【心理学 著名論文100本】研究成果の再現性検証

TEX 二井原

TEX 二井原

テーマ:英文記事


本記事は独学・国内学習による
英検1級保持者が書きました。

「再現性の危機」に瀕する心理学

大学入試や英検1級リーディング・リスニングで
心理学は頻出テーマとして知られているとおりです。
入試で出題される心理学関連の論文は実際には
行動経済学か認知心理学の論文である場合が多いはずです。
英検リーディングの文章は論文を
英検協会がリライトしたオリジナルです。
本記事ではこれらを一括して「心理学の論文」とします。


次は最近,英検1級リーディングで出題された内容です。
大学入試でも何度か出ています。

心理学の著名論文100本を検証したところ,
大半が再現性検証で失敗しており,
科学的ではないという結論が出ている。


The Open Science Collaboration
による2011年の検証実験
Reproducibility Project in Psychology
により信憑性が疑われている主な研究成果には
心理学の世界的権威やトップレベルの大学研究、
世界的ベストセラーの研究成果が入ってきます。
近年のノーベル賞受賞者も含まれます。

日本国内でこの事実が認識されていないため、
大学教授が例えば「ファスト&スロー」を
科学的ファクトと誤認していたりします。


「ファスト&スロー」 なぜ人は間違ってしまうのか
2023.3.7
清水 勝彦/慶応義塾大学大学院経営管理研究科 教授

人の意思決定の大半は、直感に委ねられている。こう指摘するのが、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書『 ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(村井章子訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)です。この名著を、慶応義塾大学大学院経営管理研究科の清水勝彦教授が読み解きます。『 ビジネスの名著を読む〔戦略・マーケティング編〕 』(日本経済新聞出版)から抜粋。

システム1とシステム2の関係
 本連載ではカーネマンの(行動経済学の、と言ってもいいでしょう)集大成の著作『ファスト&スロー』を見ていきます。人間の非合理性に関する書籍は連載「 名著を読む『予想どおりに不合理』 」でも取り上げました。私がこれにこだわるのは、「正しいこと」は企業や個人の成功に「必要条件」ではあっても「必要十分条件」ではないと思うからです。

 「正しい戦略」を立案したのに上司らの協力が得られなかったり、「合理的な意見」を言っても分かってもらえなかったりした経験は多くの人がしているはずです。そうした不思議を理解し、組織を成功に導く「十分条件」に対するヒントが本書にあると思うのです。

 カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。当時のアメリカ心理学会は「心理学が科学と認められた」といったプレスリリースをしています。彼が証明した意思決定にかかわるバイアス(先入観や偏見)は、「愚かな人間の問題」ではなく「普通の人間の性向」であることが公に認められたのです。

 タイトルの「ファスト」とは直感(システム1)を、「スロー」とは時間をかけて熟慮する知的活動(システム2)を指します。合理的で「考える葦(あし)」のはずの人の意思決定の大半は実はシステム1に委ねられています。その方がエネルギーを使わず効率的なだけでなく、「おおむね正しい」のです。が「時には決定的に間違っている」のです。

 その間違いをシステム2がチェックできればいいのですが、人間の注意力は有限なので簡単になくなってしまうのです。カーネマンはそれをやゆして「システム2は怠け者だ」と言います。


【信憑性に疑いがある心理学系研究成果】

★ 1万時間の法則
★ ピグマリオン効果
★ 社会的プライミング効果
★『ファスト&スロー』(カーネマン)
★ ダニング・クルーガー効果
★ マクベス効果
★ 表情フィードバック仮説
★ マシュマロテスト(幼児のつまみ食い我慢度と学力相関)
★「目」効果
★ 監獄実験宣言効果(スタンフォード大学)
★ 分離実験
★ 脳画像説得力
★ 自由意志信念と不正行為
★ ステレオタイプ脅威
★ 授かり効果
★ オキシトシン点鼻薬の信頼効果
★ ロマンチック・レッド効果
★ パワーポーズ・パワーシェイクハンド効果
★ 自我消耗

。。。まだまだ続きます。

心理学における『再現性』とは、

同じ条件下で実験を行った場合、
同じ結果が得られるかどうか


を指します。

一般に心理学の知見は再現性を前提とします。
つまり、

心理学の論文で証明された知見・研究成果は
同じ対象母集団に対して、同じような操作を行えば、
同じような結果が得られることが前提とされています。
対象母集団とは実験の観察対象の人間を意味し、
subjects「被験者」と言います。



