福祉施設への入所について考える
病院への入院、施設等への入所等をする際には、「身元保証人」欄への記入を求められることが一般的です。
身元保証人には、入院・入所後の様々な相談、緊急時の連絡の他、ご本人に万一があった場合のご遺体等の引き取りや費用の支払い等、様々な場面ごとの対応が求められます。
(連帯保証人、身元引受人という呼び名でも、求められる役割はほぼ同じです。)
身元保証人等となる方の多くは親族だと思われますが、一人暮らしの方が増加している現代で、子供がおられない方や、ご事情があって親族と疎遠になっておられる方の場合、身元保証人を頼める人がいない、という悩みを持たれる方も多くおられます。
また、親族が同年代の高齢の方しかおられず、身元保証人等として病院や施設へ対応することは難しいと言われた、という方、配偶者しか身元保証人がいないという場合でも、先方に二名の身元保証人を求められた、という方もおられます。
身元保証人がいなければ?
「身元保証人がいないので、入院を断られた」というお話を聞くことがあります。
この問題につきまして、厚生労働省は各都道府県に対して、「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」という通知(平成30年)を出しておりまして、その中で「身元保証人がいないことのみを理由とした入院拒否は、医師法第19条第1項に抵触する」という見解を述べております。
ただ、この問題はご本人だけではなく、病院や施設なども対応に苦慮する問題となっておりまして、総務省関東管区行政評価局による「高齢者の身元保証人に関する調査」の調査結果(令和4年)では、9割以上の病院・施設が「入院・入所希望者に身元保証人等を求めている」という回答があり、いない場合の対応は、次の様な回答となっておりました。
・入院・入所をさせる 3.3%
(保証金などの条件付きを含む)
・入院・入所をお断りする 15.1%
・成年後見人等の利用を求める 15.6%
・場面ごとに個別の対応をする 60.3%
「成年後見人等の利用を求める」ということは、主に親族等に引き受け手がおられない方に、第三者に“後見人”になってもらい、身元保証人等の役割を担ってもらう、ということになります。
「個別の対応をする」という回答には、ご本人のご家族との関係や判断能力の程度、金銭的な問題など、人によって様々な状況が異なる中、病院や施設等も難しい対応を迫られていることが伺えます。
成年後見制度の利用
成年後見制度の利用にあたりましては、ご本人の現在の判断能力によって、次の二つがあります。
・十分な判断能力がある方
→任意後見制度
・判断能力に不安がある、低下している方
→法定後見制度
(後見・保佐・補助)
認知症や障がいなどの理由で判断能力が不十分な方で、在宅での生活が難しい方の場合、“後見人がいなければ、施設等への入所が難しい”という現実的な問題もありますので、ご本人や親族だけではなく、病院関係者や担当のケアマネージャー、市町村の地域包括支援センター等が、ご本人と相談の上で、後見人の申立を検討することもあります。
また、後見制度を利用する場合、家庭裁判所への申立を経る必要がありますので、最低でも1か月以上は日数を要することになります。
入院などが決まってからの申立では間に合わないことも考えられますので、注意が必要です。
第三者の後見人に求められる役割
後見人は日常生活の中で、ヘルパーやケアマネージャー等の方々と協力し、ご本人の生活を支える役割を担います。
費用の支出等の金銭管理、医療・介護・福祉サービス等の契約をご本人に代わって締結することは出来ますが、手術等の「医療行為」に対する、意思決定・同意等に関しては、本人の一心専属性が極めて強いものとして、第三者たる後見人にその権限はありません。
これらの場合には、「ご本人の意思を尊重すること」、「意思決定の手助けをすること」、「意思推定をする為の情報提供」などが、後見人に求められる役割となります。
また、入院や入所等をきっかけにして、初めて第三者が後見人になった場合、ご本人とコミュニケーションを図る時間的な余裕が無く、意思疎通が上手く図れていないこともあります。
そんな状況で、万一ご本人に判断能力に低下が見られますと、その意思を尊重したり、推定したりすることが困難な場合もあります。
後見人とご本人のお付き合いは、入院時等の一時的なものではなく、その後の人生をご一緒するところとなりますので、お互いの信頼関係が無ければ成り立ちません。
ご本人が何を求めていて、何をして欲しくないのかという様な事柄は、質問して答えを得ようとするだけではなく、日常会話や普段のコミュニケーションの中で、お互いの性格や考え方等を知り、ご本人の想いを理解しようとすることが求められます。