徹底的に調査しても「新規事業」は生まれにくい

藤井隆満

藤井隆満

テーマ:新規事業創出

徹底的に調査しても「新規事業」は生まれにくい

「新規事業が出てこないのは、調査が足りないからだ」
コンサルティングの現場では、こうした前提に立った相談をよく受けます。

「調査のやり方を教えてください」
「調査する人のレベルが足りないんですよね」
「調査が足りていないので、効率よく調べる方法はありませんか?」

言葉としては穏やかですが、雰囲気としては「テーマがうまくいかないのは、調査が甘いからだ」という前提に立っていることがほとんどです。しかし私は、ここに大きな落とし穴があると感じています。



単なる調査をどれだけ積み重ねても、新規事業のネタはほとんど出てこない

仮に世界中の論文、特許、競合製品、市場レポートを徹底的に調べたとしても、そこから出てくるのはせいぜい、

既存技術の組み合わせ
他社の後追い
「どこかで見たことがある」アイデア

であることが大半です。もちろん、こうした情報から事業ネタにつながることもあります。ただしその場合、自社の独自性や差別性が弱いテーマになりがちです。これは「調査」が悪いのではありません。調査という行為の性質上、 “過去〜現在のデータの積み上げ”です。新規事業、とくに本当に意味のあるテーマは、データの積み上げだけでなく、そこにさらに 洞察や直感(≒センス) が加わって生まれることが圧倒的に多いのです。



新しいアイデアは「直感」から始まる

少し古い例ですが、ソニーのウォークマンは非常に象徴的です。

「音楽を聴きながら歩きたい」

この発想は、市場調査から導かれた答えではありません。当時アンケートを取れば、「音楽は家で聴くもの」という回答が大半だったはずです。

また iPod についても、「既存製品のUIがダメだから、自分が本当に欲しいものを作らせた」とスティーブ・ジョブズが語ったと言われています。

これらは、どんな調査をしても、どんなフレームワークを使ってもそのままの形では出てこない答えです。



調査は不要?

誤解してほしくないのは、「調査は不要だ」と言いたいわけではありません。
重要なのは 順番 です。

私が推奨しているのは、以下の流れです。

まず、自社の強み・特徴・クセを徹底的に理解する
調査(ただし観点を絞る)
その強みが「生きる場面/市場」がないか探す
その強みを「伸びている市場」に転用できないか考える
古い技術でも、IT進化やデバイス進化と組み合わせて“復活”できないか検討する
調査で出てきた仮説を確認・修正する

このプロセスで重要なのは、②の調査で「世界中を徹底的に調べる」必要はない、ということです。
リソースは有限ですし、情報を集めるだけでは最後の一歩が出ません。

必要なのは、最後は結局、遂行する人の洞察と直感です。
直感や洞察は曖昧に見えますが、そこにはその人の経験知(暗黙知)が詰まっています。



コンサルティングの最初で行うこと

私が新規事業のコンサルティングで最初にお願いするのは、徹底的な「調査」ではありません。まずは 自社の技術的な強みの棚卸しと、伸びる市場の調査/分析です。

イノベーションは「新結合」です。

強み技術 × 伸びる市場 → 強みが生きる“伸びる市場”のテーマ

これは単に情報を集める作業というよりも、
「自社の強みが市場にどう導入され、どう価値になるか」
を具体的に想像しながら世界を見る作業に近いと思っています。



結論:テーマ選定で本当に大事なこと

テーマ選定の失敗は、「調査が足りなかったから」ではないことがほとんどです。
単なる調査では、新しいテーマは生まれません。重要なのは、自社の強みを理解すること、市場(特に伸びる市場)を認識すること、そして、洞察と直感で“結合”させることです。

調査は答えを出すためではなく、仮説を磨くために使う。
ここを押さえるだけで、テーマ選定は大きく変わります。

是非!

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藤井隆満
専門家

藤井隆満(技術士)

藤井技術士事務所

大手メーカーなどで技術者として研究開発に従事し、新規事業創出の豊富な経験を誇ります。企業の強みをひも解き、R&Dテーマ選定から研究開発、製品化までサポートします。半導体や化学、素材分野などで実績あり。

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