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ペットロスについて

青木紘

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テーマ:長崎の動物病院

ペットロスについて

本日7月7日は当院のアイドル?猫のくろ子の誕生日です。19才を迎えました。人の年齢にすると100才近いくらいでしょうか。くろ子は昨年少し体調を崩し、私も心の準備をしたのですがスタッフの献身的な看護のおかげで元気を取り戻しました。
くろ子19才の誕生日
今朝のくろ子です。

さすがに歩き方は少しおぼつかないですが、今もご飯の時間になると皆の顔を見つめてアピールしてきます。(逆にそれ以外の時間は目を合わせてくれない可愛いツンデレお婆ちゃんです)


今年で当院は開院から17年目に入りました。
犬猫の平均寿命は「アニコム 家庭どうぶつ白書2024」によると、犬は14.2才、猫は14.5才となったようです。(※アニコム社のペットの疫学データ集)

ということは、当院が開院した年に生まれたわんちゃん・猫ちゃんは既に平均寿命を過ぎていることになります。もちろん開院の時から来られ、今も元気にしている子もまだまだいます。しかしながら、お別れをした子もたくさんいます。当院も17年を経てそういったことを実感する年月になってしまいました。

小動物獣医師として仕事をするということは毎年数百頭の新しい子と出合いますが、それが17年経つと逆のお別れも同じだけあります。今まで経験したお別れの回数は一般の方では想像もつかないことかと思います。


今回はペットロスについて書いてみようと思います。


まず私自身のことについてですが、私が小動物獣医師を目指したのは本当にありきたりですが小学生の頃に飼ったわんちゃんが亡くなったことがきっかけになります。もともとわんちゃんが大好きで、何度も何度も母に飼うことをお願いしても許されなかったのが、ひょんなことから迎え入れることになりました。

本当に嬉しくて喜んだことを覚えています。当時の保健所に行き、1匹のわんちゃんをもらってきました。本当に可愛くて可愛くて、嬉しかったことを覚えています。


しかし、家に来て3週間頃から元気が無くなってしまいました。すぐに動物病院に入院をしたのですが、その後1ヶ月の入院生活もむなしく亡くなってしまいました。
ジジョ
その子の写真です。写真はこれ1枚しかありません。

亡骸を家に連れて帰り、兄が作る予定で買ってあった犬小屋の材料をなんとなく形を組みそこに寝かせました。泣いても泣いても涙は涸れることは無く、これほどに悲しい想い出はその後の人生で1度しかありません。翌日、庭にうめてあげることにしました。穴をほりこの子を寝かせたのですが、土をかけてしまうと姿がみえなくなってしまうと思い、どうしてもかけることが出来ずに庭で泣き続けたことを憶えています。40年近く経った今でも当時の本当に悲しい気持ちを鮮明に思い出します。
みちしるべ
実家の庭の隅のその場所です、その時に植えた「みちしるべ」という種類の梅の木は毎年きれいな花を咲かせます。(令和6年11月撮影)


どうして獣医は治してくれなかったんだ。


それならば自分が獣医になって治せるようになってやる、と思い一生の仕事を決めることとなりました。

ちなみに私の実の兄もその時のことがきっかけで獣医になりました。わずか1kg程度のわんちゃんとすごした1ヶ月が2人の子供の人生を決めてしまうほどの影響があったということだと思います。

実家ではあまりに私が立ち直れなかったのを見かねてか、その後に2頭わんちゃんを飼うこととなりました。
むくはな
この子達はともに16才まで生きてくれました。亡くなった時は私は獣医になっており関東で仕事をしていました。兄が実家の近くで動物病院を開院していたため、兄と母が看取ってくれ、後悔は無い最期でした。


以上が私自身のペットロスの経験です。


大切な人を亡くした悲しみに大小があるかということを測ることは難しいと思いますが、先の自分の経験上でも、わんちゃん・猫ちゃんが亡くなってしまった飼い主様をみていてもそういった違いはあるように感じます。


突然訪れてしまった別れなのか、老衰だったのか、病名がわかっていたのか、診断ができない病気だったのか、病院で最期をむかえたのか、自宅で看取ったのか、


穏やかな最期であったのか。


これらのことによって、ペットロスの違いはあるように思います。


ペットロスとは違いますが、実家にいた時に実の祖父の介護を少しだけした経験があります。偉そうに介護といえるほどではありませんが、私は両親が共働きだったため祖父の晩年は子供たちと祖父しか家にいない時など、身長170cmほどあった祖父の両脇を兄と二人で抱えてトイレに連れて行ったり、その途中で漏らしてしまったりといった程度です。


悲しみの大小の例えとしてふさわしくありませんが、祖父が亡くなった時はもちろん悲しかったですが、ほっとした気持ちを感じたことも正直な気持ちです。


もう一つ別の話しになってしまいますが、先に書いた私の人生でもう一度あった悲しいことですが、私は17年前の開業した年に息子を亡くしています。それは気が狂いそうになるほどの悲しみでした。

