複雑な肩こり、原因は肩や首ばかりじゃない!デスクワークで肩がこるその犯人とは
目次
はじめに
「朝起きると首が痛い」「振り向くとズキッとする」「肩こりが慢性化して頭痛まで出てくる」
このような首・肩の痛みやこりに悩む方は、年齢や性別を問わずとても多くいらっしゃいます。
特に、仕事や家事、スマートフォンの使用が増えた現代では、軽症から中等症の首・肩の痛みが慢性化しやすく、「病院では異常なしと言われたけれどつらい」「何度も繰り返す」という声をよく耳にします。
このコラムでは首や肩のコリをちょっとだけ深掘りし、やさしく、わかりやすく解説します。
首・肩の痛み・こりはなぜ起こる?【医学的な解説】
首や肩の痛み・こりは、「筋肉の疲れ」だけが原因ではありません。
頸椎(首の骨)・関節・神経・筋膜など、複数の組織が関与しています。
ここでは、軽症から中等症でよくみられる疾患と、注意が必要な状態を分けて解説します。
1.頚椎症性神経根症
加齢や姿勢不良により、頸椎の骨や椎間板が変形し、神経の出口(神経根)を刺激することで起こります。
主な症状
- 首を動かしたときの鋭い痛み
- 肩から腕、手にかけての痛みやしびれ
- 片側だけに症状が出ることが多い
軽症では「肩こりがひどい」「首を動かすと痛い」と感じる程度ですが、悪化すると腕のしびれや力が入りにくいなどの症状が出ることもあります。
病院での治療
- 消炎鎮痛薬
- 神経ブロック注射
- 牽引やリハビリ
軽症〜中等症では、筋肉の緊張緩和と姿勢改善が重要になります。
2.頸椎椎間関節症
頸椎同士をつなぐ椎間関節に負担がかかり、炎症や変性が起こる状態です。
主な症状
- 首を反らす、ひねると痛い
- 振り向く動作で片側だけ痛む
- 朝の動き始めがつらい
デスクワークやスマートフォン操作で、首を反らした姿勢が続く方に多くみられます。
特徴
レントゲンでは異常が出にくい「原因不明の首の痛み」と言われることも
このタイプは、関節周囲の筋肉と神経の過緊張が関与しており、鍼灸治療との相性が良いケースが多いです。
3.頚髄症(けいずいしょう)
ここはとても大切なポイントです。
頚髄症とは頸椎の変形などで、脊髄そのものが圧迫される状態です。
注意すべき症状
- 手先が不器用になった(ボタンが留めにくい)
- 歩行時にふらつく
- 両手・両足のしびれ
- 排尿・排便の異常
これらがある場合は、鍼灸や整体よりも、まず整形外科受診が最優先です。
4.その他のレッドフラグ疾患
- 転倒や事故など外傷後の強い首の痛み
- 発熱・体重減少を伴う痛み
- 手や腕に強いしびれ・脱力が出ている
- 夜間痛が強くて眠れない
- がんや感染症の既往がある
これらは、神経障害や重篤な疾患の可能性があり、命に関わる疾患が隠れている可能性があります。
5.筋筋膜疼痛症候群
筋筋膜疼痛症候群はもっとも多い原因の一つです。長時間の同じ姿勢やストレスにより、筋肉と筋膜が硬くなり、トリガーポイントと呼ばれる痛みの引き金ができます。
主な症状
- 押すとズーンと響く痛み
- 首・肩・背中に広がる不快感
- 天候や疲労で悪化
画像検査では異常が出ないため、「異常なし」と言われやすいのが特徴です。
6.寝違え(急性筋筋膜性疼痛症候群)
寝ている間の不自然な姿勢や冷えが原因で、筋肉や筋膜が急性炎症を起こした状態です。
特徴
- 朝起きた瞬間または午前中徐々に痛身が強くなる
- 特定の動きだけ強く痛む
- 数日〜1週間で改善することが多い
ただし、繰り返す場合は、頸椎に問題がある、または慢性的な筋緊張や自律神経の乱れが背景にあることが少なくありません。
首・肩の痛みは「組み合わせ」で起こる
多くの方は、軽度の頚椎変性、筋筋膜の緊張、ストレスや冷え、これらが重なり合って症状を作っています。
そのため、「骨だけ」「筋肉だけ」ではなく、全体を整える視点がとても大切になります。
病院ではどのような治療が行われる?
