今年のマンション関連10ニュース

小堀將三

小堀將三

テーマ:その他

 マンション管理新聞に、今年もマンション関連に関する10大ニュースが、マンション管理業協会、管理組合団体、日本マンション管理士会連合会の各マンション関連団体の5大ニュースとともに発表されました。マンション関連団体は、いずれも「管理業者管理者方式」に関わる事項を5大ニュースの一つに挙げています。10大ニュースは次のとおりです。
1 注目集める管理業者管理者方式 法制化へ
2 区分所有法改正 要綱答申も法案未提出
3 財産管理制度 自治体に申し立て権限付与へ
4 「引き上げ幅」不採用も ガイドラインに反映
5 「置き配」でポイントも 標準管理規約改正
6 適正化推進計画 東京・大阪が全域で策定
7 共用部分リフォーム融資 受理金額が最高額を更新
8 相次ぐ地震 マンション被害も
9 被害額9億円超 最大級の横領事件に発展
10 管理計画認定マンション 1500件超える

 注目したいのは、9番目の「被害額9億円超 最大級の横領事件に発展」です。横領は、ビケンテクノ(本社大阪吹田市)の60代元社員によるもので、管理組合財産の着服です。その金額は、9億1474万4839円。
 ビケンテクノ・グループではマンション管理事業の中心は子会社が担っており、住宅管理部が所管しているマンション管理課には元社員を含めて6名の従業員がおり、27件の管理組合から管理業務を受託していたようです。管理組合の主担当者は、元社員とその他2名で、元社員は約半分の14件を担当していたとのことです。残りの3名は主担当者の補助の業務を担っています。

 適正化法及び適正化法施行規則では、管理組合財産の管理に関し、管理会社が管理組合の預金通帳と当該通帳に係る印鑑を同時に管理することを禁じています。マンション管理課が受託する27件の管理組合のうち、元社員以外の主担当者が担当する管理組合13件については、いずれも管理組合口座についての預金通帳は預かり保管していましたが、印鑑は保管していませんでした。 しかし、元社員が担当する14管理組合のうち8管理組合については、元社員が預金通帳とともに印鑑についても預かり保管していました。つまり預金通帳と印鑑の分別管理を遵守できていなかったのです。
 「株式会社ビケンテクノにおける管理組合財産の着服に関 する調査報告書」には次のような記述があります。
 「マンション管理課の各従業員が管理業務を行うにあたっては、主担当者ごとに業務の一応の手順は確立されているものの、これらの手順を文書等にて規定したものは存在しない。適正化法をはじめとした関連法令の趣旨を踏まえた規程・業務マニュアルは存在しておらず、各主担当者は、いわば、担当管理組合ごとの縦割方式で管理業務を実施していた。そのため、各主担当者により、管理業務の進め方が異なっており、前述のとおり資料の保管状況も大きく異なっていた。加えて、各主担当者間での業務の分担や、意見の交換は基本的になされず、各主担当者が他の主担当者の業務内容を把握するための業務上の報告ルールや会議等は設けられておらず、マンション管理課内で各主担当者間の相互牽制は一切なされていなかった。また、各補助者は、主担当者の指示に従い、自身に割り当てられた業務のみを遂行することに終始しており、上位者である主担当者の業務内容をチェックすることはもとより、その妥当性を疑うこともなかった。」

 着服した元社員が悪いことは間違いありませんが、会社の管理体制等にも大いに問題があったと思われ、報告書においても、「適正化法等に即した自律的な管理体制の欠如」と「マンション管理課の構成員による牽制の機能不全」が今回の事件の原因であるとしています。そして報告書では、再発防止策として次のように記述しています。
 「本件不正行為は、X 氏(元社員で以下同じです。)が、適正化法及び同指針が求める規律を無視して、預金通帳と銀行印の双方を預かり保管したほか、管理組合が銀行印を保管している場合にも、虚偽の支出理由等に基づき不正な払戻しを実行するなどの方法で、長年にわたり、犯罪行為を積み重ねたものである。かかる不正行為を統制するためのマンション管理課の自律的な業務ルールの整備が不十分であり、受託先のマンション管理組合の財産を毀損し、社会的にも不安を与えたことは、マンション管理業者として大いに反省すべきであり、まずもって、マンション管理課内の業務手順を適切に整備し、受託先の各管理組合の信頼回復に努めることが急務である。また、上記のマンション管理課内の業務手順の整備に加えて、ビケンテクノは、上場会社として、社内の業務について、法令を遵守した業務の運用が行われるよう、適切に内部統制を構築・運用することが求められており、そのためには、マンション管理課の業務統制の不備を補完する、本社管理部門等によるさらなる管理・監督の充実についても併せて取り組むことが望ましい。かかる取組みに際しては、会長・社長を筆頭とする業務執行取締役が、これまでの業務運用の非効率な点や不透明な点について、DXの導入等を含めて、抜本的な改善に向けた取組みを進めることが望ましく、かかる取組みについて、会長及び社長が率先して取組みをリードすることが期待される。本件不正行為については、X 氏の所在が不明であり、事実関係が明らかになっていない点もあり、今後、各管理組合との間での損害賠償についての協議も必要となることが見込まれるが、かかる協議に際しては、上記の業務運用についての抜本的な改善に向けた取組みについても適切に説明することが必要になるものと思われる。今後のビケンテクノに対する管理組合ならびに株主をはじめとする投資家その他のステークホルダーの信頼回復の一助として、本報告書が役立てられることを希望する。」

 この横領事件は過去最大級でありながら、マンション管理業協会の5大ニュースには挙げられておらず、とても信じ難いです。何の責任も感じていないように見えます。マンション管理業協会(管理会社が社員)は、第95条第2項に定める業務を適正かつ確実に行うことができると者として、国土交通大臣が認め指定した団体です。同項第一号には「社員の営む業務に関し、社員に対し、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守させるための指導、勧告その他の業務を行うこと。」とありますので、マンション管理業協会がその責務を果たしていないことになります。毎年実施される国土交通省による業務監査においても、今なお法令違反の会社が後を絶ちません。
 来年は、このような横領事件がないようにマンション管理業協会は責務を全うしていただきたいとともに、管理組合様も自分自身で守れるように十分に対策を講じてもらえればと思います。

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小堀將三
専門家

小堀將三(マンション管理士)

マンション管理士事務所JU 高知オフィス

第三者の立場に立って絶えず公平な判断を下し、管理組合様と管理会社の良好な関係ができるよう、両者をつなぐ役目となることを目指します。大規模修繕工事、管理規約の見直しなど、様々なお悩みに寄り添います。

小堀將三プロは高知放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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