区分所有法の主な改正内容(3)
管理組合が保管している書類の閲覧・謄写について、訴訟になることがよくあります。最近では、昨年10月に名古屋地裁で下された判決があり、管理規約に定めのない書類の閲覧・撮影は不可というものでした。それぞれの事案の背景の違い等もあって、裁判所の判決が可能、不可の判決に分かれますが、過去の判例を見てみますと、次のような判決があります。
●文章の閲覧・謄写に関する判例
東京地判平成4年5月22日
≪事案と判決≫
Xらは、マンションの区分所有者であるが、マンションの管理者Yに対して業務に関する文章の閲覧、書面による報告等を請求した。
本件では、管理者が個々の区分所有者に対して管理業務に関する報告義務を負うかが争点となった。
本判決は、個々の区分所有者に対して報告等の義務を負うものではないとして、請求を棄却した。
≪判旨のポイント≫
管理者は、管理組合の総会において管理事務を報告すれば足り、個々の区分所有者の請求に対して直接報告する義務を負うものではない。
東京高判平成12年11月30日
≪事案と判決≫
Xは、Y協議会(マンション管理組合協議会)の会員である。Yは、全会員の5分の1以上の会員から、平成5年度役員の解任及び新役員の選任を議題とする臨時総会開催の請求を受け、平成12年5月1日、臨時総会を開催した。Yの臨時総会において、平成5年度役員の解任、新役員の選任の決議が行われ、引き続き、運営委員会が開催された。この運営委員会において、平成5年度から平成10年度までの間の決算報告を議案とする臨時総会を開催することが決議されたため、Yは、平成12年5月8日、臨時総会を開催し、この臨時総会において、決算報告書が承認された。Xは、Yが権利能力のない社団であると主張し、Yに対し、会員一覧表、決算書、収入・支出の内訳書等につき閲覧謄写を請求した。
第1審判決は、Yが権利能力のない社団であることを認め、民法の法人に関する規定を類推適用することができる等とし、請求を容認したため、Yが控訴した。
本件では、前記の協議会の会員が協議会に対して会員一覧表、決算書等につき閲覧謄写請求をすることができるかどうかが争点となった。
本判決は、Yが権利能力のない社団であることを認めたものの、民法には第三者や法人の構成員に閲覧謄写の権限を認める規定はなく、専ら法人の自治に任せられているとし、原判決を取り消し、請求を棄却した。
≪判旨のポイント≫
マンションの管理組合の多くは、権利能力のない社団であるが、管理規約において組合員(区分所有者)に組合員一覧表等の閲覧謄写を認める規定を設けている場合は別として、民法上の規定がないこと等を理由として、権利能力のない社団の構成員の閲覧謄写請求権を否定した判決である。
東京高判平成23年9月15日
≪事案と判決≫
Y管理組合法人は、管理規約においてYの理事長は、会計帳簿その他の帳票類を作成し、保管し、組合員の理由を付した書面による請求があったときは、閲覧させなければならない旨が定められていたところ、区分所有者Xらは、Yに対して平成18年度から平成20年度までの会計帳簿類一切の閲覧、謄写を請求した。
第1審判決は、謄写を認め、請求を容認したため、Yが控訴した。本件では、会計帳簿等の閲覧を定める管理規約の解釈が争点となった。
本判決では、閲覧を定める管理規約の定めは当然に謄写を認めるものではない等とし、原判決を変更し、請求を容認した。
≪判旨のポイント≫
謄写請求権と閲覧請求権は異なる性質の権利であり、閲覧請求権の趣旨を実現するから当然に謄写請求権まで認められることにはならないとし、謄写請求権を否定した。
上記のように、閲覧のみ可能とする管理規約では、謄写は不可である判例が多いように思えますが、平成28年の大阪高裁の判決(参考判決文)では閲覧を可能としました。理由は、管理規約に基づき、総会議事録、理事会議事録、会計帳簿、什器備品台帳の閲覧を請求することができ、民法第645条に基づき、裏付資料の閲覧、全ての議事録等の写真撮影を請求することができるというものでした。
【参考】
民法第645条(受任者による報告)
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
区分所有法第28条(委任の規定の準用)
この法律および規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。
名古屋地裁に提訴した区分所有者側は、この大阪高裁の判決をもとに書類の謄写を求めましたが棄却され、最高裁に上告しています。
管理規約に謄写可能である規定がされているかどうかが、判決の際に大きく影響していることから、謄写が可能であることを管理規約に規定するかどうかが今後の判決の鍵となりますが、国土交通省が作成する「マンション標準管理規約」においても、以下のように規定されていますので、管理組合運営の透明性を確保する意味からも謄写を認めることに問題はないと思われます。
マンション標準管理規約第64条(帳票類等の作成、保管)第3項
理事長は、第49条第5項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、第49条の2第1項(第53条第5項において準用される場合を含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。



