修繕積立金値上げ幅抑制指針 国土交通省
前回お話しました「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」について説明したいと思います。
説明の前提として、次のようなマンションとします。
●新築マンションで総戸数は100戸
●全戸同じ75㎡のお部屋
●分譲会社が作成した長期修繕計画での30年間の総工事費用は5億4千万円
この場合、
●1年間に必要な工事費用は、1800万円です。
●1ヶ月に必要な工事費用は、150万円です。
この150万円を、100戸で負担しなければなりませんので、1戸当たり1万5千円を毎月徴収すれば、30年間の工事費用が捻出できることになります。実際には、30年後に残高が0になってしまうとその後の工事費用に対応できなくなりますので、もう少し上乗せした金額が必要ですが、説明しやすくするために1万5千円とします。
1戸当たり1万5千円ですと、1㎡当たりは200円(図の黒色の太線)となります。
もし、このマンションが分譲時から「均等積立方式」を採用すれば、そして社会情勢等の物価高騰などがなく30年間値上げすることがなければ、30年間は1戸当たり毎月1万5千円(200円/月・㎡)を徴収すればよいことになります。これを表現した図が次のようになります。
グレーで塗りつぶされた箇所が積み立てられた修繕積立金です。毎年同じ金額が積み立てられます。しかし現状では、分譲時には「段階増額積立方式」が採用され、かつ修繕積立金があまりにも低い金額である為、ほとんどのマンションでは、築20年後に修繕積立金を見直した場合には次のような図になってしまっています。
この例ですと、分譲時の修繕積立金は60円/㎡・月(4千5百円)で、5年後に80円/㎡・月(6千円)、10年後に100円/㎡・月(7千5百円)値上げしても、最初の大規模修繕工事を間近に迎えた15年後には、値上げ幅アップの140円/㎡・月(1万5百円)に値上げしないと工事が実施できません。
そして、第2回目の大規模修繕工事費用や給排水管更新工事費用の捻出を見据えた20年後には340円/㎡・月(2万5千円)の値上げ、その時点での修繕積立金140円/㎡・月(1万5百円)の約2.4倍にせざるを得なくなっています。ちなみに、緑で塗りつぶした箇所は修繕積立基金の積立額(5~7年分の修繕積立金)で、赤く塗りつぶした箇所は均等方式で積立てられる金額に対しての不足積立金額です。この赤の不足積立金額を最後の大幅値上げで補わなければならないのです。
某不動産コンサル会社が調べた分譲時の修繕積立金は4千前後が多いということですので、分譲時に4千円しか徴収していないマンションでしたら、上記のように20年後の値上げは2倍以上になってしまいます。それまでの値上げをしていない場合には、3倍、4倍以上になるマンションも出てきています。実際に、私がお手伝いさせていただいているマンションで、長期修繕計画の見直しにより算出した修繕積立金が現状の3倍になっているところが幾つかあります。2倍の値上げであれば組合員様の合意はまだ取りやすいですが、3倍近くなってしまいますと、本当に合意が取りにくくなります。結果、合意が得られず値上げができないマンションが出てきています。
この問題の根本的な原因は、分譲時の修繕積立金があまりも低いことにあります。上記例で言いますと、本来(均等積立の場合)1万5千円を徴収すべきところを4千5百円にしてしまうと、最初は楽ですが後につけが回ってしまいます。築10年、20年に値上げさせて下さいと言っても誰も値上げしたくありませんので、値上げ幅を押させて合意することがありますが、これも負担額を後回しにしているだけでさらに苦しくなってしまい、その後の値上げ率が大幅に上がり、結果値上げができないということになっています。
このような状況を見て、国土交通省はガイドラインを改訂しました。それが、国土交通省が示した「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」の内容です。その内容を表したのが次の図です。
ガイドラインでは、分譲時の修繕積立金は均等積立方式で算出された金額の0.6倍以上(120円/㎡・月以上)になるようにして下さい。そして、段階的に値上げした最終的な修繕積立金は均等積立方式で算出された金額の1.1倍以下(220円/㎡・月)になるようにして下さいと提言しています。金額で言いますと、分譲時には9千円以上、最終は1万6500円以下して下さいということです。
新築マンションでは、このガイドライン通りに設定することは可能ですが、既存のマンションで長期修繕計画を見直した際にできるかというと、難しいかもしれません。そこで国土交通省は、「段階増額積立方式」を採用しているマンションは、出来る限り早く「均等積立方式」に切り替えて下さいと、次のようなチラシを作成して呼びかけていますが、管理計画認定制度では「段階増額積立方式」を採用しているマンションも認定されていますので、こちらも出来る限り早く「均等積立方式」を採用しているマンションだけを認定するようにしてほしいと思います。
段階増額積立方式を採用しているマンションは !早めに均等積立方式に切り替えよう
国土交通省チラシ