多文化共生とは:異なる文化が共に織りなす豊かな社会
2024年の外国人留学生数が33万6千人を超え、過去最多となった。統計は日本の国際教育の回復を裏付け、表面的には「日本は再び選ばれる国になった」との明るい見方もある。しかし、海外で学生募集に携わる現場の実感は、必ずしも数字と一致しない。むしろ、ここ数年で募集環境は厳しさを増している。
その背景として、ネパール、ミャンマー、スリランカ、バングラデシュといった、これまで留学生数の少なかった国々の増加が目立つ。ネパールは前年比71%増、バングラデシュも42%増と急伸した。
「外国人留学生の在籍状況」令和7年4月30日 文部科学省資料
一見すると、新たな国々から日本が注目されているかのようだが、実態は異なる。欧米や韓国への留学費用の高騰、ビザ制度の違いなど「相対的に日本に行きやすい状況」が、こうした伸びを支えている面が大きい。日本への評価が急上昇したというより、海外の若者が選べる選択肢の中で“消去法的に日本が残った”という方が実情に近い。
そのため、数字の増加とは裏腹に、現地での募集活動は年々難しくなっている。SNSの普及により、日本の生活費上昇、アルバイト環境、地域差、制度の複雑さなど、従来は届きにくかった情報が瞬時に広まるようになった。メリットと共にデメリットも等しく共有され、“日本に行けば何とかなる”という幻想は薄れつつある。
さらに、韓国やドイツ、カナダなど、教育と就労を一体で提示する国々が台頭し、競争は激しさを増す。留学生の目的も、日本語習得だけではなく、IT、工学、介護、観光など多様化しており、従来の一律的な説明では響かなくなっている。数字が伸びているにもかかわらず、募集現場が苦戦している理由は、こうした構造変化にある。
では、日本が本当の意味で“選ばれる国”となるためには何が必要か。
第一に、留学生の将来像を示すことだ。学習から就職、帰国後のキャリアまで、学生が自分の未来を描けるだけの具体性を伴ったルートが求められる。単に「学べる」だけでは、彼らを動かす力にはならない。
第二に、生活・労働環境の信頼性の確保である。住居やアルバイトのトラブル、学校間の質の差などは、日本の評価を最も傷つける。現地で語られるのは成功談よりも失敗談であることを、私たちは忘れてはならない。
第三に、制度設計を「日本側の都合」だけではなく「留学生の視点」からも見直す姿勢だ。入管制度や支援の仕組みが、送り出し国の学生にどのように受け止められているのか。日本の教育機関や行政は、こうした声にもっと耳を傾ける必要がある。
留学生の増加は喜ばしい。しかし、その数字が示すのは「量」の回復であり、「質」の向上は伴っていない。今、日本に求められているのは、国として留学生の未来に責任を負うという覚悟だ。彼らが日本を選ぶ理由が“現実的な妥協”ではなく、“希望ある選択”となるような環境づくりこそ、本当に選ばれる国への道である。



