痛みを根本からケア!鍼灸で頭痛とサヨナラ
はじめに
前回のコラムでは、
ひざの痛みは「関節の中」だけが原因ではなく、「関節の外」に原因があるケースが非常に多い
というお話をしました。
今回は、実際に当院を受診された患者さんの症例を通して、「なぜ病院で治療を受けていたにもかかわらず改善しなかったのか」、「鍼灸治療ではどこをどう考え、どのように変化していったのか」を具体的にご紹介します。
症例紹介
59歳 女性 パート勤務
主訴:左ひざの痛み
受診までの経緯:数年前より、仕事中の立ち座り動作や、荷物を持って運ぶ動作の際に左ひざに痛みを感じるようになりました。市販の湿布を使用していたが変化がなく、整形外科を受診。MRIなどの検査で「内側の軟骨がすり減っており、変形性膝関節症の初期」と説明を受けました。関節注射、リハビリ、鎮痛剤と湿布をもらって経過観察となり十数回通院しました。しかし痛みは改善せず、知人の紹介で当院を受診されました。
身体データ:
身長:156cm
体重:60kg
血圧:130/80mmHg
脈拍:70回/分
初診時の所見:
初診時に詳しく身体を評価したところ、次のような所見が認められました。
左ひざの可動域はおおむね正常
ただし最大屈曲時に痛みを訴える
大腿四頭筋およびハムストリングスに明らかな筋緊張
痛みの部位は内側関節裂隙部(ひざの内側で太ももの骨とすねの骨が合わさるところ)
約2cm程度の部分的な腫脹と強い圧痛
触診にて索状の硬結を触知
膝全体が腫れているわけではなく、痛みと腫脹が限局していることが特徴的でした。
考えられること :
なぜ痛みが続いていたのでしょうか。病院で指摘されている通り、画像上は内側の軟骨摩耗があり、変形性膝関節症の初期という診断は妥当だと考えられました。そして病院での治療は最も効果の高い標準的な治療だと思われます。
しかし、局所の状態を詳しく見ると、内側関節裂隙部の限局した腫脹、圧痛の強さ、索状の硬結(筋状のぐりぐり)といった所見から、内側側副靱帯の炎症が強く疑われました。その炎症の原因は長年の負担により、内側に骨棘(カルシウムが骨の外側に沈着する骨の変形)が形成され始めている可能性も考えられました。
さらに、大腿部の筋緊張については、仕事による繰り返し動作の疲労、痛みをかばうことで生じた筋バランスの乱れが重なり、膝関節内側に過剰なストレスが集中している状態であったと考えられます。
つまりこの症例では、
「軟骨のすり減り」という関節内の問題に、関節外(靱帯・筋肉)の炎症が重なって痛みが強く出ていた
という病態でした。
鍼灸治療の方針と内容
治療では、「軟骨そのもの」ではなく、現在の痛みを生んでいる要因に焦点を当てました。
① 疼痛局所へのアプローチ
内側関節裂隙部の炎症を抑える目的で、微弱電流(マイクロカレント)による低周波鍼通電療法を15分行いました。微弱電流は、炎症の鎮静や組織修復を促す目的で使用しています。
② 大腿部筋緊張へのアプローチ
大腿四頭筋・ハムストリングスの過緊張を緩和するため、
2Hz・15分の低周波鍼通電療法(コンスタント刺激)を行いました。
膝だけでなく、膝に負担をかけている周囲筋を同時に調整することが重要です。
治療経過:
施術を重ねるごとに、患者さんは次のような変化を感じられました。
初回後:「膝の内側の違和感が軽い」
数回後:「立ち上がりが楽」「仕事後の痛みが残りにくい」
5回目の施術時点で局所の腫脹と圧痛が消失し、最大屈曲時の痛みも消失。
日常生活動作での支障がなくなったため、治療を終了しました。
画像上の軟骨の状態が短期間で変化したわけではありませんが、痛みの原因となっていた関節外の炎症と筋緊張を整えることで、症状は大きく改善しました。
この症例から伝えたいこと
この症例が示しているのは、「軟骨がすり減っているから仕方がない」とあきらめる必要はないということです。
変形性膝関節症と診断されていても、実際の痛みの主な原因が
靱帯の炎症
筋肉の過緊張
動作のクセ
にあるケースは少なくありません。
注射や薬で改善しない場合、関節の外に目を向ける視点が、回復への大きなヒントになります。
もちろん筋トレで膝を支える筋肉を鍛えることは大事です。しかし動かすと痛くて筋トレできないという人は、筋肉に痛みを起こすこりや緊張があるかもしれません。それを取り除いてからでないと筋トレはうまくいきません。痛みを押して筋とえすれば動作のクセができて違ったところに痛みをきたします。
同じような膝の痛みで悩んでいる方へ
薬や注射で変わらない、動作のたびにピンポイントで痛む、年齢のせいと言われて不安になっている
こうした膝の痛みには、鍼灸治療が力を発揮できる可能性があります。
膝の痛みは、「関節の中」だけでなく、「関節の外」も含めて考えることが大切です。
長引く膝痛でお悩みの方は、一度その視点を持ってみてください。




