事業承継・M&A補助金の概要(15次公募までの傾向を踏まえて)

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:補助金


2026年9月4日、「事業承継・M&A補助金」の第16次公募要領が公表されました。申請受付期間は2026年10月2日(金)~11月6日(金)17:00(予定)となっています。
今回は、これまでの公募における採択の傾向を踏まえながら、この補助金の特徴と4つの申請枠の概要をご説明します。

採択率は高水準で安定している

この補助金の特徴のひとつは、採択率の高さです。直近の第15次公募では551件の申請に対して338件が採択され、採択率は約61%でした。さかのぼって第11次から第14次までの採択率も60.7~61.1%の範囲に収まっており、複数回の公募を通じて60%台で安定して推移しています。人気の高い補助金では申請の半数以上が不採択となることも珍しくない中、この水準は申請を検討する経営者にとって心強い材料といえます。

申請書類の作成負担は、他の大型補助金ほど重くない

申請の中心となるのは、事業計画書を中心とした限られた書類です。電子申請システム「jGrants」を通じて提出しますが、他の大型補助金に比べると分量的には多くありません。必要となる添付書類の多くは、登記事項証明書や決算書、株主名簿など、事業承継やM&Aのプロセスを進める中でどのみち準備することになるものです。実務上の作成負担は比較的軽いというのが、日頃申請支援に携わっている実感です。

前提となるのは「事業承継を実際に行うこと」

もうひとつ押さえておきたいのが、単なる設備投資や生産性向上そのものではなく、「事業承継を実際に行うこと」自体が交付の前提になっている点です。後述する4つの枠のいずれにおいても、親族内・従業員承継の完了、M&Aのクロージング、あるいはM&Aへの着手実績など、承継やM&Aの実行・実績が要件に組み込まれています。したがって、後継者や譲渡・譲受先の検討がまだ具体化していない段階での「とりあえず申請」は想定されておらず、承継の道筋がある程度固まっていることが申請の前提になる点にご留意ください。

なお、事業承継には大きく「親族内承継」「従業員承継」「M&A(第三者承継)」の3つの類型がありますが、この補助金は事業承継促進枠が親族内・従業員承継を、専門家活用枠とPMI推進枠がM&Aを担う形で、どの類型を選んでも対応できる枠組みになっているのも特徴です。

4つの申請枠の概要


① 事業承継促進枠

親族内承継・従業員承継を予定する中小企業者等が対象です。補助率は小規模事業者が2/3、それ以外は1/2で、補助上限額は800万円(一定の賃上げを達成した場合は1,000万円)です。公募申請終了日から原則5年以内に、株式取得や代表者交代など実質的な承継を完了させることが交付の条件となります。

② 専門家活用枠

M&Aで経営資源を譲り受ける買い手、譲り渡す売り手それぞれを支援する枠で、第15次公募からは小規模事業者向けの類型も新設されました。補助率は買い手2/3、売り手は原則1/2(赤字や利益率低下の場合は2/3)、小規模売り手支援類型は2/3です。補助上限額は買い手・売り手とも600万円(デューデリジェンス費用を上乗せする場合は800万円)、小規模売り手支援類型は450万円です。補助事業期間内にM&Aのクロージングまで完了させることが原則で、完了しない場合は上限額が300万円に減額されます。

③ PMI推進枠

M&Aによって経営資源を譲り受けた後、経営統合(PMI)に取り組む中小企業者等が対象です。専門家活用を目的とする類型は補助率1/2・上限150万円、設備投資等を伴う事業統合投資類型は補助率原則1/2(小規模事業者は800万円相当部分まで2/3)・上限800万円(賃上げ要件達成で1,000万円)です。この枠を利用するには、すでにM&Aによる経営資源の引き継ぎが完了していることが前提となります。

④ 廃業・再チャレンジ枠

事業承継やM&Aに取り組んだものの成約に至らず、廃業を選択する中小企業者・個人事業主等を支援する枠です。単なる廃業だけでなく、新たな事業への再チャレンジを計画していることも条件になります。補助率は2/3、補助上限額は300万円(他の枠と併用する場合は取扱いが異なります)です。事業承継・引継ぎ支援センターへの相談やM&A仲介会社との契約など、M&Aに着手した実績があることが要件となるほか、廃業後の再チャレンジに向けた事業計画について認定支援機関の確認を得る必要があります。

店舗・事務所の工事費まで対象にできる、数少ない補助金

事業承継促進枠、およびPMI推進枠の事業統合投資類型では、設備費として国内の店舗・事務所等の工事費を対象にできる点も見逃せない特徴です。生産性向上を行うための店舗の改装や事務所の改修など、承継やM&A後のリニューアルにまとまった工事を予定している場合、この補助金は有力な選択肢になります。現時点で、定期的に公募が行われている補助金の中で、まとまった工事費を対象にできるものは、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の新事業進出枠と、この事業承継・M&A補助金くらいしか見当たりません。

また、公募締切から採択発表までの期間が1~1.5か月程度と比較的短いことも使いやすさにつながっています。結果が早く分かる分、その後の設備投資や資金計画を立てやすいというメリットがあります。

まとめ

事業承継・M&A補助金は、採択率の高さ、申請書類の負担の軽さ、そして親族内承継・従業員承継・M&Aのいずれのタイプにも対応できる枠組みの広さから、事業承継やM&Aを検討している経営者にとって取り組みやすい制度です。店舗・事務所の工事費まで対象にでき、採択発表までのスピードも比較的早いという実務上の使いやすさも備えています。一方で、あくまで承継やM&Aの実行・実績が前提となる制度設計であるため、自社がどの枠の要件に当てはまるのか、承継のスケジュールとどう合わせていくのかを早い段階で整理しておくことが、活用の第一歩になります。ご自身の状況でどの枠が使えそうか判断に迷われる場合は、お気軽にご相談ください。

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。着手金無し完全成功報酬の補助金申請支援等を行っています。

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