定期総会と「書面による決議」について

小堀將三

小堀將三

テーマ:総会・理事会

 新型コロナウイルス感染拡大により、管理組合様、特に理事長様、副理事長様から「総会の開催」についてのご相談が多くなっています。
たとえば、関東方面の管理組合の副理事長様から、次のようなお問い合わせがありました。

【お問い合わせ内容】

現在、所有者の皆様に総会議案書を送付し議案書に添付している議決権行使手段書にて議決権を行使してもらう準備を進めており、書面による総会の実施についてご回答頂ければ幸いです。
そこで:
1. 議案書に 書面での総会開催に賛同するか否かを問う書類を添付する。
2. 議案書は配達証明付きで送付する。
3. 賛同を問う書類には、回答がない場合は「賛同したものとする」との文章を追記する。
以上の対応で回答がない場合を含めて100%の賛同を得たとすれば、書面での総会開催が可能でしょうか?
「回答がない場合は賛同したものとする」との対応が法的に有効なのでしょうか?

 このお問い合わせは、区分所有法第四十五条(書面又は電磁的方法による決議)で規定されている、会場を設定した総会を開催せずに書面のみで決議を行う方法で、今回の総会を開催するにあたってのご質問です。ちなみに、区分所有法第四十五条では次のように規定されています。

<第四十五条>
1.この法律又は規約により集会において決議をすべき場合において、区分所有者全員の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議をすることができる。(以下省略)
2.この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項については、区分所有者全員の書面又は電磁的方法による合意があったときは、書面又は電磁的方法による決議があったものとみなす。
3.この法律又は規約により集会において決議すべきものとされた事項についての書面又は電磁的方法による決議は、集会の決議と同一の効力を有する。

 そして、マンション管理センターが発表した「新型コロナウイルス感染拡大における通常総会開催に関する Q&A」においても、以下のように記載されており、定期総会(通常総会)での書面決議が有効であるとしています。
【Q2】 通常総会を開催せずに書面による決議を行うことは可能ですか。
【A2】 通常総会において決議すべき事項について、区分所有法第45条第1項又は同条第2項の要件を満たす場合には、通常総会を開催しなくても、これらのいずれかの方法により決議することができるものと考えられます。

 今回のような緊急事態においては、書面による決議で総会決議を行えば良いようにも思えますが、法律の専門家によれば、この方法で定期総会を開催することはできないものとされています。それは何故かと言いますと、この「書面による決議」は「総会の決議」に代わるものにすぎないだけで、「総会の開催」に代わるものではないからです。
 その根拠は、以下の区分所有法の条文から読み取れます。

<区分所有法>
第三十四条(集会の招集)第2項
管理者(理事長)は、少なくとも毎年集会(総会)を招集しなければならない。
第四十三条(事務の報告)
管理者は、集会において、毎年一回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。

 この2つの条文に規定されている管理者(大抵は理事長様)の責務を果たすためには、実際の総会を少なくても年に一度開催する必要があり、「書面による決議」で行えば、年に一度の開催が免除されるとは言えないということです。
従いまして、この「書面による決議」は、定期総会以外で緊急に決議を行うための総会を開催することが難しい時に決議ができるようにした規定なのです。
 またご相談者は、今回の定期総会を「書面による決議」で行うためには全員の合意が必要ですから、「答がない場合は賛同したものとする」を記入してはどうかと考えられて、この対応が法的に有効なのかをお聞きになられています。この「答がない場合は賛同したものとする」が法的に有効なかどうか。これについては、普段の議決権行使書にも同じようなことが記載されてあります。議決権行使書の一番下に、「※議決権行使書を選択された場合で、行使内容に記載が無い場合は賛成したものとみなします。」と記載されていることがあります。「※議決権行使書において、(承認・不承)のいずれにも〇印のない場合は、棄権したものとみなします。」のように「棄権」扱いされていれば問題はないですが、「賛成」扱いしても法的に問題がないかどうかです。「賛成」扱いをすれば、賛成数が多く必要な特別決議の時に助かるという事で、このようにしたのかもしれません。ほとんどの管理組合の方が※印まで見ていませんので、おそらく管理会社の判断で記載しているのでしょう。
 マンションの総会ではありませんが、会社の株主総会の議決権行使書で、「賛否の記載がないときは、会社提案の議案については賛成、株主提案の議案については反対として取り扱う」といった記載が適法であるという判例(札幌高裁平成9年1月28日)がありますので、法的には大丈夫なのかもしれません。しかし、議決権行使書で議決権を行使されるのでしたら、是非賛否を記入し提出していただきたいと思います。
 総会の開催についてお悩みになっておられる管理組合様は多いと思いますが、一番回避しなければならないことは、マンション内での新型コロナウイルス感染のクラスター発生です。クラスターもお1人の感染者から始まりますので、その一人をマンション内で絶対に出さないことを主眼において、総会の開催の中止及び延期を慎重に検討していただきたいと思います。

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小堀將三
専門家

小堀將三(マンション管理士)

マンション管理士事務所JU 高知オフィス

第三者の立場に立って絶えず公平な判断を下し、管理組合様と管理会社の良好な関係ができるよう、両者をつなぐ役目となることを目指します。大規模修繕工事、管理規約の見直しなど、様々なお悩みに寄り添います。

小堀將三プロは高知放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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