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母と

坂部智子

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母と
久しぶりに母が帰って来ている。
お葬式の日の一時帰宅以来で、泊りでは、父と畑部みんなと楽しく過ごしたお雛祭り以来だ。

そうか、まだ何も書いてなかった…
父のお葬式は家でしました。
あれだけ家に帰りたがっていた父を、また何処かに連れ出すのはイヤだったし、家なら、少しの時間でも母を連れて帰って来れるから。
「ともこのしたいように…」と兄が、何から何まで好きにさせてくれたのだ。

あの日、確かに母の様子は少しちがった。いつもみたいにお父さん、お父さんと言わなかった。花に囲まれた父の写真をじーっと見てた。

でもその後、小規模多機能施設に戻った母は、全く何事もなかったように過ごしていた。

父がいなくても、せめて週末は母と家で過ごせるように…と思っていたけど、先週は、体調的に無理で、今日まで伸び伸びになっていたのだ。

正直なところ、体調だけが理由ではなかった。
なんというか…そう、怖かった。
母がまた前みたいに、お父さん、お父さんって言い出したら、どうしたらいいのか、哀しみがまた煽られそうで、自分の弱まってる涙腺や、折れそうなココロを踏ん張らせる力がまだなかった。
それに、一人で全部みる自信もぜんぜんなくなってしまってた。

今日、帰って来た母と、父の祭壇の前に一緒に座り込んで、長い間過ごした。
私はまたボロボロ泣いてしまった。
母は、「うんうん」「ん?」「うん」と、遺影をじっと見つめたままで、何度もつぶやいていた。
「わかるの?」と、きいてしまった。
母は「わかってる」と、はっきり答えた。

実際、今までみたいに、お父さんお父さんとは、言わない。
晩ごはんの「そば焼き」の大好きなチクワを頬張り、イチゴをパクつき、テレビの笑い声と一緒に笑って、今はもうゴウゴウ眠っている。

なんだかホッとした。
気が張ってた分、ちょっと拍子抜けしてるぐらい。
母のココロを知ることは出来ないけれど、母の姿に、いっぱい救われたな…

また一週間がんばるね。
今度の週末には、もうちょっと、しゃっきりして会えますように。

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