インプラントの治療期間について
佐藤 一裕 筆 令和5年12月7日
岩手医科大学歯学部臨床教授
インプラント治療には、明らかにメリットがあり、確かな実績があります。インプラント治療の利点は、以下の3つが挙げられると思います。
1.天然歯と同等の咬合力を回復できる。顎骨とインプラントは経年的な変化が少なく安定しやすい
2.インプラント治療を受けられた患者さんの満足度は高い傾向がある
3.若々しく、健康寿命を延伸できる
ただし、利点の側面が強く光る分、欠点もまた多く存在します。
大きく分けて
● 治療手段としての欠点と● 治療者側に起因する欠点
に分けられると思います。
インプラント治療の利点が強く、眩いのならばその欠点もまた深く、複雑な要因を背景に存在しうるものと考えています。
● 治療手段としての欠点
1.治療計画が複雑である
インプラント治療は、一度咬合の安定を図った状況からスタートします。噛めない、喋れない、痛い状況では日常生活を満足に過ごせないだけでなくインプラント埋入や骨再生手術などの外科治療を乗り越えることができません。インプラント治療は、本来安定しているかみ合わせの状況をより長く、より強固に安定化・維持させる手段だとも言えます。前歯の歯並びや咬合状態に問題がないか、その上で臼歯部の咬合支持は十分とれているかと2つの確認ステップを経由しなければなりません。
2.外科手術を伴うためその治癒や回復は予定通り進まない
インプラントは顎の骨と生着する必要があります。そのためには、炎症のない十分な量の顎骨が必要です。顎の骨が痩せている場合は、その再生のための手術があります。炎症があれば、消炎処置を行います。インプラント埋入手術後も、傷口が治るまで時間が必要です。その過程のすべてでトラブルなく進むことが望ましいですが、100%予定通り推移する保証もありません。
3.コストがかかりすぎている
インプラント治療を行うためには、歯科医院側にも多大なコストがかかっています。研鑽のためのセミナー費用、CTや光学印象などの医療機器、インプラント周辺の消耗品など1つ1つに金銭的な負担があります。そのすべてを治療費用に転嫁できないため、インプラント治療は生産性が高い歯科サービスとは見做されていません。
4.一般保険診療との併用ができない
基本的には歯科治療は、保険診療の枠内で受けたいと希望されます。インプラント治療のほとんどが自由診療(自費治療)となり、インプラント治療前・後の検査やメインテナンスもすべて自由診療(自費治療)で受ける必要があります。仮に他院で実施されたインプラントであっても、そのトラブル対応やメインテナンスも基本的には保険診療の対象とはならないのです。
● 治療者側に起因する欠点
1.インプラント治療を行う歯科医師に技量の差が大きい
歯科医師であれば、インプラント治療は誰が実施しても法的な問題はありません。インプラント治療は外科手術を伴うので、外科処置から逃げることはできません。侵襲の程度が少ないからと外科処置そのものを軽視し、またその危険性をあまり説明しないこともあります。
2.メーカー主導の教育が行われている
インプラント治療は、複数のメーカーがインプラントフィクスチャーやアバットメントなど周辺材料を展開し、それらは互換性がほとんどありません。自然とインプラントメーカーに従った形での手技になり、メーカーが推奨するやり方が「スタンダード」かのように伝えられます。そして、メーカーごとにスタンダードがあるのです。
3.学会認定医・学会専門医の審査や過程に疑問がある
国内のインプラント学会では、多くの場合、専門施設での修練・実務研修だけでなく講習会受講でその技量を評価してきたこともあります。昨今は変化してきていますが、専門医取得まで長い時間が必要です。学会認定医や専門医が、修練を積んでから初めて患者さんと触れ合い治療を始めたわけではありません。多くの経験をした「トロフィー」の側面があります。
4.日本には大学主導の規格化された卒後教育がない
欧州では、大学主導でインプラント治療に関する卒後教育課程が通年から2年の内容で実施されています。アメリカでも、難しい治療となれば専門医になってから本格的に取り組むのが普通です。専門医を取得する前の歯科医師は日本でいう大学院生のような「学生」の立場を保持し、やはりこれも1~3年の期間で教育コースが開講されています。