ついに、かつてない攻撃態勢が整った
Nくんの自治医科大学合格の報告を受けた同じ日。
Nくんの弟も塾に来ていたので会話をした。
「兄ちゃん合格して良かったね」
「あ、はい! ぼくもさっき知ったんですよ」
「実はさっき兄ちゃんから頼まれたんだけど」
「…?」
2時間前のNくんとの会話。
「先生、これからは僕の弟をよろしくお願いします」
「うん、わかってる」
「いい大学へ弟を通してください」
「うん」
「いや、違うな…」
「ん?」
「弟が望む大学…そこに弟をよろしくお願いします!」
「わかった」
「僕を超えるくらいの学力にしてください」
「うんうん…」
Nくんの弟はとても勉強が嫌いな中学生だった。
成績も順位的にはかなり学年の後方にいる。
「塾なんか絶対に行かない!!」
そう言ってはばからない弟に、兄貴として話をした。
「北斗塾なら必ずお前の希望する大学に行かせてくれるよ」
「北斗塾に入れば絶対にお前だって成績は上がるから!」
そう力説する兄の言葉で弟が勇気を出して無料体験に来た。
無料体験後、迎えに来たお母さんと帰るときになった。
「今日の体験は無事に終わりましたよ」
「どうもありがとうございました」
塾を嫌がるのではと心配していたお母さんの表情が、
その瞬間に明るくなった。
「じゃ、お気をつけて」
「ありがとうございました」
ペコリと頭を下げてから母と息子(Nくんの弟)は、
扉の開いたエレベーターに乗った。
扉が閉まり始めた。
それを見てくるっと振り返って指導室に戻ろうと、
2,3歩あるいた私の頭の後方から声が聞こえてきた。
「お母さん、すっごいおもしろかったよ!」
Nくんの弟の元気な声が扉の向こうから聞こえた。
…あの日から月日が流れ、今になった。
「兄ちゃんがね、弟をよろしくって」
「はいっ! 頑張ります!」
全然勉強しなくて困っているんですよ…。
そうお母さんが嘆いていた息子(Nくんの弟)は、
もういない。
いるのは、私をまっすぐ見つめ返してきた、
やる気がみなぎっているNくんの弟の目だった。
こうして成功物語は連鎖していくのだ。
(終)