【集中講座9&10】エクセルを使ったビジネス戦略、財務分析動画を作成してみました
皆さま、こんにちは
前回のコラムでは、日本の有事、特に近隣国からの脅威に対してどのようなシナリオを想定できるかについて、既存知識を駆使して書きました。今回は一度仕切り直しをして、様々なリサーチを行った上で、考察を深めていきたいと思います。
戦争と言いますと、私たちはまず軍事衝突といった戦闘行為を思い浮かべますが、厳密には経済や情報など、武力を伴わない戦いもあります。軍事行動は通常最終手段です。
そういう意味では、中国やロシアに限った話ではありませんが、すでに様々な分野で戦争を仕掛け、仕掛けられていると考えることもできます。政治・経済・技術・コミュニティ・メディア・ネットなど、脅威が迫っているのは台湾だけではなく、日本も変わりません。
常に状況が変化している中、現時点で正しいことが将来も正しいとは限らず、台湾での選挙や中国での民衆デモなど、外部的要因によっても今の日本が取るべき戦略・戦術は変わっていきます。
もちろん、一旦武力による戦争が始まってしまえば、敵はこちらの虚を突いてきますので、目まぐるしく変わる戦況に対して、リアルタイムな対応が求められます。したがいまして、本コラムや次回のコラムも、あくまで平時における現時点での分析であり対策である事に一応ご留意ください。
ここでは、日本の現状と中国の基本戦略などについて書いてみたいと思います。
それでは始めます。
1.性急なミサイル配備と増税議論
最近、ニュースでも先制攻撃や反撃能力確保のために、長距離ミサイルの購入や、国防費の増大などを大々的に報道するようになりました。10年以上前には考えられなかった事です。
国防費を国民全員で負担するなどの話も出てきていますけれど、基本的に増税ありきの議論には私は反対です。なぜならば、昔と異なり今の日本でさらなる増税に耐えられる人は少ないと思うからです。
敵が侵略してくれば、戦略の専門家(基本分野を問いません)として、戦うくらいの覚悟は持っていますが、これ以上の金銭的な負担については限界と感じます。(希望ある未来世界を見てみたいので、無謀な戦いはもちろんしたくありません)
国民にお金がある内に、現実を見据えてじっくり守りを固めていれば、今頃こんな当たり前の議論をしなくて済んだはずです。今回の長距離ミサイル購入というお話は、中国や北朝鮮の脅威が目の前に迫った途端、突然議論が進みました。なし崩し的に話が決まるのは、民主主義国家としては良くない兆候です。冷静に事前予測のできない、リスク管理の出来ない行き当たりばったりの政治ではいけません。
もし国民にさらなる負担をお願いするのであれば、まずは税金をいくら使っても経済が全然上向かず、結果として国防費も満足に増やす事ができなくなった、現状に対する過ちを、長年国の中枢で務めてきた政治家が自ら認め、その上で国民に理解を求めるべきです。
仮に大金を出してミサイルを大量配備したところで、核兵器を持った敵国の領土内に先制攻撃や反撃が出来るとは到底思えません。敵からの反撃や政治家が責任を取る事を恐れて、結局は最後まで使用できないでしょう。
これが、海上から侵攻してくる敵の軍艦や、海を越えて飛んでくるミサイル・爆撃機を迎え撃つために、対艦・対空ミサイルを大量配備する、という話ならまだ理解はできますが、敵基地を攻撃するための長距離対地ミサイルを配備する場合ですと、必ず核武装とセットでの議論がなされねばなりません。もし核を持たずに敵領土内のいくつかの基地を破壊でもしたら、相手がどのような対応を取ってくるかは未知数だからです。
実際、侵略されたウクライナは、たとえ核武装していなくてもロシア黒海艦隊の旗艦『モスクワ』をネプチューン巡航ミサイルで撃沈し、侵攻してきたロシア陸軍に対してはHIMARS(ハイマース)ロケット砲で攻撃し、飛来してくるミサイルに対してはS-300地対空ミサイルシステムで迎撃していますが、さすがにロシアの領土内に直接ミサイルを撃ち込むことは控えています。侵略をしてくる船・航空機を攻撃するのと、相手の領土内に直接攻撃を加えるのとでは、意味合いが全く異なるからです。
補足:
