子の引渡し・連れ去り事件② 直後の探索と自力救済の禁止
子の引渡し・連れ去り事件⑨ 家庭裁判所での手続き(その2・審理)
別居や離婚にあたり、子どもの連れ去りが起きた際に、急ぎ家庭裁判所の判断を仰ぐため、監護者指定・子の引渡しの審判(本案)を申し立て、同時に、審判前の保全処分申立てを行い(保全)、子の奪い合いにならないよう子どもを守っていきます。
本案と保全事件が同時に申し立てられることが多いので、そうした場合に家庭裁判所が各申立てを受け付けると、以下のとおり審理が行われます。
1 審問期日の指定
急ぎの事情を勘案して、本案・保全ともに、裁判官が事情を聴く審問期日を指定し、双方に通知します。審問期日は申立てから1~2週間以内に指定されることが多いです。
申立人側は、申立書にしっかり事情は書き込んでいるはずですが、不足書類については急ぎ追加提出します。裁判官に保全を必要とする(一日も早く判断してもらうべき)事情を審問期日までにわかってもらう必要があります。
監護の開始が違法になされていること(連れ去りの違法性)、連れ去り後の監護環境が子の福祉を害していること、これまでの監護状況、監護実績、子の意向(転校や引越を伴う場合など)など提出できる主張と資料はすべて提出していきます。時間が限られているので、限られた時間の中で最善を尽くします。
一方相手方は、審問期日通知書と申立書が送られてくるので、準備期間はほとんどありません。弁護士に相談に出向いて対処方法を相談して、正面から監護者指定を争っていくこともあります。連れ去り別居と指摘される場合であっても、別居に正当な理由があり、子にとって離れた後の環境の方が子の福祉にかなうときは、きちんと反論し、反対に監護者指定審判・審判前保全処分を申し立てて、早期に監護者指定をしてもらうことで、紛争の鎮静化がなされることもあります。
2 審問期日
審問期日は家庭裁判所の審判廷で行われます。家庭裁判所側は、裁判官、書記官、調査官が立ち会います。
当事者側は、申立人、相手方、各手続代理人が出席します。
子の監護に関する事件であり、心理学等の専門職員である家庭裁判所調査官が立ち会い、審問期日での進行状況いかんでは、第2回審問期日までに、裁判官からの調査命令に基づき、子どもの監護状況などについて調査を行うことがあります。
審問期日当日は、裁判官が審理の進行を行います。申立人から提出された申立書と資料、相手方から提出れた答弁書と資料は事前に確認していますので、それらの調査をする範囲を確認し、当事者双方から個別に詳しい事情を聴いていきます。
双方当事者同席で行いますが、同席が困難な事情があるときは双方手続代理人は立ち会い、当事者は別席で事情を聴く場合もあります(DVや虐待等の事情がある場合は配慮してもらえます)。
時間はケースバイケースですが、1時間から2時間はかかります。
3 審理対象
保全事件については、本案認容の蓋然性と、保全の必要性が審理対象となります。
前者は本案で求めている監護者指定、子の引渡しが認められる可能性が高いこと、後者は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があることを指します。
前者は子どもにとってどちらの親のもとで監護されることが子の福祉にかなうかということになりますが、後者は本案の判断(通常は数か月かかります)を待っていては、子どもにとって取り返しのつかない事態が生じるので一日も早い判断を行う必要性があるかどうかです。たとえば、連れ去られた(引き離された)後の子どもの監護状況が子どもの福祉を害していたり(連れ去った親による養育放棄を含めた虐待等のおそれ、子らの環境不適応による心身への悪影響など)、別居後に一定期間安定した監護環境下にあった子らが連れ去られ、学校や生活環境が破壊されてしまうなどの例が考えられます。
4 審理の進み方
家庭裁判所の審理の進め方として、多くの例に接する中で、次のような場合分けがなされていると感じます。
(1)保全事件の判断を優先する場合
連れ去りの態様や方法が悪質で、その違法性が顕著な場合は、審問期日で双方の事情を聴き、調査官に調査命令を出すまでもなく、すみやかに(1~2週間内に)仮の監護者を指定し、仮の引渡しを認める審判がなされます。こうした場合は、審問期日当日においても、連れ去り親側に対して裁判官から任意の引渡しの説得がなされることもあります。
また、双方から保全の申立てがある場合など、すみやかな保全事件の判断が必要と認められる場合でも、連れ去り後の子どもの監護状況を調査官が調査をしたうえで、子の意向聴取も行ったうえで、保全の判断がなされることもあります。こうした場合は、初回期日で調査官に調査命令が出され、家庭訪問による子どもの監護状況調査などをすみやかに行い、審問期日を短期間に数回重ねることもあります。
(2)本案事件の判断を優先する場合
連れ去り行為そのものの違法性がなく、子どもの現状が安定している場合や、連れ去り事件後かなり時間が経過していたり、双方の監護環境に優劣つけがたい場合など、保全の必要性が高くないときは、本案の判断を見据えて、どちらの監護環境下で子どもが監護養育されることが子の福祉にかなうのか、調査官調査をていねいに行ったうえで、本案と保全と同時に判断がなされることになります。
こうした場合は審理にかなり時間を要するので、引き離された親側にとってはつらい時間が経過することになりますが、監護実績や監護体勢についての主張と資料提出をきちんと行い、調査官調査にも対応していき、結果を待つことになります。
※1 本コラムは法律コラムの性質上、弁護士の守秘義務を前提に、事例はすべて想定事例としています。
※2 当事務所では、子どもの利益(安全・安心)を最優先に考えるため、ご夫婦のどちらからの相談も受けています。特に子の連れ去り・引き離し事件に関しては、お子さんと離れてしまった側、お子さんと一緒にいる側、いずれの相談もお受けしていますが、子どもの利益を最優先に考えています。