コンプライアンス違反による倒産を防ぐために・・・
内部通報制度を機能する仕組みにするための視点
企業の不祥事やハラスメントの報道に触れるたびに、社内では誰も気づかなかったのだろうか、相談できる窓口はなかったのだろうか、と感じることがあります。
もっとも、実際には相談窓口や内部通報制度そのものは設けられていた、というケースも珍しくありません。問題は、制度があったかどうかではなく、実際に使える仕組みになっていたかどうかです。
会社としては整備しているつもりでも、従業員の側から見ると、相談したことで自分が不利になるのではないか、話しても結局は何も変わらないのではないか、という不安を抱えていることがあります。そのような状態であれば、窓口は存在していても、実際には機能しません。
そして、社内で拾い上げられなかった問題は、後になってより大きな形で表に出ることがあります。外部機関への相談、労使トラブル、SNSでの拡散、企業イメージの低下などにつながれば、会社にとっての影響は決して小さくありません。だからこそ、内部通報制度や相談窓口は、設置したかどうかではなく、使われる仕組みになっているかという観点から見直す必要があります。
相談窓口があっても利用されにくい職場の特徴
制度が形だけになってしまう職場には、いくつかの共通点があります。
一つは、相談する側に安心感がないことです。相談した内容が上司に伝わるのではないか、人事評価や職場での立場に影響するのではないか、という不安があれば、従業員は動きにくくなります。特に、人間関係やハラスメントの問題では、その傾向が強くなります。
もう一つは、相談した後の流れが見えにくいことです。誰が受け止め、どのように確認し、どう対応していくのかが分からなければ、せっかく窓口があっても信頼にはつながりません。制度は存在していても、運用の輪郭が見えないために使われないということは少なくありません。
さらに、日常的に意見や違和感を言いにくい職場も注意が必要です。普段から声を上げにくい雰囲気があると、重大な問題であっても初期の段階では表に出にくくなります。問題提起をすると面倒がられる、周囲に合わせる空気が強い、そのような職場では、内部通報制度だけを整えても十分とはいえません。
内部通報が機能しなかったことで問題が深刻化した事例
内部通報制度や相談窓口の重要性は、制度論として語るだけでは実感しにくいかもしれません。しかし、現実には、社内で声が上がらなかったこと、あるいは上がっても十分に生かされなかったことが、重大なコンプライアンス問題につながったとみられる事例があります。
たとえば、ビッグモーターをめぐる問題では、国土交通省が本社に関して確認した問題として、「社内監査の形骸化」と並んで「内部通報制度の不存在」を挙げています。改善策として、内部通報規程の整備や従業員向け相談窓口の設置が示されており、問題を社内で拾い上げる仕組みが十分ではなかったことが公表資料から読み取れます。
また、金融庁が公表した損保ジャパンおよびSOMPOホールディングスに関する資料では、ビッグモーター社社員の内部通報から半年以上が経過していたにもかかわらず、適時・適切な報告や踏み込んだ対応が十分でなかったことが問題として示されています。あわせて、コンプライアンス部門や内部監査部門が機能を果たしていなかった旨も示されており、情報が存在しても、それを生かす体制がなければ問題の拡大を防げないことが分かります。
さらに、ダイハツ工業の認証不正問題を受けた再発防止の取組では、2024年に外部弁護士窓口の開設、匿名通報への対応結果の伝達方針の明確化、内部通報制度の運用状況の社内公表などが進められました。これは、従業員が安心して通報し、その後の扱いを信頼できる仕組みづくりが重要な改善項目として位置づけられたことを示しています。
消費者庁の調査でも、内部通報制度があっても形骸化し、不祥事の防止に十分つながっていないとの問題意識が示されています。また、通報や相談をしなかった理由として「通報しても改善される見込みがない」といった回答が多くみられ、制度への信頼の有無が利用率を左右することが示されています。
こうした事例から分かるのは、内部通報制度は「ある」だけでは足りないということです。通報先が明確であること、通報者が守られると信じられること、受けた情報を適切に調査し是正につなげること、そして必要に応じて経営判断に結びつけることまで含めて、初めて制度は機能します。
内部通報制度は不正防止だけの仕組みではない
内部通報制度というと、不正経理や法令違反への対応を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実際の企業現場では、もっと身近な問題とも深く関わっています。
たとえば、ハラスメントの問題です。上司と部下の関係、同僚同士のやり取り、日々の業務指示の出し方など、本人にとっては深刻でも、通常の報告ラインでは表に出にくい問題があります。特に、相手が上司や職場で影響力のある人である場合、相談そのものに強い心理的負担が伴います。
そのため、ハラスメント対策を考える際には、研修を行うことだけでなく、相談や通報を受け止める仕組みが実際に機能しているかどうかも、あわせて見ていく必要があります。制度があっても、安心して使えないのであれば、実効性は高まりません。
中小企業では制度の有無より運用の工夫が問われる
大企業に比べると、中小企業では担当部署を細かく分けたり、複数の窓口を設けたりすることが難しい場合があります。そのため、中小企業では制度を作ることそのものよりも、どう運用するかがより重要になります。
誰が最初に相談を受けるのか。相談内容はどの範囲まで共有されるのか。秘密保持や匿名性についてどう考えるのか。社内だけで難しい場合に、外部の専門家をどう活用するのか。こうした点を実情に合わせて整理しておかないと、制度はあっても動きません。
特に従業員数が少ない会社では、相談した人が誰なのか推測されやすいという事情もあります。だからこそ、制度の文言だけでなく、実際に安心して利用できるような運用上の工夫が欠かせません。
大切なのは問題が大きくなる前に気づける職場づくり
内部通報制度は大切ですが、それだけで職場の問題がなくなるわけではありません。本当に重要なのは、問題が深刻化する前に気づけること、そして小さな違和感の段階で声を上げられることです。
そのためには、日常のマネジメントや組織風土も大きく関わってきます。管理職が部下の話を受け止める姿勢を持っているか。成果だけでなく、仕事の進め方や周囲への配慮にも目が向けられているか。相談した人が不利になるのではなく、適切に扱われるという安心感があるか。こうした積み重ねがあってこそ、内部通報制度も生きた仕組みになります。
言い換えれば、内部通報制度は単独で考えるものではありません。コンプライアンスの考え方、ハラスメント防止、管理職教育、日常の職場づくりとつながっているテーマとして捉えることが必要です。
制度を見直すときは使えるかどうかという視点を持つ
企業が内部通報制度や相談窓口を見直す際、制度はある、窓口も設けている、という確認で終わってしまうことがあります。しかし、本当に大切なのは、従業員が安心して使えるかどうか、相談を受けた側が適切に対応できるかどうか、問題を必要な対応につなげられるかどうか、という点です。
そして、会社として、声を上げてよいという姿勢を明確に示せているかも重要です。この視点を持たないまま制度だけを整えても、実効性は高まりません。内部通報制度は、会社を守るための仕組みであると同時に、従業員が安心して働くための基盤でもあります。だからこそ、形式ではなく運用に目を向けることが大切です。
内部通報制度や相談窓口は、設置しただけでは十分ではありません。実際に機能させるために必要な整備ポイントや見直しの視点については、自社サイトで詳しく解説しています。ご関心のある方は、HK人事労務コンサルティングオフィス「内部通報制度が機能しない会社は、なぜ不祥事を止められないのか」もあわせてご覧ください。