先日のニュースで攻撃ドローンがロシア領土内の軍事基地を一部破壊したと見ましたので、この情報が正しければ、戦争のステージが変わった可能性はあります。
こういう事はあまり考えたくありませんが、もし日本が核武装をせず、そして弾道ミサイル発射基地を主要ターゲットとするのであれば、撃たれる前にすべて叩かなくてはならないので、例えばトマホーク巡航ミサイルは沿岸部の基地、そして速度が速い弾道ミサイルは内陸部の基地など、武器の特性に合わせて攻撃目標を設定・配備した方が効果的に思います。しかしこの場合、撃ち漏らしが必ず出てくるので、敵からの反撃で日本も甚大な損害を受けるだろう事には、十分覚悟しておく必要があります。
しかしそもそも論として、ミサイルによる敵基地攻撃や反撃は戦術レベルの話なので、日本政府はまず、全体の戦略を示してほしい所です。
日本はウクライナと置かれている状況が似ています。もし核武装をしない道を選ぶのであれば、個人的には攻撃を受けても敵の領土には直接攻撃しない方が無難に思います。下手に長距離ミサイルを敵領土に撃ち込み、結果として核による反撃を受けてしまったら、費用対効果としては最悪だからです。中国やロシアは核兵器の使用基準が西側諸国とは異なるようなので、相手側の理屈で本当に使いかねず、リスクが高すぎます。
いずれにしても、戦術レベルで大量の巡航ミサイルが必要、というお話自体は理解できますが、敵基地を攻撃するならば、速度が速くて射程も長く、破壊力の大きい弾道ミサイルの開発も急がなくてはなりませんし、もし攻守両方の意味で攻撃目標が沢山あるのであれば、一発数億円もするトマホークよりは、10分の1位のコストで運用できる(と思われる)安価なドローン兵器を大量に揃えた方が効果的でしょう。それと大量生産のためのインフラも揃えなくてはなりません。包括的な戦略レベルの議論が必要です。
このように、今の状態でミサイルだけを大量保有することにどれほどの意味があるのか、私には分かりません。全体像が見えない以上、国民全体に犠牲を強いる大幅増税にも賛成はできません。
2.臆病心が全体の不幸を招く
民主国家である日本が抱えている問題は、昔からあいも変わらずシンプルだと思います。しかしそれゆえに、根も深いと感じます。問題は根源的なところにあるので、表層で議論したところで何の意味もありません。国防体制がアメリカ頼りで貧弱なだけでなく、経済がいつまで経っても上向かないのはそれが理由です。
北越の英雄、河井継之助の言葉を借りれば「曲がった鋏(はさみ)で物を切るようなもの」と言ったところでしょう。台湾・米国・英国・日本、いずれの選挙活動・結果を見てみても、民主主義・資本主義の弱点を痛感させられます。
身の危険を感じれば、生物として守りに入るのは当然ですが、それが臆病心から生じた行動であれば、狡猾な敵はその弱点を突いてきますし、大局的には全体の不幸を招くことも学ばねばなりません。
3.日本とウクライナは状況が似ている
先ほど、ウクライナと日本は置かれている立場が似ていると言いました。ウクライナの人々が現在受けている不条理な苦しみは、とても他人事とは思えないです。日本が平和な内に、彼らが経験している事を通して、今まで当たり前だと思っていた事を省みておく必要があります。
本来、国としてのウクライナの規模や地理的条件を考慮すれば、たとえロシアに戦争を仕掛けられても、短期的には対等で戦えるポテンシャルがあったと私は見ています。
なぜかと言うと、ロシアは西・南・東に仮想敵国が存在するため、広大な領土に兵力を分散せざるを得ませんが、一方のウクライナは西側に脅威となる敵はいない以上、東側にのみ兵力を集中させる事ができるからです。
個々の戦場において常に相対的優勢を保持しつつ、各個撃破しやすい地理的条件だけでも、ウクライナにとっては大きなアドバンテージと言えます。ですので、普段から守りを固めて、最初の奇襲攻撃を何とか持ちこたえる事が出来ていたら、時間差で西欧諸国の軍事的援助も期待できたため、国民の被害はもっと抑えられた気がしてなりません。
