屋根ーその①
以前、栃木県の立派なお屋敷を訪ねた時の話です。
天皇や皇太子が利用されたような格式あるお屋敷なので、
先回お話したように建築図面が残されておらず、
建物の管理者も建物の構造について疑問点が何箇所もあったそうです。
私がそのお屋敷に訪ねるのは初めてでしたが、
長年の大工の経験や宮大工の知識によって、
どうしてそのような構造をしているか、管理の方が疑問に思っていた部分も
一目見れば、理由が一発で理解できたのです。
私が建物の造りをひとつひとつ説明して差し上げると、とても感激されて、
私が新潟から栃木まで見学に行ったのに、
途中から、私がお屋敷の中を説明して回るような感じになってしまいました。
私の話がとても勉強になるからと、お昼ご飯の時間も忘れて
ずっと質問攻めが続いたのは、さすがに参ってしまいましたが・・・。
このように、建築の図面は残されてなくても、日本の大工が歴史上培ってきた
建築の技術は、時代が移り変わっても変わらずに伝承されているわけです。
ところが、現代の大工の世界では
建築現場で木材の切断や調整作業を行わない、事前に工場などで木材を成形する
プレカットでの建築が主流となっています。
家を建てる場所はひとつとして同じ場所はなく、気候や環境によって様々です。
日本の大工は、建てる家の状況に合わせて
扱う木材を選定したり、加工したりして、環境と調和する家を造ってきました。
プレカット建築では、そのような工程が短縮され、より効率化が図られた中で
家造りがされており、大工の技術が受け継がれにくい状況が広まっています。
大工の技術の継承を、未来に向けて受け継いでいく仕組みづくりが
必要となっています。