産まれる前から疾患はわかっており、妻は大学病院に入院しそこから更に転院し出産することになったのですが、予定した機材が使用できないまま出産することになり、産まれてすぐに亡くなってしまいました。

病気は理解しており、最善を尽くしたかったのですが機械の都合がつかなかったということで気持ちの整理はつきませんでした。



納得できる亡くなりかた、という表現が適切かどうかはわかりませんが、納得できる亡くなりかたに診断・治療が間違いなかったかどうかということはその後の気持ちの整理に大きく関係すると考えます。



私が診察する患者様も同じだと思います。



少しペットロスから話しがそれてしまいましたが、飼い主様のペットロスを防ぐために私が行うことは日々研鑽を重ね可能な限り正しい診断・治療を行うべく努力すること、そして飼い主様に理解してもらえる説明をすること、これこそが飼い主様のペットロスを和らげることにつながるのだと考えます。


もう一点ペットロスにならないように飼い主様が出来ることとして付け加えたいことは、健康診断を受けましょうということです。ここでいう健康診断というのは獣医による視診・触診だけではなく、人間ドックのような血液検査・画像検査(レントゲン検査・エコー検査)・尿検査・便検査などです。家族であるわんちゃん・猫ちゃんができるだけ苦しい思いをしないように早期発見・治療することはもちろんですが、ペットロスに一番大きく影響する事柄は後悔することだと感じます。後悔しないためにはできるだけ病気を早期に発見し、理解・治療を行うことが重要だと考えます。


獣医の間でよく言われる動物病院あるあるの一つに、初めて動物病院に来る患者さんは獣医はパッとみて全ての病気がわかって、そして注射1本で病気は治ると思って来院する方が多くいらっしゃいます。

しかし実際にはそんなことはありません。もちろん問診・視診・触診・聴診だけで確定できる病気もありますが、そうではない病気も数多くありますし、希な病気も当院の規模でも日常で普通に遭遇します。話しもできない患者様を視診と触診だけで全て確定診断することはできません。そんなことができれば高額な医療機器もいらないですし注射一本で治れば人の難病も存在しないでしょう。そんなことは現代医学では不可能です。

加えて動物医療の場合、人間ほどの診断制度はありません。血液検査の項目は人よりもはるかに少ないです。CT検査・MRI検査は人と違い全身麻酔をかけなければできません。脳血管や心臓の冠動脈の造影を直ちにすることもありません。患者である小動物はほとんどが人の幼児以下の体格であり、多くが人の新生児くらいかそれよりも小さい体重しかありません。小さな出血が人で体重換算すると大出血です。

そして前提として動物は話ができません。また我々獣医師は動物にとっては嫌なことをする敵と認定されます。動物は本能で敵に対しては体調が辛くても弱いところを見せないように隠そうとします。ということは検査に協力的な患者さんばかりではありません。全力で殺意を向けてくる相手の採血や処置をすることも日常です。自分からお薬を飲んでくれることもほぼありませんし、しぶしぶ療法食も食べてくれません。安静にしないと危険な状況でも安静にしてくれません。

さらには私は長崎に来る前は東京で勤務医をしていましたが、東京は動物の二時診療施設もたくさんありましたが、長崎には二時診療を受け入れる獣医大学病院などはありません。最も近い大学で山口大学になります。また一般開業獣医師は人医のように専門科が別れていることはまれであり、多くの開業獣医師は内科・外科から皮膚科や泌尿器科、眼科・歯科から脳神経そのほか全科診療を行っています。

私と妻の身内には一般内科・循環器内科・呼吸器内科・消化器外科・整形外科・小児科・産科の医師と、薬剤師・看護師がおりますが、それぞれの専門科の知識は人医にはもちろん敵いません。

これらのことから地方の動物病院というのは人の場合で例えると、大学病院などない離島の診療所で言葉の通じない外国人の新生児を診察する。という状況と思っていただければと思います。こういった理由から動物医療はある意味人医よりも難しいとも言えようかと思います。



また話しがそれてしまいましたが、ただしこれらは言い訳でしかありません。


患者様にはそんなことは関係ありませんし、また今まで私が全て100%正しい診断・治療ができていたとも考えていません。


結論としまして、私がするべきことは一頭でも多くの患者様を助けられるように、そして飼い主様のペットロスを和らげるために、


常に勉強を継続し情報をアップデートすること、また必ずしも全てを自分一人で診断・治療を行うことが正しいはずも無く、県内・県外問わず得意な診療科目を持つ先生との繋がりを出来る限り持ち、不明なことは速やかに相談、必要であれば紹介することが患者様にとって大事なことだと考えます。



日々の診療を誠実に頑張っていきたいと思います。



当初書こうとしたことと方向性が変わってしまい、いつも以上にまとまりの無い文章になってしまいました。

最期までお読みいただきありがとうございました。



病院日誌も更新しました。よろしければそちらもどうぞ。

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青木紘
専門家

青木紘(獣医師)

平野町ペットクリニック

インフォームドコンセント(患者様と状態や検査内容について充分に話し合い治療方針を決めること)を大切にしています。また 非常勤獣医師による循環器(心臓)専門診療を実施しています。

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