定期総会と「書面による決議」について
分譲マンションでは、管理組合という団体を区分所有者で構成し、その管理組合は、「総会」を開催してマンションで暮らす上でのルールの見直し、決算報告・事業報告、建物や敷地の管理に関する事項の決定、修繕工事の実施などの決議を行います。「総会」は、マンション管理組合における最高意思決定機関と言われており、年に1回開催される「通常総会」と、緊急時に開催される「臨時総会」とがあり、そこで決議される内容によって2つの決議に大別されます。1つは「普通決議」で、もう1つは「特別決議」です。
1つ目の「普通決議」は、日常の管理運営に関する事項についての決議で、毎年必ず決議しなければならない事や、軽微な修繕、現状復旧のための修繕などの事項を決定します。例えば、次のような事項です。
・前年度の管理組合の活動報告
・前年度の会計報告(管理費会計や修繕積立金会計などの収支決算)
・次年度の収支予算案と事業計画案
・使用細則の改定(制定や変更や廃止)
・管理費や修繕積立金の改定
・大規模修繕工事
・次期役員の選任(理事や監事など)
もう1つの「特別決議」は、区分所有者の生活に多大な影響を及ぼす重要な事項を決定する決議で、以下の事項です。
・管理規約の改定(制定や変更や廃止)
・管理組合法人の設立及び解散
・共用部分や敷地の変更
・過半数が消滅した建物の復旧
・専有部分の使用禁止の請求
・区分所有権の競売の請求
・占有者に対する引渡し請求
・建物の建て替え(これだけは4/5以上)
「普通決議」と「特別決議」とでは決議の方法が違い、「普通決議」は、区分所有者の1/2以上の出席で総会が成立し、出席者(委任状や議決権行使書も含め)の賛成が過半数以上であれば可決されます。「特別決議」は、区分所有者の1/2以上の出席で総会が成立する要件は「普通決議」と同じですが、「組合員総数の3/4以上の出席」かつ「議決権総数の3/4以上の賛成」で可決されます。「過半数」と「3/4以上」という数字の違いもありますが、「普通決議」の分母には欠席者が含まれないのに対して、「特別決議」の分母には欠席者が含まれます。例えば、100戸のマンションの場合で、総会出席者が80名としますと、「普通決議」は41名の方(厳密に言うと賛成者の議決権数が41個以上で、頭数の人数も41名以上としているマンションもあります。)が賛成すれば承認されます。一方「特別決議」の場合には、75名以上、75個以上の賛成がなければ承認されません。
私がお手伝いをさせていただている某マンションでは、毎年管理規約の改正案を総会に上程されていますが、賛否を問うことさえできない総会出席者数であるために、いつも議案自体が消滅しています。上記の例ですと、70名の出席者ですと、70名の方が全て賛成であっても、すでに「特別決議」の可決に必要な75名が満たされないのです。このマンションでは、未だに「民泊禁止」事項が必要であるのに管理規約に盛り込まれていません。
建て替えの決議を行う場合には、管理規約の改正以上にハードルが高くなり、「組合員総数の4/5以上の出席」かつ「議決権総数の4/5以上の賛成」が必要となります。欠席者が、単に議決権行使書や委任状を提出されない方であればよいのですが、問題は所有者が不明である場合です。建替決議を検討されるマンションはそれなりの築年数を経ていますので、区分所有者の高齢化がかなり進んでいます。その高齢化と様々な要因とで所有者不明の空室化が進んでいます。所有者不明の空室化は、管理費や修繕積立金の滞納を生み管理組合の財政をも悪化させます。
今朝の日本経済新聞(2022.06.29)の「真相深層」欄に、「マンション所有者不明増加」というタイトルの記事が掲載されていましたので、記事の抜粋内容を紹介させていただきます。
<抜粋記事>
マンションの区分所有者で、所在不明の人が増えている。空室の割合さえ確認できない管理組合もあり、管理費の滞納で建物の維持や保全が難しくなるほか、建て替えといったマンションの重要な決議に必要な賛成が集められなくなる。国は対策として不明な所有者を決議から除外する「強硬策」の検討を始めた。(中略)対策は法務省、国交省も加わる有識者研究会で議論が進む。不明な所有者をマンションの決議の分母から除外する内容だ。実現すれば、所在がわかっている所有者の間だけで一定の賛成を集めることで意思決定が進む。不明の所有者の権利保護にも配慮し、裁判所など公的機関の関与の下で除外する方向だ。(中略)築40年超のマンションだけで既に100万戸を超すだけに、新制度の施行までの間にも状況は悪化し得る。所有者が不明になるのを未然防止する取り組みも欠かせない。(中略)希望となるのは、4月に始まった適切な管理計画があるマンションを自治体が認定する制度だ。認定基準には「組合員・居住者の名簿を備え、年1回以上は内容確認する」ことが盛り込まれた。
既に説明がなされたマンションもあると思いますが、今後、管理会社からマンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」と国の「管理計画認定制度」についての内容説明があると思います。その「マンション管理適正評価制度」の評価項目の1つに「名簿の整備状況」があります。区分所有者名簿及び居住者名簿を備えているかが判断基準で、備えていれば〇です。ただし100点満点の1点です。もう1つの国の「管理計画認定制度」には、「管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること」という基準が設けられています。私の知る限りでは、1年に1回必ず見直しを実施している管理組合様は少ないと思います。届け出のあったものに対しては、修正や追加はされているとは思いますが、問題は届出がないことで、届出がないものを把握することが所有者不明の空室化や管理費等の滞納の抑止のためにとても重要だと思われますので、「マンション管理適正評価制度」と「管理計画認定制度」を利用する機会に、是非名簿の見直しを1年に1回必ず実施して下さい。おそらく、この事務的作業は管理会社に依頼されることになると思いますので、毎年更新される管理委託契約の際には、必ず名簿の見直し補助業務を管理会社とで確認し合っていただければと思います。
分譲マンションでの空室問題の対応マニュアル
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