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【うまく維持されているみなし墓地例】続・全く大手メディアが報じない墓じまいの実態【岡山田舎版シリーズ】

若松慶隆

若松慶隆


全く大手メディアが報じない墓じまいの実態シリーズ前回の続報です。
前回のコラムはこちらです。
前回の中で『みなし墓地における墓じまいが周囲に悪影響を及ぼし、墓地全体が荒れている』という旨の傾向を申し上げ、該当するケースを複数写真とともに紹介致しました。


しかしその数日後『墓地全体がうまく維持されているみなし墓地もある』ということを思い出しました。
前回のコラムで『みなし墓地=荒廃が進んでいる』というネガティブな印象ばかり与えてしまったなら、特にうまく維持されているみなし墓地の当事者様に失礼な話であり、みなし墓地の良い面も併記せねばと思い筆を起こしております。

数カ所へ現地調査に赴き、お話もお伺いした上で、そういう事例について紹介致します。

➀荒れるみなし墓地と荒れないみなし墓地の違いや傾向
➁○○墓地管理委員会(仮名)と○○町内会の違い
③過疎地のみなし墓地で荒れずに維持できているケースは貴重
➃今後の展望(手助けとして外野が出来ること)


《再掲》みなし墓地とは『墓地、埋葬等に関する法律』が施行される前に、墓地として設定されたお墓です。
しかし地元では「みなし墓地」と呼ぶ人はまず居ません。実際には「村墓地」「集落墓地」「○○地区の共同墓地」「○○山」など。田舎においても市街地においても地域のどこかに住民のお墓が集合していたり、点在していたりします。


➀荒れるみなし墓地と荒れないみなし墓地の違いや傾向

みなし墓地全体が荒廃せず維持されるか否か、それは『維持管理する共同体の有無』『組織的な維持管理体制の有無』がカギだと思われます。
私の知る限りでは、その体制がなく、且つ一定数以上の軒数がある、且つ過疎地にあるみなし墓地は今のところないです。
みなし墓地はその地域における共有財産であり、共有部分の維持管理(参道や通路など。霊園であれば管理料によって霊園運営者が維持管理)は当然地域住民の手に委ねられることになります。
そこで、共有部分の維持には『共同体』や『組織』が必要となるのです。

大まかな傾向として、維持できているのは『マチナカ』、維持できていないのは『過疎地』です。もちろん後述③のような例外もあります。
(ここで言う『マチナカ』とは市街地やその周辺部、人口が増加しているような地域を指します。)


➁○○墓地管理委員会(仮名)と○○町内会の違い

前項で「みなし墓地は地域の共有財産」「地域の手で維持される」旨を申しました。なので成り立ちとしては現地住民の共同体(自治会または自然な結束力)で維持管理されてきたものです。
しかし社会の変化とともに、
・空き区画が出来ても需要があるマチナカにおいては人口流入や価値観(特定寺院檀家や神社氏子とは限らないなど)の多様化により、「みなし墓地の守=町内会」とはいかなくなった。
・一方人口が流出している過疎地においては、もともと町内会として守するというよりは「自然な結束力」で守されてきたケースが大半で、今日の空き区画増加・周辺環境の荒廃(隣接耕作放棄地、獣害など)に有効な手立てが取れていないみなし墓地が非常に多い。
となっております。

そこで主にマチナカでは『○○墓地管理委員会(仮名)』というその墓地を管理するための別組織が立ち上げられ、墓地におけるルール作りや区画の出入り、共有部分の管理が行なわれています。

その運営方法は実に様々で例えば、
・管理料を徴収して特定の業者に管理を委託するケース
・空き区画を有料で譲るケース、条件付き無料で譲るケース
・新規希望者は“3世代後まで墓を維持できること”を条件とするケースもお聞きしました
・地元の寺院と相談し、みなし墓地を寺院墓地に登記変更(墓地は自治体か宗教法人しか持てない)、あとはそのお寺に委ねるケース
など、多岐に亘っています。
ただ、これらは総じてその地域が維持発展しているからこそ出来ることです。
過疎地のみなし墓地において空き区画にはタダでも需要は皆無ですし、業者に委託しようという動きもほぼ見られませんし、委託するにも負担を誰々が折半するのか(持ち主不明のお墓多数、分かっていても地元に居ない方多数)、今さら新たに組織的な維持管理しようにも難しい問題がたくさんあります。