整形外科では、
- レントゲンやMRI
- 消炎鎮痛薬(内服・外用)
- 湿布
- リハビリ(温熱・牽引)
が一般的です。
これらは炎症が強い時期や急性期には有効ですが、薬をやめると再発する、忙しくて通院が続かない、原因が「筋肉の緊張」や「自律神経」にある場合は、改善が不十分なこともあります。
鍼灸治療が首・肩の痛み・こりに及ぼす影響
鍼灸治療は、筋肉の緊張緩和・血流改善・自律神経調整を同時に行える点が大きな特徴です。
鍼灸の主な効果
- 深部筋まで直接アプローチできる
- 交感神経の過緊張を和らげる
- 痛みを繰り返しにくい身体づくり
軽症~中等症の場合、3~5回程度で日常生活が楽になる方が多く、5~8回で安定するケースがよく見られます。
【症例紹介】30代女性・繰り返す首の回旋痛
30歳・女性・団体職員
主訴:右首の痛み(右回旋時)
数週間前から徐々に悪化しました。過去にも同様の痛みを繰り返していました。病院で検査を受け異常なしとのことで、他院で鍼灸を受けていたものの再燃し、当院を受診されました。
理学所見では、右回旋時のみ痛みが出現し、巻き肩による肩の前方変位が確認されました。
病態として頭板状筋・僧帽筋の筋痛症+ストレスによる交感神経緊張と判断しましたが、くりかえし同様の症状を発症していることから頸椎の問題があるかもしれないため、鍼灸治療の効果があまりみられない場合には専門病院に紹介する旨お話ししました。
治療内容
風池・完骨・肩井・C3/4棘間傍点(やや深く刺鍼)、尺沢・足三里・照海、腎兪・気海兪・委中・崑崙
鍼は浅く刺し置鍼、おなかの緊張に箱灸で暖かいお灸をして緊張をとるようにしました。
経過
初回で痛みは10→8へ軽減。5回の施術で回旋時痛は消失し、仕事や日常生活に支障なく終了しました。
このように、「繰り返す」「原因がはっきりしない」首の痛みは、鍼灸が力を発揮する分野です。
首・肩の痛みと「治りにくさ」の正体
ここまでご紹介したように、首・肩の痛み・こりには
- 頚椎症性神経根症
- 頸椎椎間関節症
- 筋筋膜疼痛症候群
- 寝違え
- そして注意すべき頚髄症などのレッドフラグ疾患
と、さまざまな原因があります。
重要なのは、多くの方が「単独の病気」ではなく、複数の要因を同時に抱えているという点です。
たとえば、
軽い頚椎の変形 + 筋肉の慢性緊張
椎間関節への負担 + ストレスによる自律神経の乱れ
冷えや睡眠不足 + 巻き肩・猫背
このように重なり合うことで、
「検査では異常が少ないのに、つらさが続く」状態が生まれます。
なぜ病院や整体だけでは改善しにくいことがあるのか
病院での治療は、炎症・神経圧迫・構造的な異常を見つけることにとても優れています。
一方で、次のような要素は評価が難しいことがあります。
- 筋肉の微妙な緊張バランス
- ストレスによる交感神経の過緊張
- 冷えや血流低下
- 日常生活での無意識の姿勢クセ
また整体やマッサージでは、表層の筋肉は緩むが、深部筋まで届きにくい。その場は楽になるが、戻りやすい、と感じる方も少なくありません。ここで鍼灸治療が力を発揮します
鍼灸治療は、医学的にみた首・肩の痛みの原因と、とても相性が良い治療法です。
鍼灸ができること
深部筋・神経周囲への直接アプローチ
僧帽筋・頭板状筋・肩甲挙筋など、手では届きにくい筋肉の緊張を緩めます。
神経の興奮を鎮める
頚椎症性神経根症や椎間関節由来の痛みでは、神経の過敏状態を落ち着かせることが重要です。
自律神経を整える
ストレスが強い方ほど、首・肩は緊張します。鍼灸は副交感神経を優位にし、回復しやすい状態を作ります。
鍼灸治療で目指す「回復の流れ」
軽症〜中等症の首・肩の痛みでは、次のような経過をたどる方が多いです。
1〜2回目
動かしたときの痛みが少し軽くなる
睡眠の質が上がる
3〜5回目
首や肩の重さが気にならなくなる
仕事や家事が楽になる
5〜8回目
痛みが再発しにくくなり、安定
これは、痛みを取る、緊張しにくい身体に整える、この両方を同時に行うためです。先ほどご紹介した30代女性の症例でも、頚椎そのものに重大な異常はない、しかし筋肉・姿勢・ストレスが重なっていたという典型的なパターンでした。
局所(首)だけでなく、前胸部、、腹部、下肢の自律神経調整のツボを組み合わせたことで、首に負担をかけていた背景要因まで整えることができました。
