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「塾ジイの部屋」21 ー“無心”という名の突破力ー

久保克己

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テーマ:秋のスランプ脱出法

「ヤル気が失せた?」それは良かった!

「塾ジイ、模試の偏差値が下がったんです。もうヤル気が失せました」
「それは良かった!」
「えっ? どういうこと? 諦めろってこと?」
「誰がそんなことを言ったんじゃ。ヤル気が失せた? それは、それでええんじゃよ」
「どうして? 受験まで、もうそんなに時間がないのに……」
「お前さん、勉強を始めるときには、いつもヤル気満々なのかのう?」
「そんなわけないじゃないですか。やりたくない日だってあります」
「じゃろうな。じゃが、そんな日でも勉強することはできるじゃろ?」
「まあ……やろうと思えば」
「そうじゃ。受験勉強に、いつもヤル気が必要なわけではないんじゃ。むしろ、『ヤル気が出たら勉強しよう』と考えておると、ヤル気が出るまで勉強を始められんこともある」
「でも、ヤル気がないまま勉強しても、頭に入らない気がします」
「最初から何時間も頑張ろうとせんでもええ。まず一問。昨日、間違えた問題を一つ見直す。それでええんじゃ」
「一問だけでいいの?」
「もちろん、それで終わってもええ。じゃが、一問解いているうちに、もう一問やってみようと思うこともある。歩いているうちに、ふっとギアが入ることもあるんじゃよ」
「そういえば、勉強を始めたら、思ったより続いたこともあります」
「うむ。わしは以前から、ヤル気とは足あとみたいなものじゃと考えておる」
「足あと?」
「足あとは、歩いたあとに残るものじゃろう。歩く前から足あとをつけようとしても、つかんじゃろ? まず歩く。すると、あとに足あとが残る。勉強も同じじゃ。まず行動する。その積み重ねが、あとから自分の自信やヤル気につながることもあるんじゃ」
「でも、偏差値が下がったことは、やっぱり悔しいです」
「悔しいなら、悔しがればええ。落ち込むのも自由じゃ。次の模試で成績が上がったら、思いきり喜べばええ。成功して歓喜に浸るのも、失敗して挫折するのも、お前さんの特権なんじゃ。自由なんじゃよ」
「……じゃあ、落ち込んでいる自分を無理に変えなくてもいいんですか?」
「そうじゃ。気持ちを無理に切り替えようとせんでもええ。ただし、気持ちと、次にやることは分けて考えてみるんじゃ。落ち込んでいても、答案を見直すことはできるじゃろ?」
「答案を見直す……」
「そうじゃ。偏差値が下がった原因を考えることが、次の一歩につながるんじゃよ」

成績表は、次の作戦を教えてくれる

「でも、答案を見直すって、どこから始めればいいんですか?」
「まずは、答案用紙と成績表を並べてみるんじゃ」
「答案用紙と成績表……」
「うむ。間違えた問題を確認するだけではなく、成績表に載っておる各問題の正答率にも注目するんじゃよ」
「正答率?」
「そうじゃ。例えば、受験生全体の正答率が80%の問題を、お前さんが間違えていたとする。多くの受験生が正解しておるのに、自分は落としてしまった。これは、優先して見直したい問題じゃな」
「じゃあ、正答率が高いのに間違えた問題から、復習すればいいんですね?」
「その通りじゃ。正答率の高い誤答を見つけて、一つずつつぶしていくんじゃよ」
「でも、正答率が低い問題は、後回しでいいの?」
「すべてを放っておいてよいという意味ではないぞ。じゃが、まずは多くの受験生が正解している問題で、なぜ自分が失点したのかを確かめるんじゃ。今の自分が克服できる問題から、着実に得点につなげていくことが大切なんじゃよ」
「なるほど……。間違えた問題を、全部同じように復習すればいいわけじゃないんですね」
「そうじゃ。優先順位をつけることも、立派な作戦なんじゃ」

