会社経営におけるマーケティングの役割
売る時代は数十年前に終わっている。顧客が選び買う時代を越え、顧客が提案(レコメンド)に乗るかいなかの時代になっている。このような時代に売ろうとして売れるはずがない。だからと言って消費が減るわけではない。こうした時代だからこそ「売り方」によっては、これまで以上に売れる。顧客はなぜ買うのか?が分かれば自然に売れるのである。
テーマ①「売っても売れないわけ」
売れる営業マンにはたくさんお会いしたが、大なり小なりの苦労をされてきている。
営業マンにとって「売れない」時期が続くことは辛いことである。
売るためのアクションをしていれば、ある程度、売れるはずだが、それでも売れないことがある。
環境は常に変わり、顧客の考え方も常に変わる。
売れない理由は
① 販売している商品に自信がない
② 自分自身に自信がない
③ 売れる相手に売っていない
の3つが考えられる。
売れなくなると、より悪い循環に入ってしまうことがある。
逆に言えば、
① 販売している商品に自信がある
② 自分自身に自信がある
③ 売れる相手に売っている
の3つが揃えば無敵である。
自信が、商品知識、販売スキル、経験に基づくものとなれば、より売れるようになる。
No.1セールスマンの講座や先輩営業マンの武勇伝を聞いても、スキルや経験はなかなか身につかない。トライ&エラーで、小さな成功体験を積み重ねて、自分なりのスタイルを見出すことが最短ルートである。
飛び込み営業なども数日はやってみるほうがいいと思う。私自身も苦手意識が強かったが、実際飛び込んでみることで多く学びがあった。
なかには、とてもいいお客さんがいて、しっかりと話しを聞いてくれたりする。そんなときは、有り難く感じる。そういう人は、自分自身も飛び込みや売上が上がらず苦労した経験があったりする。話し聞いてくれるだけでは仕事にはなっていかないが、そういう練習を積み重ねることが営業トークの訓練になる。それが糧となって自信にもつながることもある。また、初心に帰ることもできたりするので、ずっとやる必要はないが、経験としてあっていいのではないかと思う。
商品に自信が持てない場合は、やはり商品や顧客ニーズをよく知る必要があるし、場合によっては商品やサービスのあり方を見直すべ必要がある。営業の声は、会社にとってとても重要であり、そうしたフィードバックこそが商品・サービスの付加価値を高める。
売れる顧客かどうかは、買う顧客かどうかということなので、①買いたいか、②買えるか、の2つに尽きる。買いたくもないお客さんは買わないし、買う予算のないお客さんは買えない。ただし、買いたいお客さんもすぐに買いたいというわけではない。そこは質問力で引き出していきたい。
テーマ②「買うのは得するため?損しないため?」
最近、アメリカのNYで「佃煮」が人気だそうである。
その独特の風味がチーズやワインなどと合うということもあるが、それ以上に佃煮をつくるためには、約3日間かかることが驚きになる。酒、味醂、醤油、生姜などでじっくりと煮込むというその手間隙に感動して買うようです。
たしかに、佃煮をパッと見ただけでは3日も掛けているとは思わないので、そうやって説明されるとびっくりします。そして、それだけ手間暇が掛かっているのだからおいしいに違いないと思います。そして、この佃煮を買って、友人たちとパーティをすれば盛り上がるに違いないと考えて買う。
作り手の味へのこだわり、長年培ってきた技能・技術、商品づくりに掛けた手間(労力)と暇(時間)に対する尊敬の念から感動して対価(お金)を払っている。そして、その対価によって、友人たちと共有する未来を得る。
購買心理には、利益の獲得と損失の回避の2つがある。佃煮は「おいしさ」「楽しみ」などの利益を獲得する購買である。
春も3月に入いると日照時間が延びてくるとUV対策グッズが少しずつ売れるようになる。もちろん、販売側のPRの影響も大きい。4~5月の紫外線量は7~8月よりも多いなどと言われると、気になってしまう。
そういえば、昨年は肌ケアを怠ったために、肌荒れになってしまった。
今年はUVケアの美白エッセンスやセラムなどを備えようと考え、SPFやPAもチェック、口コミも確認して買う。
こうした購買は、日焼けや肌荒れなどによって起こる損失を回避する購買である。
「利益の獲得」「損失の回避」の2つについて研究した行動経済学のプロスペクト理論が有名である。
プロスペクト理論は、2002年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン博士とトベルスキー博士が期待効用仮説に対する理論として1979年に展開したものである。
