フィラリア症(犬糸状虫症)予防について②。実は猫ちゃんも要注意ですよ。
今年も数日を残すのみとなり、心も街もせわしくなる年の暮れになりました。
思えば元日に能登半島地震が発生し、いつ何時自身が遭遇してもおかしくない自然災害の恐ろしさを年始から思い知る年となってしまいました。
そこで、あらためて被災した際のペットとの避難対応について考えてみようと思います。
私自身は大きな災害に被災した経験は無いため、実際の現場にそぐわない内容の可能性はあろうかと思います。私個人の経験は以前2016年に発生した熊本地震で被災したわんちゃん・猫ちゃんの健康管理を、大分県に設置されたペット救援センターまで獣医師会からの要請でボランティアに行った程度の経験しかありません。あくまでそれらを踏まえた程度ですが、考えられる範囲での災害時における動物避難準備について考察してみようと思います。
私が考える重要な避難準備は、
1.「避難所での避難を想定・想像すること」その上で準備をする。そして可能であれば
2.「被災時に一次預かりをしてもらう少し離れた場所に住む人(友人・親戚等)を前もって探しておく」です。
先に2からお話ししますが、可能であれば被災時に一次預かりをしてもらう少し離れた場所に住む人(友人・親戚等)を前もって探しておくことが最も有効だと考えます。
難しい方もいらっしゃるかと思いますが、できればお互いにわんちゃん・猫ちゃんがいるご家庭が良いと思います。どちらかが被災した場合にお互いで預かる約束をしておくと良いかもしれません。更に可能であれば一人では無く何人かとお互いに約束ができれば、なお安心だと思います。ペット不可のお住まいの問題も、ペットをお世話することも慣れているために安心して預けることができます。他にも被災地域では常用薬の確保も困難になることが予想されますが、預けた先の動物病院で処方してもらうことができます。
後述する1の避難所での同行避難はなかなかに難しいことが多くあります。ペットと一緒にいたいと思う気持ちはもちろん理解できますし、飼い主と離れることで動物が不安定になってしまうことも考えられます。しかしながら人と動物の命や健康を確保するという目的では、同行避難よりも安全な場所で一次預かりをしてもらうことのほうが良いと私は考えます。
次に、1の「避難所での避難を想定・想像すること」その上で準備をすることについて、避難所での同行・同伴避難を想定し考えます。
最近はペットを連れての避難所の問題で、同行避難・同伴避難ということが言われはじめています。(※同行避難とはペットを連れて避難行動をするという意味であり、避難所で人とペットが同じ空間で過ごすことを同伴避難といいます。)
ペットと一緒の空間で過ごせる同伴避難は現実的には非常に難しい問題が多く、まずそれを想定した避難は難しいと考えておく必要があります。
下記のリンクは長崎県の令和6年7月の大雨時の同行避難所(※同伴避難ではありません)の案内と、長崎市の同伴避難への提案と回答(令和2年10月)になります。
長崎県のペットとの同行避難所の案内(PDF)(令和6年7月)
https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2024/07/1720420040.pdf
長崎市への市政への提案と回答(令和2年10月時点)
https://www.city.nagasaki.lg.jp/n_city/iken/detail.php?id=3601
上記の市政への提案と回答を読んだあとの感想は、動物を飼っている人とそうでは無い人とで大きく異なると思います。私の考えとしては長崎市の回答は納得できます。
獣医師という職業は時折勘違いされますが、獣医師は動物の味方であり、必ずしも飼い主の味方ということではありません。獣医師の仕事には病気を治すことだけではなく、動物の適正飼育を指導するということも含まれます。これはわんちゃん猫ちゃんだけでなく、鳥やその他の動物を飼育するにあたり、その対象動物が肉体的・精神的に健康でいられるような飼育方法を指導するということに加え、人と飼育動物が共生するための飼育環境を考えるという役割もあります。
避難所はわんちゃん・猫ちゃんだけでなくそれ以外の動物を飼ったことがある人の数よりも、動物を飼ったことが無い人、動物にアレルギーがある人、動物が怖い人、元々好きでは無い人、のほうが割合は多いです。またアレルギーとは、肌が痒いとか鼻水が出るという症状だけを想像されることがありますが、大げさでは無く命に影響するレベルもあります。
またアレルギーの問題だけでなく鳴き声や臭いなどは、不安な避難生活のなかで動物が苦手な人はもちろん多大なストレスとなりますが、ペットを飼っている方であっても他人のペットが常に吠え続けたり、手入れをされていないわんちゃんの臭いや猫ちゃんの排泄物の臭いなどは許容できないと感じてしまうことは容易に想像できます。
あくまで専門家として動物とその周りの事象に長年携わってきた私の考えではありますが、ペットを飼っている方はそういった苦手な人の感覚を理解されない傾向を多分に感じます。
もちろん行政でも同伴避難場所が設置が可能かどうかは検討されているとは思います。しかしながら、やはりなかなか困難だと思うので飼い主様ご自身で避難時の対応を想定され準備しておくことが重要だと思います。
2の「被災時に一次預かりをしてもらう少し離れた場所に住む人(友人・親戚等)を前もって探しておくこと」が難しい場合は、ありきたりですがまずは人間の避難準備と合わせて「わんちゃん・猫ちゃんの避難用品を準備しておくこと」を必ず行いましょう。
具体的には下記の3点を最低限の準備として行いましょう。
1)フード・水・薬の準備
実際に被災した場合、人の分の食料や水すら無い状況でペットの食料や水を確保することは難しいでしょう。また療法食や薬が必要な場合は更に困難だと思います。フードは普段からストック分を確保しておき、日常で消費期限でローテーションさせておきましょう。
2)わんちゃんの場合ロングリードとペグ(リードを地面に打ち付ける杭)または大きめのサークル・排泄物処理用品、猫ちゃんの場合大きめのケージやトイレなども避難用品として準備しておく
同行避難では避難所内ではペットはキャリーから出せません。準備をしておかないとキャリーの中だけで過ごすことになってしまいます。また排泄をした場合の掃除用品やゴミ袋などもその場で確保するのは難しいため、ペットシーツと合わせて準備しておきましょう。
3)ワクチン、ノミ・ダニ予防、マイクロチップの装着
当院へ来院される患者様だけをみても、ワクチン接種をされていない動物は多くいます。そういったペットと同じ空間で避難することになった場合、未接種はリスクになります。ノミ・ダニなどは多い季節は毎日みます。ノミ・ダニは痒いだけでなく人に移る感染症を媒介し、そしてそれは希な事象ではありません。またマイクロチップが装着してあれば、仮に離れ離れになってしまっても、リーダーが動物病院や動物管理センター、警察にもあるため、すぐに飼い主情報は確認できます。
以上が私が考えるペットとの避難準備になります。
熊本地震のペット救援センターへボランティアにいった時に、ペットの被災・避難状況について、九州動物福祉協会・九州災害時ペット支援センター・熊本県獣医師会・大分県獣医師会・長崎県獣医師会・長崎県庁にヒアリングを行ったのですが、実際の現場は想像を絶するほど混迷した状況であり事前に想定することは困難であるとの感想を持ちました。
しかし東日本大震災で被災した動物病院の友人の獣医師の話しなどを聞いたうえで、出来ることを準備するしかないという結論に至りました。完璧な準備など不可能ではありますが、来たるべき時に備え個々人ででき得る限りの準備と心構えを行いましょう。
これは私自身にも言えますが、
やらなきゃな、では無く今すぐに準備を行いましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
病院日誌も更新しました。よろしければそちらもどうぞ。