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戦略コンサルタントが考える有事への対策とは?戦略分析による国際情勢の把握(Part 3)

2022年12月11日 公開 / 2022年12月16日更新

コラムカテゴリ:ビジネス

皆さま、こんにちは

前回のコラムでは、日本の現状と『孫子の兵法』に基づく中国の基本戦略について書きました。

ここでは、戦略分析の一環として、国際情勢の把握をしていきたいと思います。その理由といたしまして、台湾での有事は全世界に影響を及ぼすからです。直接の当事国(例えば中国・台湾・米国・日本など)だけを理解していても、戦略策定の上では十分とは言えません。

日本の有事への対策とは?戦略分析による国際情勢の把握
それでは早速始めます。


1.軍事戦略の分析では、あまり既成概念に捉われない

まずは、全体の情勢を把握する事から始めたいと思います。ビジネスで言うとマーケティング分析(トップダウン)、供給分析(ボトムアップ)、競合分析に当てはまり、孫子の兵法で言いますと『度(たく)・量・数・称』に該当する内容です。

いろいろ考えてみて気づいたのですが、ビジネス戦略の策定と異なり、軍事戦略を策定する場合は、あまり既成の分析フレームワークに捉われない方が良いと感じました。というのも、ビジネスでは商品やサービスと、検討内容がかなり限定されていますが、軍事となると、当事国の情報だけでなく、国際情勢や、軍事以外の経済や資源なども包括的に把握しておく必要があるため、一つ一つの情報量が多すぎて、分析には何か月もかかってしまうからです。さらに個人の立場ですと、軍事関連の機密情報については知る由もありません。

世界情勢が常に変化している中、本が一冊書けるようなコラムを書いても誰も読んでくれないですし、自分も実用的ではないと思うため、様々な分析は頭の中で出来る範囲とし、ひとまとめに書いていきます。

2.有事におけるキープレイ国とは?

まず下記の図に、台湾有事において非常に重要となる利害関係国をまとめてみました。

有事におけるキープレイ国

注:
もちろん、韓国・北朝鮮・フィリピンなども重要なキープレイ国となりますが、地図のスペースに空きがないという理由で記載ができませんでした。


なぜこれらの国々が重要となるのかについて、次の段落から説明していきます。

3.米国の支援無しで、独裁国家の太平洋進出は食い止められない

ご存じのように、民主主義政治を行っている日本・台湾・韓国にとって、現在直接の軍事的脅威を受けているのは、独裁国家である中国・ロシア・北朝鮮となります。

中国については、台湾や日本をはじめ、周辺国に対し経済・情報・軍事などの様々な面で、アメとムチを使い分けながら圧力、懐柔していく戦略を取っています。日本の領海にも度々侵入してきており、意図は明白なため、脅威は年々高まっています。領海への侵入目的は、日本の軍事的対応や地理的状況など、多方面の情報を収集する事で、自国に有利な軍事的状況を想定および作戦構築をするためと思われます。

ロシアについては、過去何十年にも渡って日本の周囲に戦闘機や爆撃機を飛ばし続けています。私たちは長年その威嚇行為を当たり前のように受け止めてきて、慣れっこになってしまいましたが、実際にロシアがウクライナへ軍事侵攻した事で、ただの威嚇行為ではない事に気づきました。なぜ東ヨーロッパ諸国(ポーランド・フィンランド・バルト三国など)に反ロシアが多いのか、学校の授業で学ぶべきかもしれません。機が熟せば、南進して北海道に攻め込むシナリオもあったのでしょうが、幸いソ連は崩壊し、日本は経済大国として世界的な影響力を持ち続け、そして米軍も国内に駐留していたので、平和が長く続いたのかなと思います。今のウクライナの状況を見ていると、特にそう思います。

北朝鮮については、日本や米国にとっての主な脅威は弾道ミサイルとなり、韓国にとっての脅威は短距離弾道ミサイルと100万人超の陸軍兵力かと思います。国際的に経済的影響力が小さいためか、ロシアや中国と比較しますと、国際社会ではあまり問題視されることがないようです。単独で北朝鮮が戦争を始めるというシナリオは、おそらく当事者にとって何のメリットも無いので、今の段階ではちょっと考えづらいです。それよりかは、裏で繋がっている中国やロシアと連動して行動を起こすでしょう。