「損失の回避」のほうが「利益の獲得」より強いとするもので、要するに「得するより損したくない」のである。
こうした視点で自社の商品やサービスの期待効用について見直すと新たな発見があるかもしれない。
テーマ③「お客さまの声を聴く『質問』の力」
ビジネスに限らず、プライベートにおいても聴く力の重要性は高まっている。
「聞く」と「聴く」の違いをご存知の方は多いだろう。
モデレーター、ファシリテーター、コーチなどは特に聴く力を意識している。
ある医師は5つのきき方をしているという。その5つとは「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「心」である。
⬛顧客のインサイト
商品を売る、商品を紹介する、新たな商品を開発するなどのマーケティング行為をする場合において、
ビジネスアイデアも大切であるが、その提案が顧客から求められるかどうか。
しっかりお客さまの声を聴く必要がある。
あるスーパーにおいてある女性が栄養ドリンクを購入したとしよう。
その栄養ドリンクは「スポーツ」「サラリーマン」「学生」が購入するものであったが、妊婦であった女性が購入したのである。
意外であったために調査を進めたところ、おなかの子供のためだという。
別の例として、60代以上になると健康志向が強くなり、あまり購入しなくなるカップヌードル。
しかし、調査すると多様な嗜好があり、健康は大事だが味もこだわりたいという本音がみえた。
そこで、スープにこだわったリッチ味の商品を開発、販売したところ、1000万食を超えるヒットとなった。
これらのインサイトは、通常のPOS情報などからは得られない。
⬛インサイトと質問
顧客の声は「言葉」というよりは「表情」「態度」から観察できる「インサイト(本音)」になる。
インサイトを引き出すには「質問力」が求められる。
「何故?」なのかを考え、顧客のインサイトを探求することで得ることができる。
質問には「オープンクエスチョン」と「クローズクエスチョン」がある。
答えの幅が広いオープンクエスチョンはある程度信頼関係ができた段階で使うのが望ましく、
答えが限定されるクローズクエスチョンは相手にコミットを求めるときなどに有効とされている。
いきなり「なぜ、その商品を買いましたか?」と聞いても、多くの顧客は答えられない。
ほとんどの場合、無意識のうちに購入の意思決定をしているためである。
「この商品を買ったのははじめてですか?」などYES/NOで答えられる質問からはじめ、
「どこで」「いつ」など特定しやすい内容の質問し、
「どのように気づいたか」「購入に至った理由」などを質問していく。
そうすることで映像として、購買や意思決定が物語りとして、再現されるのである。
質問する力は一朝一夕では身につかないが、オープンとクローズを意識するだけでも着実にスキルはアップする。
テーマ④「第三者の声」
インフルエンサーという言葉もかなり一般的になりつつある。
昨年(2018年)の前半までは「インフルエンサー」といっても、あまり伝わらなかったが、同年夏頃から急速に知っている人が増えていった。SNSが浸透し、ユーチューバーやインスタグラマーがあらゆる世代で認知されていったこともある。
インフルエンサー、インスタグラマー、ユーチューバーに対しては賛否両論がある。実際、フォロワーを稼ぐために悪ノリとも言えるような行為には閉口してしまう。
一方で、SNSを通じた一般の人の影響力は無視できないものになりつつある。企業の間では「広告が効かない」ことが深刻な課題となっている。また、従来のTV広告をネット広告が上回るようになるとされ、ネットを通じた情報の重要度は増すばかりである。
そこで「第三者の声」について考えてみたい。
”ウィンザー効果”という言葉を聞かれたことがあるだろうか。
アーリーン・ロマノネス著のミステリー小説「伯爵夫人はスパイ」(1990)に登場するウィンザー公爵夫人の「第三者のお褒め言葉は、どんなときでも一番効き目があるのよ。」というセリフから来ている。
ある部長から「君はとても頑張っているな」と言われるより、先輩から「部長が君のことをいつも頑張っていると褒めていたぞ」と言われる方が受け入れやすい。
このことは商品や会社の紹介においても同様の効果がある。
インフルエンサーにもこうした第三者としての影響力があるが、それ以上に効き目があるのがお客さまの声である。
自社が「うちの商品はとても優れています」というより、第三者のお客さまが「A社の商品は優れていて、とても役立っている」というほうがずっと反響が得られる。
お客さまから褒めていただいたときは、ぜひその声を活かしてほしい。