親子の縁を切りたい② 安全確保
親子の縁を切りたい⑨ 相続と扶養(その2・相続をめぐる問題)
親子の縁を切りたいと考えて、いくら安全な距離をとって親(子)から離れたとしても、血がつながっているという点において、相続と扶養の問題は避けて通れません。
暴力がなくても、親(子)の抱えた負債を引き受けたくない、親(子)の借金で迷惑をこうむりたくない、という意味で縁を切りたいという相談は少なくありません。
今回は相続の問題です。
親の負債と子の負債とに分けて考えてみます。
1 親の負債
事実上、距離をおいている親に多額の借金がある場合、またいつも借金を重ねてどれくらいになっているか不安な場合、子の側からどうしたらよいかとの相談は多いです。
ただ、親子と言えども金銭の貸し借りは個人的なものですから、親の借金の保証人になっていないかぎり、親子だからという理由だけで貸した金を返せと業者から請求がくることはありません。
また、親が亡くなり相続の問題に直面したときは、相続を知ってから3か月以内に相続放棄をすれば、プラスの財産も、マイナスの財産(借金)も引き継ぐことはありません。逆に、相続放棄をしないまま3か月が過ぎてしまうと、相続を承認したものとみなされて、債権者から相続人に請求が来てしまいます。
関係が断絶している親子の場合、子が親の死を知ることがかなり遅れることがあります。相続放棄の3か月以内というのは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月となりますから、親の死を「知ったとき」から3か月となります。相続放棄の手続は必要書類をそろえて、相続開始地(親が亡くなった土地、わからないときは最後の住所地)の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出します。郵送でも受け付けてくれます。
通常は相続放棄は大切な相続に関する権利を放棄するものですから、本人の真意にもとづくものであるかどうか、家庭裁判所から書面で確認があり(確認を省略する事案もあります)、それに本人が回答して受理されれば、相続放棄が認められたことになります。
相続放棄はあくまで相続開始後のことなので、生前に事前に相続放棄したいという方もおられますが、制度として事前放棄は認められていません。
2 子の負債
子が多額の借金を重ね、取立てや回収業者が家に来て怖い思いをされる親側からの相談もあります。
子の借金だから親が責任をとれと言って脅されることもありますが、親子といえども保証人になっていない限り、親だから責任を負うということはありません。
このことは上記1と同じです。
また、相続に関しては、直系尊属である父母は第二順位になりますから、子に結婚歴があり子(孫)がいる場合は、子(孫)が第一順位の相続人で、親が相続人とはなりません。
ただ、子(孫)がいない場合は、配偶者と親とが法定相続分(配偶者3分の2、親3分の1)に応じて相続します。
相続開始を知って3か月以内に相続放棄の申述を家庭裁判所にすれば、プラスの財産もマイナスの財産(負債)も引き継ぐことはありません。これも上記1と同じです。
子の金銭問題で迷惑をこうむった親として、子に相続させたくないという相談もあります。
そうした思いは遺言を作成することで実現できますが、子には遺留分(法定相続分の2分の1)がありますから、遺言があっても相続人間で紛争が生じることもあります。
多大な迷惑をこうむったので、遺留分すらなくしてしまいたいという場合は、家庭裁判所に推定相続人廃除の審判申立てをします。完全に相続人の地位を剥奪するものです。生前に家庭裁判所に申し立てることもできますし、遺言で遺言執行者に申立てを託すこともできます。
廃除については、相続権を剥奪するものなので、重大な侮辱や虐待、著しい非行などの事実が認定されないと審判で認められることはありません(民法892条)。
※ 本コラムは法律コラムの性質上、弁護士の守秘義務を前提に、事例はすべて想定事例にしており、特定の個人や事件に関する記述はありません。