親子の縁を切りたい② 安全確保
親子の縁を切りたい⑥ 接近禁止仮処分
親族間の暴力的環境から何とか安全に離れた当事者にとって、その後も安全な距離を取り続けることは大変な苦労があります。
DV防止法における保護命令(接近禁止命令)等の対象外の親族間暴力の場合に、近づくことを禁止することはできないかという相談は少なくありません。押しかけられたり、つきまといへの不安を防止するための手段はないかというものです。
こうした場合には裁判所を通した手段として、民事保全法に基づく接近禁止仮処分の申立てが考えられます。地方裁判所に仮処分(保全)の申立てを行い、生活の平穏(安全)を守っていくものです。
DV防止法やストーカー規制法が制定されていなかった20年近く前は、家庭内の暴力について警察に相談しても、「家庭内の問題には立ち入れない」「家族でよく話し合って」等とまともに取り扱ってもらえないため(今では考えられないことですが)、この種の仮処分の決定を出してもらい、警察署に示して、話し合って解決できる問題ではなく、接近されること自体が危険であることを理解してもらっていました。この種の接近禁止仮処分や面談強要禁止の仮処分は、暴力団による嫌がらせや騒音を伴う街宣活動による業務妨害などの民事介入暴力への対抗手段として利用されており、警察もしかるべき対応をしてくれます。
保護命令と異なり、違反した場合の刑事罰はありませんが、警察からの支援措置を講じてもらいやすくなる点に意味があります。
接近禁止仮処分の手続きとしては、民事保全法上の仮の地位を定める仮処分命令(民事保全法23条2項)を地方裁判所に求めます。被保全権利としての平穏な生活をおくる権利が、このままの状態では回復困難な危険にさらされることを主張することになります。保全の必要性として、「著しい損害又は緊急の危険を避けるために必要な場合」であることを疎明しなくてはなりません。疎明資料(証拠書類)を提出して裁判所を説得することになります。
DV防止法の保護命令について、婚姻期間中の暴力の事実と、更なる暴力を振るわれる危険の二つが要件とされていることと同じように、親子間の接近禁止仮処分命令については、これまでに生活の平穏が脅かされる危険な事態が生じていたことと、いま回復しがたい危険が差し迫っていることの二つを疎明する必要があります。
虐待等の被害で警察や児童相談所に相談している場合には相談記録や児童記録が残っていますが、そうした相談歴がないときは、過去の虐待の事実を示すことは難しいことが多いです。また、単に詮索されたくない、顔をあわせたくないというだけの場合など、差し迫った身の危険が生じていないような場合にも難しいといえます。よくあるのは、実際探し回られたり、家に押し入ってきたりして、警察に通報してその場は警察官が臨場してくれおさまったものの、再度押しかけられる危険がある場合には、警察への通報の事実がありますから、差し迫った危険を疎明しやすくなります。
仮処分の手続きは、接近禁止だけでなく、面談強要禁止や迷惑行為禁止など、どのような行為について仮処分を求めるかは制約がないので、臨機応変に対応できます。
また、地方裁判所に申し立てて、1~2週間内に審尋期日が開かれ、裁判官が双方に事情を確認します。親族間暴力の場合、この審尋期日において虐待親側は暴力を否定することが多いので、逆にそうであれば、今後接近しないことを約束する、あるいは代理人弁護士を介して以外の方法で接触しないことを約束してもらうことができることもあります。そうした場合は、審尋期日において和解的解決を行い、和解内容を調書に残してもらい、それを後で警察に示しておくという形で、安全な距離をとる合意をとりつけることもあります。
いずれにしても、こうした裁判所の場を用いた手続きを代理人弁護士を窓口として進めていく中で、安全な距離を築いていくことができることは少なくありません。
次回は、安全対策として重要な住民票閲覧制限措置について触れていきます。
※ 本コラムは法律コラムの性質上、弁護士の守秘義務を前提に、事例はすべて想定事例にしており、特定の個人や事件に関する記述はありません。