「年齢のせい」「体質だから」とあきらめないでください
首・肩の痛み・こりは、年齢や性別を問わず起こります。そして多くの場合、適切なケアをすれば改善が期待できます。
- 何度も繰り返す
- 検査では異常が少ない
- ストレスが強い
そんな方ほど、鍼灸治療が選択肢になります。
首・肩の痛み・こりに有効なツボと刺激方法
首や肩の痛み・こりに対する鍼灸治療では、「痛い場所」だけでなく、原因となっている筋肉・神経・自律神経のバランスを整えるツボを組み合わせて使います。
ここでは、臨床でよく使用し、軽症〜中等症の首・肩の不調に効果が期待できる代表的なツボをご紹介します。自宅でも使えるのでいくつか選んでやってみてください。
1日1~2回、気持ちよい強さで10秒×3回押します。
風池(ふうち)
風池(ふうち)
後頭部の髪の生え際、首の太い筋肉の外側にあるくぼみです。
期待できる効果
首こり・肩こり
頭痛、目の疲れ
自律神経の調整
風池は、頚椎症性神経根症や寝違えの際にもよく用いられ、首の緊張をやさしくゆるめる重要なツボです。
完骨(かんこつ)
耳の後ろにある骨の出っ張りの下のくぼみです。
期待できる効果
首の回旋時痛(振り向くと痛い)
緊張型の首痛
ストレス緩和
首を動かしたときに痛みが出る方、頸椎椎間関節症が疑われるケースで特に使用します。
肩井(けんせい)
首と肩の中間点で、押すと重だるさを感じやすい場所です。
期待できる効果
慢性的な肩こり
巻き肩・猫背による筋緊張
血流改善
肩井は刺激が強くなりやすいため、
高齢の方や体力が低下している方には刺激量を調整します。
天柱(てんちゅう)
首の後ろ、太い筋肉の内側に位置します。
期待できる効果
首の動かしにくさ
後頭部の重だるさ
寝違え後の違和感
風池と組み合わせて使うことで、首全体の緊張をバランスよく整えます。
尺沢(しゃくたく)
肘の内側のしわの外側にあるツボです。
期待できる効果
首・肩の熱感やこわばり
上半身の緊張緩和
自律神経の調整
首や肩から少し離れた場所にあるツボですが、全身の緊張を抜く目的でよく使われます。
足三里(あしさんり)
膝のお皿の下、指4本分ほど下の外側にあります。
期待できる効果
疲労回復
血流改善
冷えやすい体質の改善
首・肩の不調が長引く方には、体全体の回復力を高めるツボとして欠かせません。
鍼通電(低周波鍼通電療法)について
慢性的な首・肩の痛みには、低周波鍼通電療法を併用することがあります。
- 深部の筋肉までリズミカルに刺激
- 血流改善
- 痛みの悪循環を断ち切る
刺激は心地よい範囲で行い、「怖い」「痛そう」という印象を持っている方でも安心して受けられる治療法です。
もしご自宅に市販の低周波治療器があれば紹介したツボにパッドをはって刺激してみてください。10~15分が目安です。
なぜ鍼灸で改善が期待できるのか?
なかなかよくならない首・肩の痛みには、筋肉・姿勢・自律神経・冷え・ストレスが複雑に関係しています。
鍼灸は、「痛い場所」だけでなく「原因となる全身のバランス」に同時に働きかけられるため、再発しにくい改善が期待できるのです。
まとめ ― 首・肩の痛みを「当たり前」にしないでください
首や肩の痛み・こりは、決して「年齢のせい」「体質だから仕方ない」ものではありません。
多くの場合、
- 筋肉の緊張
- 姿勢のくせ
- ストレスや自律神経の乱れ
- 軽度の頸椎の変化
これらが重なり合って起こっています。
病院の検査で大きな異常が見つからなくても、「つらさが続く」という事実は、身体からの大切なサインです。
鍼灸治療は、痛い場所だけを見るのではなく、首・肩に負担をかけている身体全体の状態を整える治療です。
- 繰り返す首・肩の痛み
- その場しのぎではよくならないこり
- ストレスや疲れが抜けにくい感覚
このようなお悩みをお持ちの方にこそ、鍼灸という選択肢を知っていただきたいと思っています。
もちろん、しびれや力が入りにくいなどの症状がある場合は、まず医療機関での検査が大切です。
その上で、「治す力を高めたい」「再発しにくい身体をつくりたい」そう感じたとき、鍼灸治療はきっとお役に立てます。
首や肩が楽になると、気持ちも自然と前向きになります。
このコラムが、あなたがご自身の身体と向き合うきっかけになれば幸いです。




