塾長の考え(甲子園)その2
「600万まるまる全額ですよ」
「…」
「それでも、先生はまだ断るつもりですか??」
「……」
「先生…、どうですか?」
「わかりました」
「やってくれるんですね!」
「やりません」
お父さんが帰宅後、塾のスタッフを集めてこの話をした。
「600万円って、やっぱりあのお父さんの経済力はすごいですね」
「そうだね」(私)
「理Ⅲは難しすぎますよね?」
「そうだね」
「1年後はどうなりますか、●●ちゃん…」
「私立大学の医学部医学科だろうね」
「塾長にはわかるんですか?」
「わかるよ」
「国立の医学部は1年後でもだめなんですか?」
「いや、地方大学の医学部なら大丈夫だろうね」
「地方じゃだめなんですか?」
「本人ではなくて、お父さんが、ね」
「じゃあ、どこの私立の医学部に行くんだろうか…」
「東京の私大の医学部だね」
「東京の私大…ですか。合格しますかね、●●ちゃん?」
「間違いなく受かるだろうね」
1年後、そのお父さんから電話があった。
某私立大学の医学部医学科に特待で合格したので、そこに行くとのことだった。
「お父さんが大喜びで『うちの娘も医者だぁ』と言っていましたよ」(A先生)
「お父さんも●●ちゃんもそれで良かったんだよ」(私)
「でも、東大理Ⅲはどうなったんですか、あれだけこだわっていたのに!」(B先生)
「お父さんが言うには、東大の勉強は途中でくたびれてしまったそうですよ」(A先生)
「じゃあ、うちでも良かったんじゃないですか、塾長?」(C先生)
「いいんだよ、そういうことを経験して親子ともども、たくさん学んだんだから」(私)
「納得いかないなぁ」(別のスタッフ)
「それで…良かったんだよ、東京でもがんばってほしいね」(私)
(続く)