軍艦島を舞台としたドラマが始まります
≪第1回≫
マンションのベランダからの子供の転落事故が絶えません。そのため、東京都では子供のベランダからの転落事故防止の啓発を進めています。東京都の「商品等安全対策協議会」が2月に発表した資料に転落事故の事例が載っていましたので、その中のマンションで発生した幾つかの事故を紹介したいと思います。
<事例1> 2歳男児
自宅(マンション2 階)にて。兄姉(3 歳)は室内で遊び、児も遊んでいたはず。保護者は流しのところで作業していた。 保護者が気づくと窓があけられ、室外機のところに児のスリッパがあり、児はベランダの下に立って泣いていた(2-3m下)。児が落ちていたのは広めの歩道で、その脇には大きな道路がある。よく救急車や消防車が通るので、それを見ていて室外機によじ登ったのかもしれない。ただし今までこんなことはなかった。ベランダへ出る場所には鍵もあり、ガムテープを二重にはっていた。
<事例2> 4歳男児・・・・・死亡
朝風呂に入れ終わった後、居室で身体をタオルで拭いていた。眼を離した隙に、部屋から姿が見えなくなった。部屋中を探したが見つからず、ベランダに出て周囲を確認したところ、1 階の駐車場に倒れているのを発見した。
<事例3> 3歳女児
自宅マンション3階居室内で昼寝していた児がいなくなったため、ベランダ越しに下を覗いたところマンション1階玄関エントランスの陸屋根部分(約5mの高さ)へ墜落し坐り込んでいた児を発見、住人が救急相談センター相談後に救急要請となった。
<事例4> 3歳女児
児を家において1階のゴミ捨て場にゴミを捨てに行った。帰って来たところで家に児がおらず、外を探しに行くと児の泣き声がして、ベランダ下で倒れていたため、5階ベランダから転落した可能性があり119番通報した。
<事例5> 3歳男児
マンション7階自宅ベランダ側のサッシが開いていたので下を見たところ1階地上に児の姿が確認できたので転落したと思い救急要請。
保護者の方がほんの少し目を離したすきに、子供がベランダにある何らかの足がかりになるもので手すりを乗り越えてしまって事故が発生しています。たった5分程度でも、このような悲惨な転落事故が起きてしまうことを、保護者の方には十分認識していただきたいと思います。
東京都の「商品等安全対策協議会」ではこれらの事例を詳細に分析していますので、その内容を次回お知らせしたいと思います。
≪第2回≫
東京都の「商品等安全対策協議会」が発表した「子供のベランダからの転落に関する事項情報」の分析(事例145件:マンションのみではなく戸建て住宅なども含む。)で、まず年齢別では2歳児が最も多く、次いで3歳児、4歳児となっており、この2歳から4歳で全体の46.2%を占めています。性別で見てみますと、男児は103件で女児の42件の約2.5倍です。
次に事故につながった動作を「手すりなどがなくて落ちる」、「手すりの上を超える」、「手すりを押し倒す(強度不足)」、「手すりなどの隙間をすり抜ける」、「不明」の5つに分類すると、不明が圧倒的に多く119件なのですが、それ以外の26件中23件が「手すりの上を超える」でした。そして「手すりの上を超える」23件の事故のきっかけを見てみますと、「足がかりとなるものを置く」が7件と最も多く、次に「手すりにもたれ掛かる」、「手すりの上に腰掛ける」、「故意に乗り越える」となっています。
足がかりとなったものとしては、「室外機」が一番多く、その他に「物干し台」、「布団」、「台」、「プランター」があります。
<室外機の例>
自宅3階寝室で、保護者と入眠の準備をしていた。双子の兄弟がいて、その子が眠そうにしていたので保護者が隣の部屋で寝かしつけるため児のそばを離れていた間の事故。外で「ドスン」という音がして、自宅前の路上を確認すると、倒れている児を発見した。普段
は窓を3重にロックしているが、その日は1重で、それは児が自分で開けられるようになっていたので、開けてベランダにでてしまった模様。室外機の上に乗っかり、そのまま下に転落した。(入院見込み日数:約6日間)
<物干し台の例>
自宅ベランダで遊んでいた所は保護者が確認している。その後、ベランダ下のひさしに落下した模様(高さ2m)。落ちたところの目撃者はなし。音に気付いた保護者が駆け付けると立位で泣いていた。築50~60年の家で2階に今風のベランダとは違う、物干し台がありそこで保護者と遊んでいた。エアコンの室外機や踏み台はなかったが物干し台が木材で作られていて手すりまでが横格子になっていて梯子の様になっており児はそれを上って手すりにお腹を乗せていた(鉄棒の前転する前の状態)。保護者がちょっと目を離した隙に転落した。転落した時の目撃者はいないが、物干し台から前転して一階の屋根に落ちて(約120cm)ゴロゴロ転がり(保護者が音を確認)地面のコンクリートに落ちた模様。(入院見込み日数:約3日間)
