塾長の考え(集団授業の落とし穴)②
浪人することは勇気がいる。
初めて浪人生を指導したのは、
私が23歳で独立直後だった。
そう塾長1年目である。
近所の高3生のBくんが受験に失敗。
私の母親が近所付き合いのあった、
Bくんのお母さんに声をかけたのだ。
その縁で来たのがBくん。
まじめで普通に学習を頑張る生徒。
簡単な指導以外はほとんど自習。
簡単な指導とは質問に答えるだけ。
特にプランも立てなかった。
(当時の私にその技術がなかった)
それでも1年後には広島大学に合格した。
「合格、おめでとう!」
ハッピーな結末で終了。
要するに、
Bくんが単に優秀な生徒であって、
勝手に勉強して勝手に合格していく。
たったそれだけのことだった。
ほとんどの予備校はこれをやっているな、
そう確信したのはそれから13年後のこと。
成績のいい生徒にはドンドン割引の金額を、
お母さんたちに伝えては焦らせる。
「今だけですよ」と。
「寮がなくなっては大変ですよ」と。
「〇〇割ですよ、特別なんですよ」と。
予備校入学後どれだけ生徒に関心を持つか。
それが長期的指導には大事なのに、
生徒を入れるだけ入れて一安心。
あとは…授業初日を迎えるだけ。
その日が過ぎればもう返金はないから。
4月の後半や5月の半ばになって、
授業が全然わからない生徒たちから、
「(予備校を)辞めたいです!」
そう言われても、
「返金はできませんよ!」
そう答えることができるのは、
予備校授業初日の1時間目のチャイムが、
鳴り終わった後から。
「え、何でですか?」
「予備校は1年契約だからです!」
「え~、塾と違うの!?」
「うちは塾ではありません!」
そんなやりとりがあり、
ある予備校の職員の話によると、
「それ(チャイム)までが勝負ですよ」
そういう話を聞いて驚いたことが、
今となっては懐かしい。
予備校はあくまでも専門学校。
大学入試というハイレベルの問題を、
どうやって解くのか、
その解法をレクチャーするところ。
講師が1人で生徒は80~130人程度。
校舎の環境によって定員は違うが、
紛れもない集団授業。
それも高校とは比較にならないほどの、
大集団授業。
元々成績のいい生徒であれば、
1年後に望むような結果が手に入るだろう。
しかし、基礎学力のない生徒は?
そうやって経験を積んで、
親と子は賢くなっていくしかない。
それを3年間も繰り返した。
それがHKちゃんだ。
彼女が来てからというものの、
彼女が信じていた予備校の常識を、
ことごとく覆していった。
「え、何で?」
「あ、そうか。なるほど」
「え、どうしてですか?」
「あ、そういうことだったんですね」
「え、おかしくないですか?」
「あ、おかしいのはこっちだったんですね」
「え、これでいんですか?」
「あ、これじゃないといけないですね」
「え、それはさすがに…」
「あ、そうなんだ…知らなかった」
こんなやり取りが本当に多かった。
(続く)