『再現性が高い』とは、
ある研究者が実験を行って得られた結果を、
別の研究者が全く同じ実験方法を行って得た結果と比較した時、
2つの結果が有意に似通っている事象を指します。
再現性を取る場合の実験方法において、多くの条件がありますが、
基本となるのは次の2つの条件です。

A:その条件を完全に模倣すること
B:実験は同じ条件下で最低2回以上実施すること

問題は、
『上記の著名な心理学研究成果には科学的根拠が無い』
にもかかわらず,
これらを根拠として
人間の本質を語る自称プロ・専門家 SNS 投稿が溢れています。


誰もが今日、今この瞬間から
「カウンセラー」
「心の専門家」
「メンタルセラピスト」
「メンタリスト」

などなど言いたい放題に自称でき、
その肩書を用いて〈自称専門家〉の立場から
人間の本質を語り、それで商売できるのです。
民衆の無知と不安につけこむ商法であり、
深刻な法整備上の課題であることを指摘します。


そのうえで僕自身の立場としては,
これらの知見は科学的ではないとしても興味深い。
妄信することなくトリビアとして備えておけば,
話題が豊富になるので有益と考えます。


しかし例えば、
『1万時間の法則』を真に受けて
自分の子供にバイオリンの英才教育を強いる親達が実在する
ことに強い問題意識を持ちます。
高等学校 英語教科書 として広く学校採用されている
本にもこの本の内容が科学的に実証されたファクトと
して取り上げられています。
私が知る限り、この研究結果には疑義が生じていることを
知っている英語教師・高校生は皆無でした。

一万時間の法則を世に知らしめた世界的ベストセラーでは、
特にプロのバイオニストの事例を紹介しています。

多数のプロバイオリニストを調査した結果として、
プロのバイオリニストになるための主要因は、
才能要因ではなく、圧倒的な練習時間であると
言うのです。
また、プロバイオリニストのみならず、
あらゆる分野で専門性を持った上級者に
なるための必要条件として
「1万時間のトレーニング」
が必要であると主張しています。

成功者になる科学的に実証された秘訣は
才能ではなく学習なのだ!
遺伝ではなく努力なのだ!
先天要因ではなく環境要因なのだ!


と心理学で実証された研究成果に基づく前提で
権威ある学者から断言されたら、
「人生を賭けて子供の才能を開花させてあげよう!」
となるのは親心ではないでしょうか。


だから怖いのです。
ニセモノ科学知識が教育虐待を誘発する可能性があるのです。
どんな世界でも
高い目標・成果に到達できる人は氷山の一角です。
「一万時間の法則」では
目標に到達できない場合に、
その原因は先天的要因ではなく努力不足になるのです。
自己責任論を真に受けると、氷山の一角から漏れた
ほとんどの人は怠惰ゆえの人生の落伍者になるのです。
特に多感な中学生や高校生にとって、
危険な思想であることが日本では認識されていません。
この点に関して、
英語圏の多くの論文で厳しく非難されています。


このような状況・科学的知見を踏まえて、
・子育て系
・自己啓発系
・人間関係改善系
などの情報には、
「根拠の提示」有無を意識、確認してください。
発信者側も
その発信内容がファクトなのかオピニオンなのか
明確にする社会的道義責任が伴うはずです。


ちなみに、プロバイオリニストの
高嶋ちさ子さんはストラディバリウスのルーシーを
個人所有しています。
彼女のストラディバリウスのルーシーは1736年制作です。
お値段は 2億円!
プロを目指す個人レッスン料金も途方も無く高額です。
僕は上記のベストセラー作家の書籍のほとんどを
原書でよんでいますが、
「一万時間の法則」でプロバイオリニストに焦点を当てながら、
経済的特権階級の世界であることには触れていません。
プロの音楽家になるチャンスは平等ではありません。
一万時間の法則はミスリーディングなのです。


とにかく、
心理学の分野では博士課程を経て世界有数の名門大学
で教授職につく学者による研究成果の半数以上が
科学的にデタラメである。

この事実をカウンセラー系発信者・経営者、
その発信内容の読者も心に刻んで欲しいのです。
意見ではなく事実です。


話が更に逸れますが、
僕はある宗教二世として人生を壊されかけた経験を持ちます。
その深すぎる苦悩により「いわしの頭も信心から」的手法に
敏感になってしまうという自覚はあります。

