もう一人の人
成年後見制度の種類
法定された成年後見制度につきましては、「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。
法定後見の場合、既にご本人に判断能力の低下等が生じている状態ですので、通常であれば判断能力に応じて、後見・保佐・補助開始の審判がなされることとなります。
一方で任意後見は、ご本人がお元気なうちに将来の後見人を依頼する「将来型」と呼ばれる内容で任意後見契約をするケースが多く、契約をした時点ではまだ後見人となる立場の方を必要としていないことが一般的です。
この段階におきましては、将来の後見人を引き受ける方は「任意後見受任者」として登記されますが、まだ正式な任意後見人という訳ではありません。
そして、時間の経過と共に本人にその必要性が生じた時、福祉関係者の情報や医師の診断書、ご本人の同意等を踏まえて、家庭裁判所への申立を経ることで任意後見監督人が選任され、任意後見受任者は正式に「任意後見人」となります。
任意後見契約の正式なスタート
任意後見契約の正式なスタート、つまり「任意後見監督人選任申立」の開始時期につきましては、任意後見契約について定めた「任意後見契約に関する法律」第4条第1項で「任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。」と規定しております。
これは、法定後見における「補助人」を選任する時の規定と同じで、補助開始の審判について家庭裁判所のめやすでは、「支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある」としております。
ただ、ご本人の状況が必要性を満たすと思われ、福祉関係者や医師も同様の見解を示している状況になった場合でも、ご本人が同意されない場合は申立を進めていくことは出来ません。(この点は、法定後見における保佐・補助も同様です)
この点につき、ご本人の判断能力に低下が認められてから申立をする法定後見とは異なり、任意後見はその契約をしてから実際に申立を検討するまでに時間の経過(数年以上になることや、判断能力に問題がなければ、申立をしないで亡くなられることも)がありますので、その理由も様々なものが考えられます。
ご本人の急激な変化、申立を検討する時期が遅い等で現状を認識することが難しくなってしまっている、任意後見受任者との信頼関係の破綻、という様なケースもあるかと思いますが、ご自身の変化に不安は感じつつも、戸惑いや寂しさを感じたり落胆したりする思いなどから、同意に至らないという場合も多いのではないかと想像致します。
ご本人とお会いするということ
私が任意後見契約を締結している方は、ご年齢や性別、家族関係も様々な方がおられます。
第三者と任意後見契約をするという背景には、頼れる親族がいない又は事情があってお付き合いがないという方も多く、その後の人生をご一緒する中の一人ということにもなってきます。
その様な状況で、ご本人と後見人は一方的ではなく“お互い”の信頼関係が大切だと考えるところ、それを積み重ねていく為には直接のコミュニケーションしかないと考えます。
現在、何名かの方とは申立を経て正式な任意後見人として日常生活のサポートをさせて頂いておりますが、その申立時のことを振り返りますと、日常生活においてご自身だけで判断や手続等をすること、お金の管理や支払いをすることなどについて、“実際に不安が生じている状況なのか、どうか”よりも、ご本人がそのことについて、どの様に思われているかということについて、何度かお伺いする様にしておりました。
また、任意後見契約の締結後は、ご自身のお気持ちやお考えを「ライフプランノート」に記して頂く様にお願いしておりましたが、病院のお付き添い等の直接の用事が無い場合でも、お会いする機会を出来るだけ持ってご本人のお考えを把握する様に努めておりました。
それは、いわゆる「見守り」の様な機会ですが、世間話等をするだけの時間であっても、ご本人のちょっとした変化を感じられる機会であることに加え、お会いする回数を重ねることで、お互いに安心感の様なものが生まれてくる様に感じたからです。
長いお付き合いの間には様々なことがあり、時には悩ましい状況も訪れます。
それでも、ご本人とお会いして直接そのお気持ちを伺い、福祉関係者や周りの方々とも手を合わせながら、任意後見契約をされた時のお気持ちに沿うことが出来る様、努めていかなければならないと思っております。