しかし、機動性の高いミサイルや安価なドローン兵器の戦場投入は、その地理的アドバンテージを覆すことが出来るため、ゲームチェンジャーとして敵側に使われると、非常にやっかいな兵器である事も分かりました。基本戦略はあまり変える必要はありませんが、戦術レベルでは今までの既成概念を大きく修正する必要があり、日本も早急な対策が必要です。
侵略目的の戦争は、必ず段階を経て行われます。普通、敵は相手国に悟られないよう、時間をかけて情報戦・経済戦・技術戦・外交戦を断続的に繰り出し、少しずつ相手を弱らせて戦う意思を奪った上で、機を見て電撃戦を仕掛けてきます。中国が長年かけて行っている戦略がそれです。
対してロシアが当初行おうとした戦略は、ウクライナ国境付近で軍事演習を行う事で、相手の譲歩を引き出すことだったと思います。しかしそれがうまくいかず、(なぜかは分かりませんが)無謀とも言える武力による電撃作戦を採用し、結果として準備不足だったために失敗しました。第三者視点だと、力押し一辺倒で非常にお粗末な戦略に見えます。
一方のウクライナ側も、隣国からの侵略に対し十分な備えが出来ていなかったため、最初のサプライズ攻撃で領土深くにまで入り込まれてしまい、民間人への被害が広がってしまったと考えられます。
軍事戦略として初めに理論を体系化した中国が、ロシアのように単純な戦略を取るわけがないので、日本は気を引き締めて防衛に取り組む必要があります。そうすれば長期的に負けることはありませんし、中国国民の自由に対する平和的デモを見る限り、いずれは独裁体制も変わって、共存共栄の道も見えてくるかもしれません。
いずれにしろ、これ以上国際社会が混沌としないよう、そして、将来日本が同じ轍を踏まないよう願っています。
4.中国の戦略は『戦わずに勝つ』こと
2022年11月15日にインドネシアで開かれたG20サミットの中で、米国と中国の間で緊張緩和に向けた話し合いが行われました。前向きな内容で終わった点は良かったと思っています。両国とも武力による戦争にはしたくないという意思は感じました。
ただ、米国サイドの真意は分かりませんけれど、中国サイドの方は何となく「今はまだ対決の時期ではないし、軍事衝突するメリットはない」という風にも聞こえました。
孫子の兵法では『戦わずに勝つ』事を最上の戦略としています。中国からすれば、軍事衝突をせずとも時間をおけば、政治的・経済的・軍事的に有利に持っていけるという見込みがあるのかもしれません。
真意がどこにあるにしろ、自国を防衛強化するための時間的猶予が生まれたとポジティブに考えるべきでしょう。ここでの防衛強化とは、現実問題として国のリソースが限られている以上、武器や弾薬を増やすだけでなく、国民の間での民間防衛意識を醸成する事も含んでいます。
「治にいて乱を忘れず」
泰平の世でも乱世を忘れない。いつでも万が一のときの用心を怠らないこと。『易経』より
5.経営戦略と孫子の兵法について
上で孫子について言及しましたので、彼の兵法(戦略および戦術)について少し説明しておきます。『孫子』とは、呉王に仕えた兵法家・孫武(そんぶ)、そして斉の威王に仕えた兵法家・孫臏(そんぴん)の書き記した兵法書として今に伝えられています。つまり歴史上、孫子は二人いる事になります。
ご存知ない方のために、一応自己紹介もしておきますと、私は経営戦略コンサルタントです。名前の通り、戦略のプロフェッショナルとなります。得意としているのは、主にビジネス戦略と財務分析です。お客様の事業をサポートするのが仕事となります。
同業者でも知っている方は少ないと思うのですが、ビジネスで活用される経営戦略の知識・ノウハウの多くは、戦争における戦略や戦術を説いた古代の兵法書が基本になっています。
一つ事例を出しますと、ビジネスやマーケティング分析で使用される有名なフレームワークとして、3C(Customer, Company, Competitorの略)がありますが、これは『孫子』の第四章「形編」にある戦略分析アプローチ「度・量・数・称・勝」に基づいて創り出されたと考えられます。
顧客や市場リサーチは度(たく)、自社分析は量と数、競合分析は称(しょう)、そして洞察に基づく提案および経営判断による意思決定が勝(しょう)と、それぞれ対応しており、私の分析アプローチと全く同じになります。このような点から、優秀な戦略コンサルタントは、同時に優秀な軍事アナリストでもある、という仮説が成り立ちます。