話を英語に戻しましょう。
僕は心理学系の最新論文を大量に読みこみます。
大学入試問題を通じて出典元の論文を確認し、
背景知識を授業で語れるように準備するためです。
その知見の一部を英語学習者にフィードバックする際の
一つの切り口として今回のトピックを取り上げた次第です。
今後、英語学習の観点から心理学的知見や再現実験に関して、
論文を原文でひいて少しづつ紹介していきます。

ここから今回の主題、
「心理学 再現性の危機」
に関する最新論文 (大学のテキスト)の一部を見ておきましょう。
たぶんこれは英検1級リーディング素材の元ネタ文章です。
【再現性危機の原因】がそのまま流用されていました。

Replication Crisis in Psychology

Definition, Causes & Examples

Understand the definition of replication, learn the causes of the replication crisis, and see examples. 09/20/2022

What is the Replication Crisis in Psychology?

When researchers conduct an experiment or collect data, they must record their methods along with all the information they are gathering to ensure that their work is able to be replicated by others. Replication of studies, either entirely or in part, is one way that research communities ensure that results are reliable and that the tools used were valid measures of the data. The less control researchers have over the parts or variables in a study, as is the case in field research, the more difficult it can be to replicate the study. Conducting research in a setting like a lab gives the greatest control over all variables. However, lab research produces results with lower ecological validity. Ecological validity describes how relevant or irrelevant the results of a study may be in the real world. So, in other words, the greater the separation of the object of study from the natural environment, the more control the researcher has, but it's also less likely the data will represent the true outcome of events in the real world.

In psychology, the struggle to balance results relevant to the real world and the need to produce reliable data that can be replicated by other researchers is known as the replication crisis, or the reproducibility crisis. The definition of replication in psychology research is no different than in other fields, but there is a great struggle to reproduce certain studies given the unique circumstances of the individuals involved in psychology research. Sampling large groups of people to ensure the generalizability of the data and lessen the chances of sampling errors are just two of the ways researchers can try to avoid this issue.

The following lesson will further describe the replication crisis psychology faces, its causes, potential ways to overcome this crisis, and some examples of studies impacted by the replication crisis.

Causes of the Replication Crisis
The reproducibility crisis in psychology is caused by several different factors such as:

Publication Biases:
Many academics are required to publish a minimum number of papers to achieve tenure, and a lack of research also does not bode well for one's career; this phenomenon is often called publish or perish. Many journals, however, will only accept papers with novel research of some kind, making replicated research ventures risky for those who want to advance their own careers through publications.

Statistical Issues:
Like the publication biases, many journals are looking for research that offers statistically significant findings. This puts pressure on researchers, even if they are not intentionally altering research, to produce statistically significant data. A researcher who produces statistically significant data on their first try with a particular study may not seek to replicate their experiment before moving towards publication or may unintentionally overlook some questionable aspects of their work's internal validity. (Internal validity refers to how well the study is measuring what it actually wants to measure.)

Research Practices:
A researcher may stop collecting data when their work begins to show statistical significance, or select only the data that contributes to the desired outcome. Or, they may fail to assess the study's internal validity as objectively as possible, and all scenarios are going to produce problematic results that are unreliable and unlikely to be replicated.

Hypotheses Testing:
There are two issues regarding hypotheses and this crisis. The first issue is that many researchers are too quick to reject the null hypothesis (the version of their hypothesis that states that there is no relationship/difference with the variables tested) in favor of their own. Sometimes this issue is also impacted by things such as the sampling size. The second issue is that some researchers will alter their hypothesis after their results are known so that their hypothesis, not the null hypothesis, is correct. This then gives the researchers significant findings to try to publish.

Overcoming the Replication Crisis

There are ways to combat this replication crisis, and not all researchers see the crisis in a totally negative light. Direct replication (a close or exact repetition of a study as is possible), a form of replication study, is uncommon, especially in psychology. This is because of the issue of finding, for example, participants that can serve as a direct match to original participants, some projects seek to change this.


