塾長の考え(塾)その6
「人を見ない、数字を見る」
23歳で塾長になった私は、
「成績が上がらなければ塾ではない」
という言葉をチラシに書いた。
本心だったし、今もそう思っている。
しかし、
この言葉をおもしろくないと思う、
他の塾長たちもいたのは事実だ。
「なにを生意気な」
「大学卒業したばかりで偉そうに」
「もともとある塾をなめているのか」
このように言われた。
彼らからすれば私が怖いわけではない。
だから平気で聞こえるように言う。
「えらい自信だな…」
「若いって、いいなぁ」
「お手やわらかに頼むよ」
そう言ってくる塾長たちもいた。
この方たちとはいつどこで会っても、
笑顔であいさつできたし、
実際にやさしく接してくれた。
実際に、
いっしょにご飯を食べたときは、
「きみは若いんだから食べなさい」
自分のとんかつ定食のとんかつ、
それから3切れ分を私の皿に、
「ほら」
とくれた塾長もいたし、
私の趣味が将棋だとわかったら、
「遊びにおいでよ、一局しよう」
と言ってくれて実際に私が行ったり。
将棋の対局をしながら、
「今は若くても人生はあっという間だよ」
とか、
「早く結婚しなさいよ」
「1人じゃ大変だよ」
「夜食はひかえめにね」
などと業界の先輩として、
温かいアドバイスをくれた方もいた。
あれから30年が過ぎたのだ。
「数字だけを見て全部判断する」
「テストに出るところを暗記させる」
「とにかくテスト範囲を3回繰り返す」
「生徒が自宅で勉強するはずがない」
「少しでも多く塾に来させれば勝ち」
成績を上げたくてしかたがなかった私は、
がむしゃらに毎日頑張った。
なるべく休まないで働いた。
「生徒の笑顔を見るのが楽しかった」
これは事実だったが、
塾は生徒の成績を上げるところだ!
という強烈な信念が、
毎日はたらく最大の原動力だった。
毎月増える塾生の自転車の数を、
こっそりと数えに来る塾長さんがいて、
「いったい君は何を塾でやっているの?」
と真顔で聞かれたこともあったし、
別の塾長さんからは、
「いずれ俺たちを全部つぶすつもりだろ?」
と笑いながら冗談っぽく言われたりもした。
小学生はとくに何もない。
中学生の場合は学校の成績が、
「番数」という形で出てくる。
だから、
「番数」が上がる指導をすれば、
いくらでも生徒は集まってきた。
「自分のやっていることは正しい!」
そういう確信しかなかった。
23~24歳のころの話。
やはり、
まだ考えが単純かつ浅はかで、
バカだったと言える。
(続く)