在りし日の小次郎
潮文庫。上下巻。津本陽。
津本陽の最後の作品である。
明治時代にカミソリ大臣といわれた陸奥宗光の生涯を描いた長編である。
陸奥宗光についてはさほど知識がなかったのであるが、津本陽の作品を読んで感銘を受けた。
薩長閥は明治維新で政権を握ると、やりたい放題をするようになり、自分たちや周辺の人間に政府の金でうまい汁を吸わせるなどしまくった(史実かどうか不明だが、妻を惨殺しても不問に処せられた人物までいる。)。津本陽がこの作品を書いた時、現代日本の政治家たちへの批判もあったのではないかと思うほど、歴史は繰り返すものだと思わせられる。津本陽の描く主人公には、その多くには「私」がない。私腹を肥やしたりすることなく、公のことを考える人物が多い。そうでなければ、津本陽が描こうと思わなかったのであろう。
陸奥宗光の生涯は、私の代表である薩長閥との戦いであり、政権の中で孤立しつつも、日本という国を憂いて国のことを考えて行動した大政治家である。
いずれ総理に任命されると目されていたが、病魔に冒され、53歳という若さでこの世を去った。
陸奥宗光が生きていたら、日本のあり方も変わっていたかもしれない。
名作である。