市場変化と企業内課題: 大企業が直面した技術開発プロジェクト失敗の教訓
1. 新規事業を考える視点:自社の強み
製造業で新規事業を考える際には、まず自社の強みからスタートすることが重要です。簡単に言うと、
「自社の強み × 社会潮流 = 新規事業のテーマ」
という流れで考えることが推奨されます。このアプローチを採用し、市場に適合すると、有力な新規事業テーマが見つかります。しかし、その先に進むためには、さらに重要な視点が2つあります。これらの視点を十分に検討することで、失敗のリスクを低減できます。
それは、製造プロセスとバリューチェーンの視点です。たとえ優れた技術があっても、それを用いて実際に製品を作り出せなければ、商品化は実現しません。製造適性や、後工程での利用方法まで考慮しなければ、製品は役に立たなくなります。また、技術のコストが高い場合は、その価値を超えるメリットがあるかどうかを検討する必要があります。逆に、顧客(後工程)が求める製品であれば、喜んで使用してもらえます。私の経験上、顧客が特定の素材を強く望んでいる場合、仕様変更を申し出ることもありました。
一方で、新しいアイデアを考えている際に、「まだ作ったことがない」「経験がない」「売ったことがない」といった懸念が、工場や営業部門から出てくることがあります。このような懸念が強いと、プロジェクトは頓挫しかねません。従って、しっかりとマネジメントし、状況をコントロールする必要があります。場合によっては、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)などを利用して、新規事業を外部で進めることも一つの選択肢です。
結論として、新規事業を考える際には、最終工程までのイメージをしっかりと持つことが重要です。テーマを決定する際には、抜け漏れがないようにチェックシートを用意するなどの準備をすると良いでしょう。最近では、ゲートシステムを使用してチェックを行う企業が増えています。
2. 新規事業を考える視点:時間軸
新規事業を考える上で欠かせない視点は「時間」です。研究や開発を始めてからビジネスが形になるまで、早くても1年はかかるでしょう。通常の研究では、5年程度を見込むことがあります。未来は予測できない部分もありますが、科学技術やビジネス分野では、ある程度の予想が可能です。この予想を踏まえ、将来どのような社会になるかを考慮し、今から開発を始めるべきだというのが基本的な考え方です。
現在の問題に迅速に対応することも重要ですが、それだけに集中すると、現場は疲弊し、反応型の仕事だけでは進歩が見込めません。数年後の社会を見据え、その時代に適したビジネスを提供することが求められます。このためには、時間を意識的に考慮することが不可欠です。
5年後の未来は、既に予測されていることがあるかもしれませんし、変化の兆しを捉えることもできるでしょう。これらを上手く活用して新規事業のアイデアを得ることが重要です。そこに自社の強みを組み合わせることで、成功する新規事業が生まれます。
私が実施する新規事業創出セミナーや研修では、目指す業界の未来をどう予測するか、実例を交えて解説しています。自社の事業分野がどのような未来を迎えるのか、考察してみましょう。
3. 新規事業創出の具体例
書店では、MBAや新規事業創出に関連する多数の書籍がありますが、概念に偏りがちで、具体的な事例が不足していると感じます。私のように、若い頃から研究開発(R&D)から新規事業の創出に携わってきた人は少ないかもしれません。また、諸先輩方から直接聞いた成功事例から得た経験も、非常に価値があります。
以下は、講演や研修で紹介している事例のいくつかです。
- 富士フイルムにおける銀塩写真から化粧品への転換思考
- 銀塩写真の危機に際しての現場の対応と新規事業創出への取り組み
- セラミックス研究者が強みを活かして食品事業に展開した例
- バックキャストを用いた新規事業創出の具体的方法
- 知的財産検索を通じて新規事業を発見する例
- バリューチェーンを考慮した顧客ニーズに基づく事例
- 強みを生かした新規事業展開を行う企業の思考法
これらの事例と普遍的な成功へのアプローチを組み合わせ、理解しやすいように話を進めています。機会があれば、一緒に新しい事業を創出しましょう!