子の引渡し・連れ去り事件④ 弁護士への相談(その1)
子の引渡し・連れ去り事件⑦ 相談対応の留意点(その2)
夫婦間での子どもの連れ去り問題への対応を依頼されたとき、子どもの安全を最優先にし、迅速処理をすることが大切ですが、他にも以下のような点に留意しています。
3 事件発生からの経過期間に応じた対応措置を選択すること
(1)事件直後
連れ去り別居や違法な留め置き(引き離し)の場合に、事件直後はすみやかに家庭裁判所に監護者指定・子の引渡しの審判、審判前の保全処分の申立てを行いますが、事情の聞き取りの過程で、これまでの監護実績や双方の監護体勢の比較から、相談者(引き離された親側)が監護者に指定される可能性が低い場合は、そのことをきちんと説明したうえで、監護者指定を争うことが適切かどうかの検討を行うことになります。なかには難しいことはわかっていても、きちんと家庭裁判所の判断を仰ぎたいという方もおられますし、連れ去り別居の場合で、監護者は相手方に指定されたとしても、一日も早く子どもとの面会を実現したいということで、保全審問期日でそのことを伝え、面会条件や共同監護体勢の仮の合意をとりつけて、あとは対立緊張関係を緩和して、じっくり調停で話し合っていくという方もおられます。
(2)事件後に相当期間が経過している場合
連れ去りがあって、その後かなりの時間が経過してしまうと、子どもは環境に順応する能力が高いですから、監護環境が劣悪化するなどの事情がない限り、引渡しを求めても、監護環境の変更を家庭裁判所が認めづらくなります。学校に通う子どもの場合は、転校を何度も繰り返すことにもなりますから、半年から1年を経過した後の引渡しについては、悩ましい問題を抱えます。そうした場合は、いきなり審判を求めるよりも、監護権あるいは親権について夫婦関係調整・離婚調停の中で、話し合う方法を選択する方が着地点を見出しやすいこともあります。
また、別居後の監護環境が安定していることを確認できている場合は、監護者指定について強く争わず、面会交流の充実を求めて、面会交流調停を申し立てて、その中で調整をしていくこともあります。
このあたりは、臨機応変な対応が必要となります。
もちろん、別居後かなりの期間が経過している場合でも、子どもを取り巻く環境が大きく変動し、監護環境が劣悪化することもありますから、そうした際は保全事件の申立てが必要となることもあります。
4 執行まで視野に入れた対応を検討すること
子どもの引渡しについて審判申立てをするにあたっては、保全事件で仮の引渡しの決定があったときに、2週間以内に直接強制の申立てをして、執行官と打合せのうえ、連れ去り親のもとに出向き引渡しの執行を行う必要があります。この2週間はあっという間に経過してしまいます。執行官と現場に出向くことも1回なのか、2回なのか、限られた時間の中で、日程調整が必要となります。
また、家庭裁判所の判断が出ても、それに従わない事案もあり、保全執行が執行不能で奏功しないこともあります。そうした場合は、最終手段である人身保護請求について検討する必要があり、限られた時間の中で、並行して準備を進めておくことが大切です。引渡拒否の姿勢が明白な事案などでは、早い段階で人身保護請求を検討しておくことになります。
5 あらゆる手段を尽くし、常に選択肢を広げておくこと
家庭裁判所への迅速な審判申立て、保全申立てが必要ではありますが、連れ去った側の親も一時的な感情が沈静化したり、長期的な監護体制の見通しが立たなくなるなど、元の状態に子どもを戻したいという気持ちに動くことも少なくありません。
弁護士が介入したり、家庭裁判所に審判が申し立てられることで、任意の引渡しの可能性も一方で含んでいるため、常にその可能性を探ることも大切です。
たとえば、審判と審判前の保全処分の申立てをして、保全事件の審問期日が指定された際に、任意の引渡しを再度促し、審問期日に子どもを同伴するよう申入書を相手方に発送することで、審問期日に子どもを連れて来てくれることがあります。審問期日前や審問期日に任意の引渡しが行われることもありますので、紛争が長期化しないよう、あらゆる方策を考えて準備しておくことが大切です。
※1 本コラムは法律コラムの性質上、弁護士の守秘義務を前提に、事例はすべて想定事例にしており、特定の個人や事件に関する記述はありません。
※2 当事務所では、子どもの利益(安全・安心)を最優先に考えるため、ご夫婦のどちらからの相談も受けています。特に子の連れ去り・引き離し事件に関しては、お子さんと離れてしまった側、お子さんと一緒にいる側、いずれの相談もお受けしていますが、子どもの利益を最優先に考えています。