日本の文化と発達障害

木村知子

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テーマ:日本の文化と発達障害

日本の文化と発達障害
日本語には日本人の美意識、価値観を映し出す言葉がたくさんあります。「素直」「勤勉」「誠実」「努力」などの精神を重んじる言葉、「配慮」「礼儀」「謙虚」のような礼節な態度を尊重する言葉など、それらは私たちに日本人らしさを感じさせてくれます。

またこのような言葉は日本人の心とも言えます。そのため私たちは社会で受け入れられるために日本語だけでなく日本人の心を学ぶ必要があります。さらに和を重視する日本の社会においては、他者と心を同期させるスキルも大切です。私たちはしつけや教育を通して幼いころから教化を受け、また友人関係などを通してこれらの日本の美学を学んで行きます。日常生活の中で恐らく無意識に当たり前だと感じている日本人の心は、大人から子どもまで幅広く社会に浸透した日本の文化だと言えるでしょう。

目に見えないものを駆使する

この心、文化というのは目に見えません。日本人が感じる感性も決して目には見えません。「わびさび」のように言わんとすることは何となくわかる、でも言葉で説明するのは難しいということも多々あります。しかし私たちは目に見えない、言葉で正確に伝えられないものでさえ他者と共有することができます(できている気になります)。それは人との相互交流の中で観念のすり合わせ作業を繰り返し行った結果です。多くの人はそのようにしながら目に見えない何かを理解し、習得し、社会の中で扱うようになります。

対人関係の中にある心と文化

人の心、世にある文化というのは人間一人では存在しえません。人間同士の関係の中で自分の心は存在し、社会的秩序は構築されます。人は対人関係を通してさまざまなことを学びます。自分の心さえも他者なくてしては浮かび上がりません。自分のことは自分が一番わかっていると思いがちですが、自分の人格さえも他者を通して認識されます。
発達障害などで対人関係に弱さのある子どもたちは自分の行動の善悪や適切不適切などの結果について、他者から自動的に発信されるシグナルを正しく受け取ることができません。そのため他者を通して自分の心を内観できず、心の軌道修正を図れなくなります。また他者の模倣などから始まる文化の理解も自然とは進みにくく、自分の置かれた文化(社会)を理解できないことが自分独自の文化(こだわりなど)への固執につながります。このように発達障害児の社会への適応能力は育ちづらく、それがわざわざ自己研究やソーシャルスキルトレーニングが必要とされる理由です。

あいまいな日本の文化

日本の社会での人間関係においては、言いたいことをはっきり言わないあいまいな表現も好まれます。遠回しな言い方、嫌味、皮肉もよく使われます。発達障害のためにこれらが理解できないと、場違いな対応を取ったり会話がかみ合わなかったりします。目に見えない上にはっきり言葉では伝えてくれず、共有する何かがおぼろげにしか想像できない、そんな形のないやり取りの中でお互いを観察しながら意図を汲み取る、その日本のコミュニケーション自体がとてもあいまいだと言えるでしょう。

隠れたものに価値がある

日本の社会は目に見えない基準、価値に包まれています。親が子どもに「やる気がないなら塾をやめなさい」と言ったとしましょう。そのやる気の基準はどこにあるでしょうか。誰の基準でしょうか。親のやる気と子どものそれでは大きな差があるでしょう。こういった目に見える形で判断できない言葉は本来人個人ごとの価値基準を持っているものです。しかしお互いが自分の物差しで会話をするために親子バトルが起こってしまいます。またこの場合、親は本当に塾をやめればいいと思っているでしょうか。いえ、子どもはきっと、親は「やる気がないならやめなさい」と言いたいのではなく「努力が足りないからもっと熱心に取り組みなさい」と意図していることを汲み取ります。発達障害児に言われる字義通りしか理解できないというのは、言葉の意味はわかっていてもその背後にある文化(この場合は努力が好ましいという文化)を理解できていないということです。

定型発達者でも目に見えないものを理解することが苦手な人は多くいます。例えばデザインや空間についてです。家を買うとき実物がないとわかりにくいから住宅展示場やモデルルームがあるのでしょう。ホームページを作るときにWEBデザイナーに「お任せします」と言ったのに、サンプル(実物)を見て不満が出るというのもよくある話です。

会話などの瞬時で消えていく言葉も含め、目に見えないものを理解するというのは実は多くの人にとって難しさがあります。しかし問題は、言葉や目に見えないものを理解できないことではなく、文化を理解できていないことにあります。しかもそれが自分の理解力を超えているとき、多くの人はその対処法にとまどいます。

発達障害者が苦手なことを強要される社会

発達障害者にとって分が悪いのは、この日本の文化と発達障害の特性の相性が悪いということです。想像力が弱い、対人関係は苦手という特性を持っているのに、社会ではそれでもなお日本人の心、文化が優先されます。それぐらい言わなくてもわかるはずだ、空気は読めるはずだという世界観こそ、私たちが小さいときから形作られた一つの思考にすぎないのにもかかわらず、その考えで成り立つ社会が崩されることには大きな抵抗が働きます。きちんと言葉に出す直接的な表現が好まれる言語の世界であれば少し事情は違ったのかもしれません。

発達障害児が社会でうまくやっていく方法

現在もさまざまな学問の専門家たちが見えないものの理解について研究をしています。ただ今のところ対人関係スキル、文化の習得についてこうすればできるようになるというものはありません。そこでとりあえず今できることは文化の丸覚えです。この場合どうする、どう言うという対人関係スキルを一つずつ学び、社会での最低限の振る舞いを身につける方法です。道のりは長いですが、この訓練を受けているのといないのでは中学生以降の対人関係、社会生活において大きな差が出てきます。この訓練は早い時期から開始した方が効果が出やすいので、対人関係、社会生活に不安を抱えているお子さまはすぐに始められることをお勧めします。

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