大学入試センター試験についてくわしく知りたい! (6)センター試験は一発勝負
高校在学中に複数回受験でき、その結果を大学入試に活用する「達成度テスト」の導入が、政府の教育再生実行会議で検討されることになりました。報道によれば、1990年以来20年余りにわたって続いてきた大学入試センター試験の見直しを含めた議論になりそうで、大学入試の大改革につながるかもしれないということです。
「達成度テスト」は、高校で学ぶ基本的な知識や思考力を広くみるもので、背景には、私立大学では学力テストを課さないAO入試や推薦入試による入学者が増えており、受験生の学力を把握するための新しい手段を求める強い声があるそうです。
また、先の教育再生実行会議では、「大学入試センター試験のような一発勝負ではなく、高校生の学力をていねいに測る試験を検討すべきだ」という意見がだされたそうです。
さらに、文科省が言うには、「高校生の勉強する動機付けにもなる」ということだそうで・・・。
さて、「達成度テスト」について、すぐに連想できるのが、「高卒認定試験(高等学校卒業程度認定試験)」です。これは昔、「大検(大学入学資格検定)」と言われていたものです。「高卒認定試験(略して“高認”)」はセンター試験ほどの科目選択の幅はないものの、年に2回実施されています。問題レベルはセンター試験に比べると大変簡単で、本当に教科書レベルの理解を問うと言ってよいでしょう。「達成度テスト」が導入されるとすれば、現在の「高認」は「達成度テスト」に吸収され、「高認」のより柔軟で発展した形で実施されるというふうに考えるのが合理的であると思われます。
「達成度テスト」のテスト結果は、高校生にとって、一種の資格のようなものになるでしょう。今でも漢字検定や英語検定、数学検定など様々な検定試験がありますが、もっとダイレクトな資格になりそうです。TOEICなどと同じように、「達成度テスト」での点数が学力証明資格として用いられるようになると思います。そうすると、例えば、「数学I」は今回60点だったけど、次回ではもうちょっと頑張って80点目指そう、というように、「高校生の勉強する動機付け」になるという見方も確かにできそうです。
ただ、その場合に重要なのは、「達成度テスト」のレベルをどこに置くか、ということです。現実を直視すれば、高校段階において、非常に大きな学力差が生まれていることは明らかなことで、例えば、「数学I」という科目をとっても、高校の授業で教える内容は、基礎的な計算レベルにとどまる高校もあれば、大学入試問題にまで踏み込んだハイレベルな授業をする進学校もあります。また、「コミュニケーション英語I(新指導要領)」の教科書を見てみても、中学レベルと見間違うほどの簡単な内容のものから、かなりハイレベルなものまで存在していることから、高校1年に入学した時点ですでに採用教科書によって授業内容に大きな差があるのは確かです。そして、これが高校3年間で大きく増幅されていくわけで、大学入試段階において、同じ高3生といえども、難関大を目指す成績上位層と成績下位層の間には非常に大きな学力差が生じています。
「達成度テスト」は、高校で学ぶ基本的な知識や思考力を広くみるものであるとされていることから、どちらかというと基礎的な内容を問うテストになり、大学入試センター試験よりは簡単なものになると思われますが、その場合、難関大学を目指すような学力上位層は、みな満点近くなってしまって、「達成度テスト」では学力差を見極めることは難しいでしょう。「達成度テスト」そのものにも、学力上位層からは、“あんなテスト簡単だし受ける意味ないわ”と馬鹿にするような風潮がうまれかねません。そのような風潮は「達成度テスト」の権威を劣化させますから、避けなければなりません。ではどうすればいいか?
一つの案として、「達成度テスト」の各科目について、難易度の差をつけ、「基礎」と「応用」の2種類ずつ問題を作成するのがよいのではないでしょうか?例えば、「数学I」という科目について、「数学I基礎」と「数学I応用」というように2種類用意しておき、どちらかを選択できるようにすれば、学力上位層にも学力下位層にも対応できると思います。
教育再生実行会議は、9月をめどに、具体的な制度を首相に提言するということです。是非ご検討いただければ、と思います。
さて、今回は「達成度テスト」について、主にそのレベルについて考えましたが、次回は、回数と大学入試センター試験との関係について考えてみたいと思います。