福祉施設への入所について考える
人が亡くなって相続が発生致しますと、その方に有効な遺言などがない場合、相続人同士の協議によってどの様にして相続をするのか、話し合いをして決める必要があります。
その結果、それまで何の問題も無かった親族同士が「相続をきっかけにして不仲になってしまった」ということも起こっており、“揉めない様に話をすすめるには、どうすればよいのか”ということにつきましては、頭を悩ませる方も多い、難しい問題です。
この問題につきましては、相続財産の多少だけではなく、関係する親族間の状況やそれまでの関係性など、様々なことが複合的に関係しておりますので、事務的な手続きとは異なり、明確な方法や答えとなる様なものが存在する訳ではありません。
ただ、トラブルに発展した過程に明確な原因があるものにつきましては、ある程度防止することも可能だと思われますので、参考になる様な具体的な事例をお伝えさせていただきます。
事例:協議内容を作成した過程に不信感がある
・父が亡くなり、兄が主導して協議書を作成したが、どうも兄寄りの内容ですすめられている様な感じがあり、不信感がある
具体的な相続分についてではなく、その前提となる相続財産の範囲や評価などについて、「不満がある」「信用出来ない」という様な理由でトラブルに発展してしまった、という事例です。
相続の協議をする場合、故人の相続財産を確認し、それを基に相続人同士が話し合いをする訳ですが、その評価方法や可視化されていない事項を相続に考慮するかどうか、などということにつきまして、相続人間で考え方が大きく異なる場合もあります。
例えば、不動産の評価額が低い(或いは高い)と感じる、過去の大きな援助や介護時の負担などが考慮されていない(或いは少ない)という様な場合です。
これらにつきましては、その当事者となる方にとっては、相続の話し合いに対する前提条件となるものですので、話し合いの入口の時点で、掛け違いが生じていると感じられる場合があります。
また、この様な場合では、相続人における代表的な立場の方が「長男だから」「親の面倒を看たから」という言葉と共に、一方的に話をすすめようとして親族間に不信感が生じ、それがトラブルに発展しているケースが多い様です。
相続財産目録の作成について
相続財産の調査は、相続の話し合いの前提となるものですので、大切な作業となります。
現存する不動産や預貯金の残額だけではなく、生前の預貯金の引き出しや支出に関すること、過去に一部の相続人の方に援助をしていた場合、介護を主体的にしておられた方に対する考慮など、見えにくいものに関する評価がどう反映されているかということが原因で、トラブルにつながってしまう可能性もあります。
この為、相続財産の調査は正確に行い、口頭や大まかな連絡だけで済まさず、その目録となるものを作成することも重要です。
具体的には、
①情報を出来る限り可視化する
現存する相続財産だけではなく、考慮すべき債務、相続人が過去に大きな金銭的援助などを受けた「特別受益」なども含めて、全体の相続財産目録を作ることを心掛けます。
通帳が見当たらないものやお金の流れの大きい金融機関につきましては、残高証明書や取引履歴などを入手することも必要です。
過去に受けた金銭的な援助(特別受益と呼ばれるもの)につきましては、一旦それらを組み入れてから、故人による持ち戻し免除の意思(相続財産への組み入れを希望しないという意思)が明確又は推定されるもの、相続人間で合意が出来るもの、等を改めて除外していくという手順を踏むことで、より透明性が担保されます。
介護に関する部分につきましては、客観的な評価やその範囲も難しいところなのですが、目に見えないからといって、全く考慮もされていない場合、それを主体的にされていた方にとっては、納得出来ない思いを感じられることも少なくありません。
②判りやすく周知する
相続財産目録は、その後の話し合いの前提となるものですので、正確なものをしかるべき手順で作成した上で、相続人全員に判りやすく周知することも大切です。
この為、メールやラインなどで送るよりも、印字して渡すなどの対応をした方がよいかと思われます。
協議を行うにあたっては
相続の協議を行う場合、相続人全員が一堂に会して話し合いをする場面が想像されますが、相続人の数が多い場合には、あまり良い方法ではないことがあります。
人数が多いと、「物理的に全員が揃いづらい」ということ以外に、話が脱線したり感情的な方向になってしまったりすることもあり、意外とまとまりづらいですし、多数決の様な雰囲気になったり、「あの時はこう言っていた」という様な流れになってしまったりすることもあります。
これらを避ける為には、ある程度中心となる方が起点となって連絡係になってすすめていき、進捗を書面化していくという方がスムーズにすすむ場合も多く、少し時間は掛かるかもしれませんが、その方が個々でゆっくり考えたり、相談したりする時間なども確保することが出来ます。
それを誰がどの様に行うのか、というところが難しい部分ではありますが、中心となる様な方がおられない場合、第三者の方にその役割をお願いするのも一つの方法です。
また、電話やメールなどでのコミュニケーションは簡潔な連絡事項だけに留めて、具体的なことは直接話をする様に心掛ける方がよいかと思われます。
人は五感を用いてコミュニケーションをとりますので、感じられる感覚が少なくなるほど、無機質な判断になったり、拒絶も起こりやすいと言われます。
なお、文字でのコミュニケーションには、メールなどよりも手紙にすることも一つの方法です。
例えば年賀状などは、メールやラインなどで送る方が増えている時代ですが、それでも「年賀状でもらうとうれしく思う」という方が多い言われております。
同じ文字であっても、画面上にあるものと紙媒体になったものとでは、心情や想いの伝わりやすさが異なるという部分がある様に思いますし、わざわざ手紙にするという手間を掛けてくれたことに対する思いも、加わるのではないでしょうか。
相続の問題に限ったことではありませんが、誰しもその当事者になるまで、「自分達は大丈夫」とお考えの方が多いと思われます。
お金や相続に関することは、話をしづらい部分かもしれませんが、事前にその様な機会を設けることで、お互いの認識に少し開きを感じることもあります。
それらを理解したり摺合せたるするには、時間が必要な場合もありますので、いざという時に「争族」ということにならない為には、必要な時間ではないかと思われます。