塾長の考え(父親)③(終)
お父さんが娘を呼びに行った。
ひとしきり泣いた後だったが、
もう気持ちは落ち着いているようだった。
この日はもうこれ以上話はしなかった。
「よろしくお願いします」
「わかりました、娘さん次第ですね…」
「帰京してからまた娘と話します」
「わかりました」
「また東京から連絡します」
「はい」
「何とぞよろしくお願いします」
「わかりました」
「本当に、よろしくお願いします」
「…はい」
その翌日には電話があった。
娘も納得していると言っているので、
宮崎に行かせたいと。
住む場所を確保しないといけないので、
アパートまたはマンションを探しますと。
そして数日後に彼女はやって来た。
4浪目の勝負が始まろうとしていた。
東京での3つの予備校での経験を経て、
最終決戦は宮崎の北斗塾を選んだのだ。
覚悟が決まった生徒らしい澄んだ目だった。
私自身は意識してこなかったが、
30年間以上も指導をしてきている中で、
初日の生徒の目を見れば、
もう直感的にわかるようになっていた。
この生徒が1年後に合格できそうかどうか、
その判別が。
(…予備校生限定だが)
直感、
無論そんな簡単なことで合格はしない。
しかしながら控えめに言っても、
医学部医学科受験はかなり難しい指導だ。
的確に指導しなければまた落ちる。
専門的なことはここでは述べないが、
気安く「医学部医学科受験なら●●塾へ」、
などと言えるほど講師の戦力が充実している、
そのような塾は宮崎にはほとんどない。
地元の医学部生が講師だから大丈夫、
そんなことでは医学部受験攻略はほぼ無理。
もともと医学部医学科に合格しそうな、
そのような学力レベルの塾生の指導であれば、
バイトの医学部生講師でも大丈夫。
でもその程度ならプロ講師なら普通のこと。
自分の専門分野での対応になるが、
普通にできる、プロだから経験値も違う。
ハッキリ言うが、
「指導者」という立場は、
大学の医学部の生徒なら当然できますよ、
そういうものではないのだ。
むしろ、ほとんどできない。
少し考えてみたらわかるはずだが、
指導して教えて「育てる」となれば、
特に「育てる」という部分で、できない。
講師である彼ら彼女らがまだ子どもっぽい。
母親という大人の立場で考えてほしいのだが、
「育てる」という部分で、
親から仕送りされているバイトの学生講師が、
専門職としてやっているプロ講師よりも、
上手にできると考える方が、
おかしいと気づかなければいけない。
上手くできるわけはないのが現実。
上手くできますよと勘違いさせるのが、
塾の広告戦略の1つだが事実と大きく違う。
あくまでもバイトの医学部生が塾講師、
その場合の本当の「メリット」とは、
身近に本物の医学部生がいることで、
そこの塾生の目的意識が高まること。
生徒の学力を伸ばす教授力だとか、
指導力の勝負となれば話にならない。
それが真実なのだ。
(続く)