<布団の例>
2階のベランダに兄妹3人でおり、干してあった布団に妹がよじ登った際に兄が妹をくすぐり布団と一緒に約4mの下の地面に転落した。
<台の例>
自宅の2階のベランダで台に乗って遊んでいたところ、ベランダの柵を飛び越えて転落した。下はコンクリート。
<プランターの例>
親族の自宅2階ベランダから転落し、頭部を骨折した。目撃者なし。地面コンクリート。プランターが壊れていた。
子供がベランダにいたのは、「ベランダで遊んでいた」が最も多く、次に「別室にいたが、子供が一人でベランダに出た」でした。そして保護者の知らないうちにベランダの手すりを乗り越えてしまって事故が起きています。次回は、この「手すり」の安全基準についてお話したいと思います。
≪第3回≫
子供のベランダからの転落事故のほとんどが、何らかの足がかりになるものを使って「手すり」を乗り越えたことによるものです。今回はこの「手すり」の安全基準についてお話したいと思います。
子供の手すりの乗り越えによる転落事故を防止するために、次のような計測実験が行われました。4歳児から6歳児の90人に、どれぐらいの高さの台によじ登れるかを計測、足がかり台によじ登ることができるかを足がかり台の高さと厚みを変えて計測、そして柵を乗り越えることができるかを足先からベランダ柵までの水平距離と床高を変えて計測。実験の結果、台登り実験では、高さ60センチまでは全員が登れていますが、105センチ未満の子供は70センチの高さの台は登れませんでした。また、足がかりについては、70センチぐらいのものであれば、105センチ以上の子供は手すりを越えるための手段として用いていました。厚さについては、10センチ未満であればある程度有効ですが、25センチ以上では安全性に乏しいようです。建築基準法施行令第126条(屋上広場等)には、「屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが1.1m以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。」とありますが、この高さでも、足がかりになるものを手すりから60センチ以上離していないと、105センチ以上の子供は乗り越えられます。このような実験結果を踏まえて、今回の発表資料では以下の提案がなされています。
● 手すり柵の絶対高さ
・手すり柵の絶対高さは、現行法規等の規定のH=1,100㎜は子供にとっては十分安全な高さであるが、3 階以上からの転落事故は大人であっても重大事故となるため、1,200㎜程度を標準とすべき。
● 足がかり
・できるだけ足をかけられる「厚さ」を少なくする。10㎜程度では5歳児以上の児童の多くが足をかけられる。幅が50㎜あれば抑止効果は全くない。
・足がかりの「高さ」について、5歳児以上の児童の多くは600~700㎜あたりまで上れることから、手すりの高さは、足がかりとなる面を基点として800㎜以上、できれば900mm以上とすべき。
● 手すり柵からの距離別高さ
・ベランダに物を置く場合には、手すり柵から60㎝以上離して置く。(6歳以下の未就学児であれば、手すりにつかまってさらによじ登ることは困難)
・エアコンの室外機はベランダ床に設置せず、天井付近の高所に取り付ける。
● 手すり越えを誘発しない
・縦さんの手すり子柵や透明なパネルの無開口柵により、手すりを越えなくても子供でも外のようすを見ることができるようにする。
● 手すり子の構造的耐力
・子供は手すりで遊ぶこともあり、大きな力がかかると手すりの桟が破壊され、重大な事故になることから、手すり柵についても定期的な点検が必要。
提案のなかに定期的な点検が必要であるとありますが、これについては、国土交通省が作成した長期修繕計画作成ガイドラインのコメントの「推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容」で、「バルコニーの手すり」の修繕周期の参考数値として36年 が示されており、「想定される修繕方法等」は、「全部撤去の上、アルミ製手すりに取替」と示されていますので、三回目の大規模修繕工事を迎える管理組合様は、是非「手すり」の修繕計画をご検討下さい。
東京都住宅政策本部
窓やベランダからの子供の転落事故にご注意ください
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/bunyabetsu/jutaku_fudosan/kosodate_tenraku.html
消費者庁
公表資料「窓やベランダからの子どもの転落事故に御注意ください!・・・・・」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_037/assets/consumer_safety_cms205_200904_01.pdf