「解答の根拠」と「試験中の気持ち」を振り返る

「じゃあ、間違えた原因も調べたほうがいいんですよね?」
「もちろんじゃ。ところで、お前さん、問題を解いているときに、答えを選んだ根拠や、そのときの気持ちを記録しておったじゃろう?」
「はい。なぜその答えを選んだのか、難しい問題に出会ったときにどう感じたのか、メモしてあります」
「よしよし。それなら、答案用紙と成績表だけでなく、その記録も一緒に見てみるんじゃ」
「記録も使うんですか?」
「もちろんじゃ。例えば、正答率の高い問題を間違えておったとする。そこで、解答の根拠を見てみるんじゃ。根拠そのものが間違っておったのか。それとも、正しい考え方をしておったのに、計算や読み違いで失点したのか。そこが分かれば、対策も変わってくるじゃろう?」
「なるほど!」
「それだけではないぞ。試験中の気持ちも振り返るんじゃ。難しい問題にこだわりすぎて焦っておらんかったか。時間が足りなくなって慌てておらんかったか。記録を見れば、試験中の自分の判断や状態を、もう一度確かめる手がかりになるんじゃ」
「間違えた問題だけを見直すのとは、違うんですね」
「そうじゃ。答案は、何を間違えたかを教えてくれる。解答の根拠の記録は、なぜその答えを選んだかを教えてくれる。そして、気持ちの記録は、そのとき自分がどんな状態だったかを振り返る手がかりになる。三つを照らし合わせれば、次に何をすべきか、もっと具体的に考えられるんじゃよ」
「知識が足りなかったら覚え直す。解き方が分からなかったら、もう一度解き方を確認する。時間が足りなかったら、時間配分を見直す……ということですね」
「その通りじゃ! 成績表は偏差値を見るだけのものではない。答案用紙と記録を照らし合わせれば、次に何をすればよいかを考える手がかりになるんじゃよ」
参考:ボイスコラム6「この作業でスランプから脱出せよ!」
https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5239105/

ヤル気が出るのを待つより、まず一問

「偏差値が下がったと落ち込んでいるだけじゃ、何も変わらないんですね」
「そうじゃ。偏差値は結果じゃ。大切なのは、その結果を次の作戦にどう生かすかなんじゃ」
「でも、自分だけで原因が分からなかったら?」
「そんなときは、先生に相談すればええ。自分だけで抱え込む必要はないんじゃ。必要な助けを借りることも、作戦のうちじゃからな」
「はい。まず一問、やってみます」
「うむ。正答率の高い誤答から、解答の根拠と試験中の気持ちの記録も確かめてみるんじゃ。原因が分かれば、次にやるべきことも見えてくる」
「なんだか、少しだけやれそうな気がしてきました」
「おやおや。今、ヤル気が出てきたのかのう?」
「うん、ちょっとだけ」
「それは結構。じゃが、ヤル気が出たからやるのではないぞ。やってみたら、ヤル気が出てきた。それでええんじゃ」
「分かりました。今日の模試で間違えた問題を一つ、見直してみます」
「そうじゃ。偏差値が上がろうが下がろうが、お前さん自身の値打ちが決まるわけではない。結果に振り回されすぎず、答案と記録から次の一手を見つける。そして、淡々とやるべきことをやるんじゃ」
「無心で、一歩ずつ……ですね」
「そうじゃ。無心とは、何も感じないことではない。悔しさも、喜びも、落ち込みも、自分の気持ちとして受け止めながら、やるべきことをやることじゃ」
「なんだか、突破口が見えてきた気がします」
「その調子じゃ。ヤル気があるかどうかは、いったん横に置いておけばええ。まず一問。次にもう一問。その足あとが、いつか大きな力になることもあるんじゃよ」
「はい。今日から、少しずつやってみます」
「うむ。無心で歩き続ける者だけが、思いがけないところまで行けることがある。さあ、まず一歩じゃ!」

不安や焦りといった「嫌な気持ち」を押し殺すことなく、弱い自分を受け容れたうえで「やるべきことをやるべきときにやる」ことは、受験勉強に限らず大事なことじゃ。その過程で周りのひとたちに援助を乞い、課題解決への歩みを進めていくことが、“自立型人間”への礎となるんじゃな。あの女の子は今成長への分岐点に立っておる。受験とは【人間力を鍛えるかけがえのない機会】でもあるんじゃ。それでは、またのう。

参考:「塾ジイのBAR」14「スランプ脱出の阻害要因は“ヤル気”!?」
https://mbp-japan.com/kyoto/kyoshin/column/5239091/

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