これら独裁国家の国土の大きさ(資源の多さ)や人口・軍事費の多さを考えますと、日本・台湾・韓国だけで太平洋への進出、影響力拡大を食い止められるものではありません。

4.景気後退による国際情勢の変化に、日本は対処していく必要がある

そうなりますと、頼みの綱は米国となるわけですが、近年は景気後退の兆候が随所で見られる(アマゾン従業員の大量解雇など)ようになり、国際社会での経済的影響力も以前と比べると弱まっているようです。今後は、それが軍事的な影響力にも及んでくる可能性は十分にあります。

ちなみに、定期的にチェックしているお気に入りの(というか尊敬している)米国人ユーチューバーがいるのですが、その人の動画を見ていると、アメリカ国内もいろいろ深刻な問題を抱えているのが良く分かります。社会が疲弊しつつある以上、今までのように唯一の超大国として、その地位を維持し続けるのは難しいかもしれません。米国との同盟関係はこのまま堅持するにしても、国防をアメリカにおんぶ抱っこしてきた状態からは、そろそろ目を覚ます時期に来ていると私は思います。

5.国内リソースを駆使し、主体的に友好国と関係強化を進めていく

なので、日本も主体的に他の友好国と連携を強化していく必要があります。国内政治力・外交力・情報力・経済力・軍事力など、国としての能力をうまく駆使し、自国の利益に繋げるための判断力、そして実行力が政治家や官僚に問われます。もし人気取りが得意で、政治の実務能力が弱いのであれば、少なくとも優秀な秘書や参謀がそばに付いていなくてはなりません。

詳しくは次回以降のコラムで述べますが、米国以外でまず関係強化を優先すべきは、AUKUSとしてアメリカと軍事同盟を結んでいるオーストラリアとイギリスです。その次にQUADとして日本と一緒に参加しているインドが、地政学的に非常に重要なポジションとなります。もちろん、ファイブアイズのニュージーランドやカナダ、そして同じ西側諸国であるドイツやフランスなどのEUとの連携強化を模索していく事も大事です。これが基本の外交戦略となります。

さらに理想を言えば、環太平洋同盟のような、国益を共有する島国が一致団結出来れば良いのですが、中国はそれを見越してすでに楔を打っている(インドネシアやソロモン諸島など)ので、台湾沖で戦闘が起きたら、中立を維持する国も多いのかなと感じます。日本の外交力の弱さが、国防にも影を落としているのが分かります。

6.日本と台湾は一蓮托生

亡くなられた安倍元首相が、2021年12月1日の台湾シンポジウムで、「台湾有事は日本有事」とお話されましたが、私もそれは正しいと考えています。

下の地図を改めてご覧いただきますと、日本と台湾は地理的にそれほど離れているわけではないため、両国は一蓮托生と思った方が良いです。

国際政治・外交戦略
仮にもし、台湾が中国の手に落ちれば、アメリカの想定している防衛ラインがグアム周辺の第二列島線まで下がるので、中国は日本に対し、圧倒的に有利な立場となります。例えば、日本の政治家が中国へちょっと反抗的な意思を見せれば、簡単に部分的な経済封鎖を仕掛けることが可能となり、レアアースや原油などの資源および食料が満足に輸入出来ず、日本は厳しい状況に追い込まれる事になります。

7.まとめ

今回はあまり長くならないよう、ここまでとしておきます。台湾有事への対策を具体的に考える前に、まずは国際状況をざっくりとでも把握しておく事が重要です。

次回は東アジア・環太平洋情勢について、詳しく見ていきます。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

8.参考にした資料

● BBC:中国、ソロモン諸島と安保協定を計画 オーストラリアの「裏庭」に足がかり
  ○ https://www.bbc.com/japanese/60923628
● REUTERS:ソロモン首相、中国の軍事拠点化認めずと説明 豪首相と会談
  ○ https://jp.reuters.com/article/australia-solomon-islands-idJPKBN2R110C
● Fact Sheet: Quad Leaders’ Summit
  ○ 説明:アメリカホワイトハウス公式HPより
  ○ https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/09/24/fact-sheet-quad-leaders-summit/
● 『孫子』
  ○ 浅野祐一著、講談社学術文庫

この記事を書いたプロ

味水隆廣

財務分析を経営戦略につなげる国際ビジネスのプロ

味水隆廣(漸コンサルティング)

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