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スーパーに落ちてた「カボチャの天ぷら」で客転倒、店はどこまで責任を負うのか?

弁護士の田沢です。

Yahoo!ニュースに配信されました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/3a99ba1050c013966527289dfd6a07da69e8d91f
https://www.bengo4.com/c_18/n_12139/

首都圏で展開しているスーパー「サミット」の店舗で、床に落ちていた天ぷらを踏んで転倒し、ケガをしたとして、30代の男性客が、同社に対し約140万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は12月8日、同社が安全管理を怠ったと認めて、約57万円の支払いを命じた。

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報道によると、男性は2018年4月、サミットストア練馬春日町店(東京都練馬区)で、レジ付近に落ちていたカボチャの天ぷらで足を滑らせて転倒し、ひざを負傷した。

東京地裁は、天ぷらを落としたのは、従業員ではなく、利用客によるものだったとしたうえで、消費者庁のデータを基づいて「想定外の事態とはいえない」と指摘。店側が安全確認の徹底などで「物が落下した状況が生じないようにすべき義務を尽くさなかった」と判断した。

一方、天ぷらの大きさからして、男性も容易に天ぷらの存在に気づくことができたにもかかわらず、足元の注意を怠った過失があったとして、賠償額を減らしたという。

店側にとっては厳しい判決となったが、どこまで安全管理についての義務を負わなければならないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。

●店側には来店客がケガを負わないよう注意すべき義務がある

――店側の安全管理に関する義務違反が認められましたが、通常、店側は具体的にどのような義務を負っているのでしょうか。

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」として、不法行為責任を定めています。

これは、加害者と被害者との間の契約関係の有無を問わずに規律する一般的な責任ですから、不特定多数の利用客が出入りするスーパーも、この責任を免除されるわけではなく、利用客の権利または法律上保護される利益を侵害しないよう注意すべき義務があるということになります。

他方で、安全配慮義務違反というものがあります。これは、一般的に雇用主と従業員との間の雇用関係などに基づいて生じる契約責任の問題であって、上記の不法行為責任とは異なります。

どちらも損害賠償責任という点では同じですが、立証責任や消滅時効の期間などで違いが生じます。

――今回のケースはどちらでしょうか。

今回の判決は、報道の限りでは「安全管理を怠った」とされており、「安全配慮義務を怠った」とはされていませんので、安全配慮義務違反を認めたものと解するのは早計であり、一般の不法行為責任を認めたに過ぎないものと推測されます。

不特定多数の利用客がスーパーに入店することで、直ちにスーパーに対して利用客に対する安全配慮義務を課すほどの契約関係が生じると解釈するのは困難だからです。

――義務違反となるか否かのポイントはどこにありますか。

今回のケースは、スーパーの利用客が落とした天ぷらを別の利用客が踏んで転倒し、ケガをしたというものです。

通常であれば、スーパー側の過失(注意義務違反)については、落ちている天ぷらをしばらく放置したという点に求めることになるでしょうが、その場合は「放置した」といえるか否かを解明する必要があるでしょう。

●「どこまで注意義務を負うのか」は、実際の事故件数なども影響

――落下した直後の転倒などは、常時監視していても防ぎようがないように思われますが、そのような場合にまで義務違反が認められてしまうのでしょうか。

常時監視していたのに防げないような落とした直後の転倒を防ぐためには、そもそも利用客が落とさないような仕組みを考えるほかないと思いますが、常時監視も含めてそこまでの注意義務をスーパーに負わせることは行き過ぎという気もしますし、一方で、超高齢社会といった時代を背景に、そこまでの注意義務を負わせても問題ないといった考え方も出てくるでしょう。

――ネットでは「店が悪いのか?」「客が落としたものにまで責任を負うのか」などの意見が見られます。

買い物をする高齢者の割合が増加し、実際にも転倒事故が増えているということであれば、スーパー側にこれを防ぐための注意義務を課すということは、あながち不自然なことではありません。

不法行為責任の要件である過失の前提となる注意義務は、法律の明文に規定されているものだけでなく、社会生活上の諸般の事情を根拠として導かれるものも多々あります。

後者の場合は過失の有無をめぐって争いの種になりますので、最終的には司法の判断を待つしかありません。

――店側としては、今後どのような対応が求められるのでしょうか。

今回の判決がいわゆる先例として定着するかどうかは不明ですが、もしも定着したら、スーパーとしては、お惣菜売り場に監視員を常駐させるというところまではいかないにしても、定期的に天ぷらが落ちているか否かを確認することくらいは検討する必要が出てくるように思います。

【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp

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