塾長の考え(塾)その9
昨日のこと。
新規の方に予備校の説明をしているときだった。
「ああ、Z(兄)くんね!」
電話がかかってきたなと一瞬思ったが、
私は説明の途中。
スタッフの1人が電話に出た。
このブログに先日登場した「Zくん」は中3生。
電話をかけてきたZ(兄)くんは、
この「Zくん」のお兄ちゃんで高3生相当になる。
「相当」と言った理由は、
彼が〇〇高校文科情報科をやめて、
北斗塾予備校で勉強してきた生徒だからだ。
毎日、月曜から金曜の、朝から晩まで。
高校をやめなくてはいけなかったとき、
本人はかなりつらかっただろう。
せっかく努力して頑張った末に入学した、
県内屈指の名門校。
彼がどれだけくやしくてつらかったか。
それは彼のみが知るところ。
しかしながら、
つらかったのは彼だけではない。
彼のご両親の当時の心境はいかばかりか…。
そんなZ(兄)くんからの電話だ。
目の前にいるお母さんと娘さん、
予備校の説明を聞きに来ている方たちへの、
話がその瞬間、中断する。
「ちょっと、ねぇ、結果は!?」
私はスタッフに声をかける。
大学合格の発表の時刻はとうに過ぎている。
その結果を知らせるための電話なのは明白。
「ああ、うんうん、そうね、うん」
スタッフがZ(兄)くんとしゃべっているのだが、
いつまでたっても肝心なことを言わない。
聞こえない。
「ちょっと、ねぇ、結果は!?」
私が再度スタッフに音量を上げた声をかける。
「うんうん、塾長がどうだったかって言ってるよ」
「うんうん、いや、今教えろって言っているよ」
「いや、もう今すぐと言っているよ」
スタッフとZ(兄)くんのやり取りが続く。
じつにもどかしい。
このやり取りはおそらく20秒もなかっただろう。
だが、私にとってはあまりにも長く感じた。
「来てから言うそうですよ」
「違う、今だよ」
「Z(兄)くん、塾長が『今』だって…」
「…」
「…、あ、そうなんだね」
スタッフがようやく結果を聞き出した。
「合格したそうです」
早く言ってほしいんだよね、そういうこと。
Z(兄)くんは直接こちらに来て言いたかった、
直接私の顔を見て言いたかった、
まあ、そういうことなんだろうけど、
そんなこと待てるはずないでしょ、そりゃ。
ハッと気が付く。
目の前の新規の親子を放置していたことに。
スタッフと私の一連のやり取りを、
ずっと見られていたことに…。
「あ、えっと…、失礼しました(苦笑)」
それから2時間以上たっただろうか。
私がまた別の方たちとの面談を終わらせると、
先ほど電話をうけていたスタッフが言ってきた。
「塾長、Z(兄)くんがずっと待っていますよ!」
「え、そうなの!?」
「そうですよ、ずっと前から来てますよ」
30分以上は待たせていたらしいが…。
足早に彼が待っている部屋に行く。
そこには彼が待っていた。
「お~、待たせたみたいだね」
「いえ、大丈夫です!」
ゆっくりと私から差し出した右手。
それに呼応して、
彼が私の方に手を伸ばして、
握手した。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「お母さんには報告したんだよね」
「はい、もちろん、電話で」
「お母さんは何て言っていた?」
「『おめでとう』って言ってくれました」
「そうか、それはよかった」
「泣き崩れていました」
「そうか泣き崩れていたか……、え、電話だろ?」
「はい、電話で」
「何で『泣き崩れた』のがきみにわかるの??」
「声でわかりました」
「ああ、そういうこと…そうか」
「もう泣いて泣いてって感じでした」
「…そうか」
「まわりに人がいるから『もう切るね』って」
「ああ、職場だったってこと?」
「そうです」
「そうか…、で、お父さんには?」
「もちろん報告しました」
「で、お父さんは何て言っていた?」
「『良かった、良かった』とずっと何度も…」
「そうか、お父さん…よかったね」
何度も面談をしてきたので、
Z(兄)くんのお母さんとお父さんの2人の顔が、
2人の喜んだ様子がハッキリと目に浮かぶ。
人生はいろんなことがある。
それはどんな立場の人であっても。
辛いことも楽しいことも起きる。
あの日あのとき悲しみのどん底で涙しても、
そこから巻き返してうれし涙を流す日も、
このようにまたやってくるのだ。
だから今はどんなにつらくても、
誰でも未来に希望をもって、
明るく生きていかなければいけない。