アンチエイジングを考察する(Ⅲ)
抗加齢医学の定義は、『元気で長寿を享受することを目指す理論的・実践的科学である』とされています。
元気を享受するということは、単に寿命を延長し高齢生存者のカーブの右肩上がりを目的にしていることではありません。長寿の質が問題なのです。人間としての寿命の質を問題にしています。
また元気でというのは、たとえ何らかの病気を持っていても、元気で長寿を享受できる状態を意味しています。このためには、たとえ齢をとることによって何らかの病的状態が出現しても、肉体的にも精神的にも個人として全体的に『元気でありバランスのとれた状態が保たれる』ことが重要と考えることです。
アンチエイジング医学発展の背景
アンチエイジング医学が注目されてきた背景には、エイジングのサイエンスが進み、加齢は神秘のベールの中の避けられないものではなく、細胞生物学的なプロセスのひとつとして介入の可能性があることがわかってきたことが大きい。
それでも1980年代までは加齢のプロセスは非常に複雑で、とても介入など不可能であると思われていた。現在でも加齢のメカニズムに関しては様々な説があるものの、次第に情報が整理されて、加齢に大きく関与する分子機構が解明されつつある。(我が国の年齢調整死亡率の変化を考慮すれば、健康寿命延伸対策で必要なことは、悪性新生物・・がんと動脈硬化性疾患の予防対策である。)
すでに現時点において、カロリーリストリクション仮説と酸化ストレス仮説は、エビデンスの存在するサイエンスとして認識されつつある。
ヒトにおいては確実なエビデンスはいまだ存在しないが、最近では長寿の代謝マーカーとして低体温、低インスリン血症、高 DHA-s血症についてこれらのカロリーリストリクションをサルに認められたことが報告されている。
運動に関しても、自発的な運動をさせたラットにおいて約10%の寿命延長が観察されている。これらは、食事制限や適度な運動による老化の過程で認められる動脈硬化などの病的現象が抑制される可能性を示しており、生活習慣改善における基本である。これらからヒトにおいても長寿パラメーターがプラスの方向に働いていることにより健康にとってプラスであることは間違いない。
酸化ストレスは活性酸素によるタンパク質、核酸、脂肪など生体成分への酸化修飾であり、そのエイジングの酸化ストレス仮説は・・・
- 種々の老化生物におけるリポフスチンを代表とする老化色素の蓄積がエイジングに伴い増加する。
- 抗酸化剤の投与が小動物、下等動物の平均寿命を延長する。
- 長寿遺伝子の探索から酸化ストレス関連遺伝子が見いだされてきたことなどから示唆されてきた。
(続く)