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組織開発(OD)の展開ステップと日米の違い

谷内篤博

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 企業は組織の生産性を高めるため、組織メンバーの能力や勤労意欲の向上を図っている。しかし個人レベルに対する取組だけでは不十分である。なぜなら、人間の行動やモチベーションは周囲の環境に大きく左右されることが多いからである。
 K.レビンは、人間の行動原理をB=f(P,E)という公式で表した。BはBehavior,すなわち行動、fはfunction,関数で掛け合わせるという意味である。PはRerson,個人、EはEnvironment、環境を表す。この公式の意味するところは、人間の行動は個人と個人を取り巻く環境の関数、すなわち相乗効果によって決まることを表している。
 つまり、組織の生産性向上に向けて組織メンバーの望ましい行動を引き出すには、個人だけでなく、個人を取り巻く環境の双方にアプローチすることが重要になってくる。こうした行動環境は組織風土とも呼ばれ、行動科学や組織行動論の分野において組織風土の改善を図ることは組織開発(Organization Development:OD)と呼ばれている。組織開発の定義は識者により異なるが、本稿では「行動科学の知見を活用した、経営トップを巻き込んだ組織全体の計画的な変革」と定義しよう。もっとわかりやすく言えば、経営トップを巻き込んだ組織変革である。
 組織開発には3つのステップがある。第一ステップは「解凍(unfreezing」で、変革に向けた現状打破の段階である。現状には抑止力と推進力が作用しており、両者の均衡状態を打破する。その際のポイントは、経営トップを巻き込んで組織全体に危機意識を醸成し、組織変革に向けて組織メンバーのモチベーションを喚起することである。
 第二ステップは「移行(moving)」で、組織変革に向けた実践段階、すなわち変革に向けて計画的なアクションをとる段階である。ここでのポイントは、組織においてよく見られるパワーポリティクス、いわゆる組織変革の抵抗勢力や阻害要因を破壊すべく、外部のODコンサルタントである変革推進者(change agent)をうまく活用することである。
 第三ステップは、「再凍結(refreezing)」で、変革後の新しい状態や組織メンバーの行動が定着できるようなプロセスやシステムを構築する段階である。一般に、組織には慣性の法則が働き、元の状態に逆戻りする傾向がある。こうした組織の逆戻り現象を阻止するためには、新たな
制度づくりやコントロールシステムが必要となる。
 ところで、わが国の組織開発は、理論的ベースとなる行動科学が発達しているアメリカとは異なった色彩を帯びている。まず顕著な違いは、アメリカの組織開発は経営トップが中心となり、組織全体で展開されるが、日本ではQC(品質管理)サークルに見られるように、小集団的な職場開発としての色彩が強くなりやすい点にある。
 2つ目の違いは、アメリカの組織開発は計画的な変革を前提にしており、変えていくといった「する」という思想が強いのに対し、日本の組織開発は各職場での小集団活動による自主運営が中心で、現場スタッフに対する啓蒙的・教育的な色彩が強いため、するといよりも「なる」という思想で展開されやすい点である。
 3つ目の違いは、アメリカの組織開発はトップ主導型であるのに対し、日本の組織開発は職場単位のボトムアップ型になりやすい点である。 

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谷内篤博
専門家

谷内篤博(大学名誉教授)

 

上場企業の人事部や大手シンクタンクで人材育成や人事制度設計に従事。人的資源管理・組織行動論を専門に大学教員として30年間研究を重ねました。理論と実践を融合させて、人と組織の活性化をサポートします。

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