③過疎地のみなし墓地で荒れずに維持できているケースは貴重

レアケースではありますが過疎地でも上手く維持管理がなされているみなし墓地もありますのでご紹介します。
現地の方に詳しくお話しもお聞きしました。
ここの場合は自治会主体で一斉お墓掃除の日が決められています。

・会長名で回覧が回ります。
・地元を離れたお墓の持ち主さんもほぼ把握されており、横の繋がりで情報が回るようです(逆に『いつがお墓掃除?』と聞いてくる方も)。
・その中には「自分は行けないけど地元の人にはお世話になっているので…」と差し入れをされる方も居るそうです。(金銭の寄付はお断りしている模様)
「各自のお墓はいつでも各自がすればよい」という考えに基づき、当日は六地蔵さま・参道・通路の掃除、周辺の草刈りをされるのですが、特筆すべき事項として近年はそれに加えて『無縁仏の掃除』『墓じまい後の空き区画管理』もされているそうです。

・良い汗を流しながら会話も弾み、貴重なコミュニケーションの場にもなっているようです。

このような習慣に関して私の感想ですが、
こういう取り組みは古くから習慣づけられてきたからこそ出来ていることである。
・なので大変貴重な好例である。
・やはり人の繋がりが最終的にモノを言う。
・コミュケーションの場自体が失われていっているので、今後ともこの習慣を大切にしてほしい。
・ただしこれを好意的に受け止められない方(田舎の付き合いは面倒くさい等)の存在も考慮しなければならない時代かと思います。

そこで懸念点をお聞きしたところ、
・出て来られる人手の減少と高齢化が進んでいる
・墓じまいによる空き区画増加で負担は徐々に増している
地域の行事という考えに照らせば、「墓じまいしたから関係ない、出なくてよい」という考えは本来正しくない (墓地環境を悪化させる耕作放棄地も同様)
・墓地を荒らさないためにもこの繋がりを長く大切にしていきたい
などと仰っていました。


➃今後の展望(手助けとして外野が出来ることなど)

・基本的には、現地住民の自然発生で成り立ったものを外野はとやかく言う立場ではないと思います。

・前項のようなレアケースを、既に墓地の荒廃が進んだ過疎集落で同じく真似しようとしてもほぼ不可能だと思います(墓所有者の減少と広範囲化、価値観の多様化、そもそも新たに発起するヒトもエネルギーも村にはない)。

「元々山だった所を墓地にしてきたんだから自然に返ればいい」という声は墓じまいをした方からも、現存の周りの方からもお聞きしました。それはそれで一理ある考えだと思います(段々畑や棚田の荒廃自然回帰化と同じような傾向)。

・しかしやはり私が気になるのは『周りの墓じまいによってお墓の維持が困難になっている人の存在』です。

・もう少し踏み込んだ話ですが、前回のコラムで述べた『墓じまいが墓じまいを呼ぶ』とは言いましても経済力がまず必要、維持し続けようにも草刈りなどを自前でやる必要、やれないならシルバー人材センターなどに頼む(この依頼がすごく多いようです)必要、これらが出来ない状態にいる方も居ます。

・社会的弱者を自己責任にするだけでは冷酷だと思うので、最終的にはやはり行政がいくらか救いの手を差し伸べるべきかと思います(霊園墓地を購入された方や無関係の方との公平性は当然担保されるべきことで条件付き)。

私の立場としましては墓じまい相談に来られる方にはこういった事例をお伝えし、なるべく負担を被る方が増えない方向へアドバイスしていくぐらいしか出来ることは思いつかないです(もちろん強要強制は出来ませんので、最適な行動を促すための情報提供)。

・また、良い面も悪い面も含めてこういった現実は報じられず一部分だけを面白おかしく取り上げる墓じまい報道の存在は本当に残念なことです。マスコミが報じない情報を発信することも微々たる力ながら私に出来ることであればと思っております。

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若松慶隆
専門家

若松慶隆(住職)

朝日寺

元銀行員という異色の経歴を持つ住職。多様な価値観でそれぞれの家庭事情に真摯に向き合い葬式や法事などを執り行う。寺の歴史や伝統行事などをHPやSNSで情報発信し、檀家外の人も集う開かれた寺を目指す。

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