● replication crisis:複製危機
● psychology:心理学
● researchers:研究者
● experiment:実験
● collect data:データを収集する
● record:記録する
● methods:方法
● replicated:複製される
● studies:研究
● reliable:信頼性がある
● valid measures:有効な測定
● data:データ、数的研究資料
● control:制御
● variables:変数
● field research:フィールドリサーチ
● lab:ラボ、実験室
● ecological validity:生態学的妥当性
● real world:実世界
● sampling errors:サンプリングエラー
● publication biases:出版バイアス
● statistically significant:統計的に有意な
● internal validity:内部妥当性
● hypotheses testing:仮説検証
● null hypothesis:ヌル仮説
● overcoming:克服する
● direct replication:直接複製

心理学における複製危機とは何か?

研究者が実験を行うかデータを収集する際、他の人がその仕事を複製できるように、彼らの方法と収集しているすべての情報を記録する必要があります。研究コミュニティが結果が信頼性があり、使用されたツールがデータの有効な測定であったことを確認するための方法の一つが、研究の複製です。研究の一部または全部を複製することは、研究者が制御する要素や変数が少ない場合、つまりフィールドリサーチの場合、研究を複製するのがより難しくなります。ラボのような環境で研究を行うことは、すべての変数を最も制御できますが、生態学的妥当性が低い結果を生み出します。生態学的妥当性は、研究の結果が実世界でどれだけ関連性があるかどうかを表します。つまり、研究対象を自然環境から分離するほど、研究者が制御できる一方で、データが実世界の出来事の真の結果を表す可能性は低くなります。

心理学では、実世界に関連する結果と他の研究者が複製できる信頼性のあるデータを生成する必要性とのバランスを取ることが、「複製危機」または「再現性危機」として知られています。心理学研究に関与する個々の独特な状況から、特定の研究を再現することが非常に困難であるという点があります。データの一般化を確保し、サンプリングエラーの可能性を減らすために、大規模な人々のグループをサンプリングすることは、研究者がこの問題を回避しようとする方法のうちのひとつです。

次のレッスンでは、心理学が直面する複製危機、その原因、この危機を克服するための可能な方法、複製危機に影響を受けた研究のいくつかの例についてさらに説明します。

複製危機の原因
心理学における再現性の危機は、いくつかの異なる要因によって引き起こされています:

出版バイアス:
多くの学者は、永住権を得るために最低限の論文を公表する必要がありますが、研究がないと自身のキャリアには不利です。これを「発表するか滅ぶか」と呼ぶことがしばしばあります。しかし、多くのジャーナルは何らかの新規研究を持つ論文のみを受け入れるため、複製された研究は自身のキャリアを進めたい人々にとってリスクが伴います。

統計的問題:
出版バイアスと同様に、多くのジャーナルは統計的に有意な結果を提供する研究を求めています。これは研究者に圧力をかけます。ある研究者は、意図的に研究を変更していなくても、統計的に有意なデータを生み出すよう圧力を感じることがあります。特定の研究で初めて統計的に有意なデータを生み出した研究者は、公表に進む前に実験を複製しようとしないか、または自身の研究の内部妥当性に疑問を持たないことがあります(内部妥当性とは、研究が実際に測定しようとしているものをどれだけよく測定しているかを示します)。

研究手法:
研究者は、統計的に有意な結果が示され始めるとデータ収集を停止するか、望ましい結果に貢献するデータのみを選択することがあります。あるいは、研究の内部妥当性を客観的に評価しないことがあります。これらのシナリオは、信頼性がなく再現されにくい問題のある結果を生み出します。

仮説検証:
仮説に関して、この危機には2つの問題があります。1つ目は、多くの研究者が自身の仮説を早すぎる段階で採択し、変数の関係/違いを示す仮説(ヌル仮説)を棄却することです。これはサンプルサイズなどの影響も受ける場合があります。2つ目の問題は、一部の研究者が結果がわかった後に仮説を変更し、自身の仮説が正しいことを示そうとします。これにより、研究者は公表しようとする有意な結果を得ることができます。

複製危機を克服する方法
この複製危機に対処する方法はあります。全ての研究者がこの危機を完全に否定的なものと見なしているわけではありません。直接複製(可能な限り元の研究に近いもの)は心理学では珍しい複製研究の一形態です。これは、例えば元の参加者と直接マッチする参加者を見つける問題があるためです。しかし、いくつかのプロジェクトはこの問題に取り組んでいます。


今後も英語学習に関わる情報、体験談を発信していきます。

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