止まると周囲にも迷惑がかかる。
何とか今月の数字を作りたい。

こうした思いが重なると、本来なら立ち止まるべき場面でも、「今回はこのまま進めてしまおう」という判断が入りやすくなります。

この点は、とても大事だと思います。
問題を起こした人だけを見ていても、なぜそうしたことが起きたのかは分かりにくいからです。

小さな無理が積み重なる職場には特徴がある

営業現場で無理が重なりやすい職場には、いくつか共通する傾向があります。

たとえば、数字の話はよく出るのに、進め方の話はあまり出ない。
達成できたかどうかは厳しく見られるのに、その過程で何が起きていたかは見られない。
困ったときに相談しにくく、現場で抱え込む空気がある。
こうした職場では、少しずつ判断基準がずれていきやすくなります。

最初は本人も違和感を持っているかもしれません。
けれども、周囲も同じようにやっている、止める人がいない、結果が出ている限り問題にされない、となると、その違和感はだんだん薄れていきます。

そうなると、「このくらいは普通だ」という感覚が生まれます。
この状態は、かなり危ういといえます。

無理を言えない職場では、問題が見えにくくなる

もう一つ大事なのは、現場が無理を無理と言えるかどうかです。

この案件は少し危ない。
この説明では誤解を招くかもしれない。
このやり方はルール上まずいのではないか。

そう感じたときに、上司や周囲へきちんと伝えられる職場であれば、大きな問題になる前に軌道修正しやすくなります。
しかし、異論を言いにくい、相談すると消極的だと思われる、目標未達の言い訳のように受け取られる、という職場では、現場は黙って抱え込むようになります。

その結果として、問題は水面下で進みます。
表に出てきたときには、すでに修正が難しい状態になっていることもあります。

営業現場の問題は、営業担当者だけの問題ではない

営業現場で起きるコンプライアンス上の問題を、担当者個人の問題としてだけ見てしまうと、本質を見落としやすくなります。

たしかに、最終的に行動するのは個人です。
しかし、その背景にあるのは、目標設定のあり方、管理職の関わり方、評価の仕組み、相談しやすさ、組織の空気といった、会社全体の問題でもあります。

つまり、営業現場の不適切な対応は、現場だけを注意していても防ぎきれないことがあります。
現場で何が起きているのかを知り、無理が積み重なる構造を見直すことが必要です。

管理職の役割は想像以上に大きい

営業現場では、管理職の影響が非常に大きいものです。

数字だけを見て追い込むのか。
状況を聞いたうえで支えるのか。
相談を歓迎するのか。
異論を言いにくくしてしまうのか。

同じ目標の下でも、管理職の関わり方で現場の空気は大きく変わります。

部下が「この進め方は危ないかもしれません」と言えるかどうか。
「今のままでは無理があります」と相談できるかどうか。
その違いが、問題の芽を早く摘めるかどうかに直結します。

そのため、営業現場のコンプライアンスを考えるときには、担当者向けの注意喚起だけでなく、管理職のマネジメントのあり方も見直す必要があります。

大切なのは、ルールを守らせることだけではない

コンプライアンス対策というと、規程を整える、ルールを周知する、研修を行う、といった取組みがまず思い浮かびます。
もちろん、それらは大切です。

ただ、現場で本当に必要なのは、単に「守りなさい」と伝えることだけではありません。
なぜ守れなくなるのか、どのような場面で判断がゆがみやすくなるのか、その背景に何があるのかまで見ていくことが重要です。

数字を追うことと、ルールを守ることを対立させないこと。
困ったときには早めに相談してよいと伝えること。
無理な状況をそのままにしないこと。
こうした土台があって初めて、コンプライアンスは実効性を持ちます。

おわりに

営業現場の問題は、ある日突然始まるのではなく、日々の小さな無理が積み重なった先で表面化することが多いように思います。

だからこそ、問題が大きくなる前に、
今の職場では無理を言えるだろうか
管理職はプレッシャーをそのまま現場に流していないだろうか
数字だけが評価される空気になっていないだろうか
と立ち止まって考えてみることが大切です。

営業現場のコンプライアンスは、単なるルールの話ではなく、組織のあり方そのものに関わるテーマです。
少しでも気になる点があるのであれば、問題が表面化する前に見直しておくことが、結果として会社の信頼を守ることにつながるのではないでしょうか。

営業現場でコンプライアンス違反が起きる背景や、売上目標と法令遵守の板挟みの構造については、自社HPの記事で詳しく解説しています。売上目標と法令遵守の板挟みで、現場が不正に向かうとき ご関心のある方は、あわせてご覧ください。

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田中直才
専門家

田中直才(社会保険労務士)

HK人事労務コンサルティングオフィス

BCP(事業継続計画)策定をはじめとした危機管理や、コンプライアンス対策を得意とし、コンサルティングや研修で多数の実績があります。外国人の採用支援にも注力し、ベトナムの企業と共同で人材紹介も行います。

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