親子の縁を切りたい② 安全確保
親子の縁を切りたい⑧ 相続と扶養(その1・扶養をめぐる問題)
これまで親子の縁を切りたいという相談の背景に、暴力的環境から安全に離れたいという思いがある場合を検討してきましたが、そうした問題とは別に、親(子)から理不尽な金銭要求をされたり、親(子)の借金等で迷惑をこうむりたくない、という観点から、親子の縁を切りたいという相談も少なくありません。
いくら安全な距離をとって親(子)から離れたとしても、血がつながっているという点において、相続と扶養の問題は避けて通れないからです。
今回は扶養について、親から子への請求と、子から親への請求とに分けて考えてみます。
1 親から子への請求
親子間には相互に扶養義務があります。民法877条1項に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と規定されています。
育ててやった金を返せ、学校を卒業できたのは誰のおかげだと親から金銭を要求されて途方に暮れて相談する子は少なくありません。虐待され保護された施設を卒園した後も行方をつきとめて働いているのだから金を入れろと理不尽な要求をされる子たちがいるのも現実です。
しかし、扶養の問題、特に扶養義務の内容に注意する必要があります。
一般に、扶養義務は、生活保持義務と生活扶助義務の2つに分かれています。
生活保持義務とは、扶養義務者に経済的な余力がない場合であっても、被扶養者に対して自分の生活と同程度の生活を保持させる義務を意味します。未成熟子や配偶者に対する義務がこれに当たります。
一方、生活扶助義務とは、扶養義務者が経済力に余力があり、要扶養状態にある権利者に健康で文化的な最低限度の生活を援助する義務を意味します。扶養義務者が自己の生活を犠牲にすることなく、余裕がある限度で援助すれば足りる点で生活保持義務とは異なります。未成熟子・配偶者以外の親族一般に対する義務とされています。
親は親権者として未成年子を扶養する義務があります。この扶養義務は、自分の生活を切り詰めてでも子どもを食べさせていく義務です。たしかに高等教育にかかる金銭は親の経済的状況に左右されるところがあるのも現実ですが、教育に支出した金銭を子どもが親に返還する義務はありません。
理不尽な要求により、精神的に追い詰められる子も少なくないので、暴力的環境から安全に離れるのと同じ問題状況がそこには生じますので、先のコラムを参考にして、安全な距離をとるよう対処されることが大切です。
一方、親側も高齢となり、子も自立し、親自身が経済的困難に陥ることも少なくありません。こうした場合は、民法877条に基づき、親は子に対して扶養を求めることができます。
ただ、子が親を扶養する義務は、親の子に対する扶養義務と違い、成人した子は自身の生活を維持しつつ、余力ある範囲で、親を扶養する義務です。親が未成年期の子を扶養しなかった場合や虐待が認められるなど、親が子に対して扶養義務を果たしていないケースでは、子は親の扶養を拒否することができます。
親から家庭裁判所に扶養請求の調停が申し立てられたときも同様の対応で十分です。
また、親が生活困窮により生活保護受給申請をした場合、必ず親族照会が役場から届きます。これが届くと被虐待を体験した子はダメージを受けることが多いです。なぜ今更という思いです。こうしたときも、福祉担当課に事情をきちんと説明して扶養について協力しないことを回答したら十分です。
2 子から親への請求
親側の相談で少なくないのは、子が自立せず、お前のせいでこうなったと金銭の要求をしてくる、年金を子にとられてしまうなどの相談です。なかには、恐喝事件であったり、高齢者虐待(経済的虐待)の事案も少なくありません。
親が子を扶養する義務の内容として、自らの生活を切り詰めてでもと説明しましたが、これはあくまで未成熟子に対するもので、成人に達して自立した子に対する場合は、自らの生活に余裕のある範囲でとなります。
親子間での窃盗や恐喝については、警察に被害届を提出しようとしても、親族相盗例により、刑が免除されるため(刑法244条)、警察は捜査に着手することは期待できません。
ただ金銭要求はエスカレートしやすいので、警察でもとりあってもらえず、親側の苦しみはこのうえないものとなります。暴力が背景にある場合が少なくないので、暴力事件として警察に対応してもらうことも少なくありません。
こうした要求に対しては、自己の生活に余裕がある範囲で対応すれば足り、それを超える執拗な金銭要求に対しては毅然とした態度でのぞむことが必要となります。
過度な要求が続く場合は、第三者に介入してもらった方が安全であり、警察への相談、家庭裁判所で親子間紛争調整調停の申立て、激しい虐待・非行の場合には推定相続人廃除審判の申立てなども視野に入れた対応が必要です。
※ 本コラムは法律コラムの性質上、弁護士の守秘義務を前提に、事例はすべて想定事例にしており、特定の個人や事件に関する記述はありません。