ここで誤解を解くために、一般的に『孫子』は戦いの方法を教えているのだから、野心的なビジネスパーソンや攻撃的な軍人に好まれている書物、と考える人もいるでしょう。しかし、それは間違っています。彼は戦いを最初から望んでいるわけではありません。軍事力の行使には極めて慎重であり、理想主義を戒める現実主義の教えで貫かれています。
それは今でいうハウツー本のような具体的なものではなく、抽象論がほとんどです。そのため、現実には役立たないと思う人もいるでしょう。私も30歳頃に初めて読んだ時はそう感じました。しかし、抽象的な内容だからこそ汎用性があり、2000年の時が流れてもなお多くの人に読まれ続けているのだと、最近は分かってきました。
普通、すぐに役立つ知識ほどニーズがあり、世間の注目を浴びますが、その価値は多くの場合時間の経過と共に薄れていきます。『孫子』はその類のハウツー本ではありません。
しかしながらそうは言っても、孫子(孫武や孫臏のこと)が生きていた春秋~戦国時代は、複雑な地形での戦闘を想定しているので、馬で引く戦車よりも、槍や弓を使った機動性の高い兵士が必然的に主体となり、ミサイルやドローンなど、現代兵器を駆使した戦闘を想定している私たちにとっては、そのまま鵜呑みにはできない内容もある事は一応付け加えておきます。
経営戦略コンサルタントであれ、軍事戦略アナリストであれ、然るべき手順で当たり前に勝つ計画および作戦を立てる事が仕事です。どちらも全力で取り組むべき仕事ですが、その違いをあえて言えば、前者はとりあえず挑戦してみて、たとえ失敗してもそれを糧に手法を改善していく事(PDCAサイクル)も可能ですが、後者の場合は最初の戦略的失敗で、自分も含めて多くの人命が失われてしまう可能性があるので、前線で戦う兵士のためにも、想定外という言い訳は許されないという事です。戦略レベルで失敗しそうな作戦を立ててはいけません。机上分析の段階で勝つ見込みを予測した上で、仮説を検証しつつ計画を立てます。
今回の有事に対する分析・対策も、普段使用しているビジネス戦略の知識を応用して考察する事は可能です。しかし相手は中国ですし、今後先方が取り得る作戦行動を予見するためにも、中国の古典的兵法も考慮して書きます。それと、現代戦では後方にいる一般市民でも戦闘に巻き込まれる可能性があり、ちょっとした判断違いは命に関わりますので、内容の精査には少し時間をかけようと思います。
6.まとめ
今回はとりあえずここまでとします。
中国・モンゴルでのデモ発生や、ロシア・ウクライナの情勢変化など、これを書いている途中でも常に状況は変化しています。ですので、出来るだけ汎用性の高い内容とするよう心掛けていますが、それでも時間経過につれて、本コラムの内容的価値が減退するのは避けられません。
前回も書きましたけれど、20年くらい前、オーストラリアに住んでいた頃、中国や台湾の友人とこの件でよく議論していました。そのため、中国共産党の脅威は当時から知っていましたし、ネットでも日本語で問題提起をしていた時期があります。しかし、私自身確信が持てなかったため、いつしか考えるのを止めていました。考えすぎだと思っていた事が、少しずつ現実になりつつあります。でも、今ならまだ大丈夫です。
今回は様々なリサーチを行っています。孫子の兵法から、台湾有事における軍事アナリストの分析、各国の情勢・戦略、スパイ活動の実態、脱北者のお話などいろいろです。さらに、私自身の人生経験や戦略知識を組み合わせることで、自分なりの洞察を導くようにします。
それを次回のコラム以降でお見せできればと思います。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
7.参考にした資料
●『孫子』
○ 浅野祐一著、講談社学術文庫
● モンゴル首都で数千人がデモ 政府高官の腐敗に抗議 インフレへの不満も|TBS NEWS DIG
○ https://www.youtube.com/watch?v=r9UUc_lrG1A