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全部わかってて

坂部智子

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80歳の母に、「認知症」のようなきざしが最初に見えた頃から、ぼちぼち9年になる。

症状が進んでいくにつれ、いろんなことが出来なくなった。
(コラムで書いた日々が懐かしい…)
今では、フツーの会話や、一人で立って歩くこと、食事をすることも出来なくなっている。
昨年、ずっとそばに居てくれてた父が亡くなって、以来、週末のわずかな時間を家で過ごす…という生活が続いている。
その時々の状況によって、一人で介助できたり、二人でないと無理だったりしながら。

そんな今の暮らしと新しい⁇人間関係を、母なりにちゃんと受け入れているのだということが、最近、とても感じられる。

先日の帰宅時は、父の月参りの日だったので兄が居た。
私も居る。
突然、「おらへん」と言った。
(彼は仕事で不在デシタ)

トイレに入っている母の様子を見に行ったら、「トイレ終わったら来てくれる…」と言ってた。

トイレから出る母の手を「よいよいよい〜」と言いながら引いてくれる彼の顔を見ながら、「なんていうたらいいんか…」とちょっと困ったように言ってた。

彼のことを「なんてよんだらいいんか」わからんで困ってるんちゃうか〜と、思った。
(想像やけど)

家に帰ってきたら、娘か何かわからんけどよく知ってるのが1人いて、なんか知らん間にもう1人、手を引いたり、目の前で歌ッたりしてるデカイのんがおる…ということが、母にとって自然になっているようだ。

「認知症」が進んでいく中で、教わったコト。
「全部わかってる」し、「全部わからない」のだということ。

全部わかってても、上手く伝えられないだけなのだとわかった。
全部わからない時でも、こっちがわかっているから、全然かまわない。
そうして、気にしないまま過ごしていたら、「わかっている」という事実が、時たまご褒美のように現れる。
スマホに登録している、そんな「母語録」は、どんどん増えていき、こうして確信になったのだ。

「認知症」をとらえる時に知っていてほしい一番がコレだね。

「全部わかってる」
「全部わからない」
両方が相反せずに共に有る。

(科学で証明するのは、難しいんやろうなぁ〜)

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