塾長の考え(理想と現実)③
昨日のこと。
新規の方に予備校の説明をしているときだった。
「ああ、Z(兄)くんね!」
電話がかかってきたなと一瞬思ったが、
私は説明の途中。
スタッフの1人が電話に出た。
このブログに先日登場した「Zくん」は中3生。
電話をかけてきたZ(兄)くんは、
この「Zくん」のお兄ちゃんで高3生相当になる。
「相当」と言った理由は、
彼が〇〇高校文科情報科をやめて、
北斗塾予備校で勉強してきた生徒だからだ。
毎日、月曜から金曜の、朝から晩まで。
高校をやめなくてはいけなかったとき、
本人はかなりつらかっただろう。
せっかく努力して頑張った末に入学した、
県内屈指の名門校。
彼がどれだけくやしくてつらかったか。
それは彼のみが知るところ。
しかしながら、
つらかったのは彼だけではない。
彼のご両親の当時の心境はいかばかりか…。
そんなZ(兄)くんからの電話だ。
目の前にいるお母さんと娘さん、
予備校の説明を聞きに来ている方たちへの、
話がその瞬間、中断する。
「ちょっと、ねぇ、結果は!?」
私はスタッフに声をかける。
大学合格の発表の時刻はとうに過ぎている。
その結果を知らせるための電話なのは明白。
「ああ、うんうん、そうね、うん」
スタッフがZ(兄)くんとしゃべっているのだが、
いつまでたっても肝心なことを言わない。
聞こえない。
「ちょっと、ねぇ、結果は!?」
私が再度スタッフに音量を上げた声をかける。
「うんうん、塾長がどうだったかって言ってるよ」
「うんうん、いや、今教えろって言っているよ」
「いや、もう今すぐと言っているよ」
スタッフとZ(兄)くんのやり取りが続く。
じつにもどかしい。
このやり取りはおそらく20秒もなかっただろう。
だが、私にとってはあまりにも長く感じた。
「来てから言うそうですよ」
「違う、今だよ」
「Z(兄)くん、塾長が『今』だって…」
「…」
「…、あ、そうなんだね」
スタッフがようやく結果を聞き出した。
「合格したそうです」
早く言ってほしいんだよね、そういうこと。
Z(兄)くんは直接こちらに来て言いたかった、
直接私の顔を見て言いたかった、
まあ、そういうことなんだろうけど、
そんなこと待てるはずないでしょ、そりゃ。
ハッと気が付く。
目の前の新規の親子を放置していたことに。
スタッフと私の一連のやり取りを、
ずっと見られていたことに…。
「あ、えっと…、失礼しました(苦笑)」
それから2時間以上たっただろうか。
私がまた別の方たちとの面談を終わらせると、
先ほど電話をうけていたスタッフが言ってきた。
「塾長、Z(兄)くんがずっと待っていますよ!」
「え、そうなの!?」
「そうですよ、ずっと前から来てますよ」
30分以上は待たせていたらしいが…。
足早に彼が待っている部屋に行く。
そこには彼が待っていた。
「お~、待たせたみたいだね」
「いえ、大丈夫です!」
ゆっくりと私から差し出した右手。
それに呼応して、
彼が私の方に手を伸ばして、
握手した。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
「お母さんには報告したんだよね」
「はい、もちろん、電話で」
「お母さんは何て言っていた?」
「『おめでとう』って言ってくれました」
「そうか、それはよかった」
「泣き崩れていました」
「そうか泣き崩れていたか……、え、電話だろ?」
「はい、電話で」
「何で『泣き崩れた』のがきみにわかるの??」
「声でわかりました」
「ああ、そういうこと…そうか」
「もう泣いて泣いてって感じでした」
「…そうか」
「まわりに人がいるから『もう切るね』って」
「ああ、職場だったってこと?」
「そうです」
「そうか…、で、お父さんには?」
「もちろん報告しました」
「で、お父さんは何て言っていた?」
「『良かった、良かった』とずっと何度も…」
「そうか、お父さん…よかったね」
何度も面談をしてきたので、
Z(兄)くんのお母さんとお父さんの2人の顔が、
2人の喜んだ様子がハッキリと目に浮かぶ。
人生はいろんなことがある。
それはどんな立場の人であっても。
辛いことも楽しいことも起きる。
あの日あのとき悲しみのどん底で涙しても、
そこから巻き返してうれし涙を流す日も、
このようにまたやってくるのだ。
だから今はどんなにつらくても、
誰でも未来に希望をもって、
明るく生きていかなければいけない。