山の安全とアマチュア無線

辻村豊

辻村豊

テーマ:日々雑感

皆様方、お世話になっております。日々雑感を綴っております。

マウンテンドクター

最近、『マウンテンドクター』というドラマを見ました。
(マウンテンドクター)
https://www.ktv.jp/mountaindoctor/

国際山岳医というお医者様がいて、ほぼ下記記事がそのままドラマになったようなものでした。
(「登山者が生きて帰る」を支える 日本人初「国際山岳医」となった女性医師)
https://www.asahi.com/thinkcampus/article-110159/

ドラマあるある、設定やストーリーの展開に無理が生じてしまうことは付き物で、突っ込み箇所はいくらでもあったと思いますが、よくある登場者の恋愛模様など、余計な部分は一切なく、ひたすら医療関係に絞り込んだ点は実に良く、十分楽しめるものでした。

通信手段がスマホだけ?

とはいえ、非常に気になった部分がありました。
山に入った山岳医の通信手段がスマホだけだったという点です。
山に入れば、圏外になり、携帯が使えないことは容易に想像できます。
そして、ドラマの中でも、それが元で救助が遅れ、大問題に発展する場面もありました。ただ、これは現実なのだろうと思います。今や山に入る人々、一般人に加えて、山のエキスパートですら、携帯電話しか持っていないのでは?と思ってしまいます。

無線機の必要性

ひょっとすると、ドラマを作った側は、さりげなく問題提起をしていたのではないか?と思います。危ないところへ行くとなれば、連絡手段を複数確保しておくべきです。そこで役に立ちそうなのが、アマチュア無線です。携帯電話の発達とともにすっかり衰退しましたが、今一度見直しては?と思います。

救助につながった例も

子供の頃、とある高校で山岳部の顧問をしていた教員の人から聞いた話です。長野県内の山で登山途中に生徒の一人が盲腸炎を発症し、動けなくなったそうです。そこでアマチュア無線で非常通信を発したところ、甲府で受信してくれた人がいて、無事に救出されたということです。

もちろん、当時は携帯電話もなく、アマチュア無線愛好家の数が多かったことが助かった要因と言えますが、何はともあれ、実際に助かったお話です。
また、アマチュア無線機ですが、トランシーバー型の小型のものでも、山頂にまで登れば、見える範囲はすべて電波が届くと言われていますので、かなり遠くまで電波を飛ばすことができるはずです。
またドラマのなかでは、山に入った医師と看護師がさほど遠くない距離でありながらも、離れ離れになって問題となった場面がありましたが、せめて特定小電力トランシーバーでも使っていれば、状況は大きく変わっていたでしょう。この手のトランシーバー、出力は小さめですが、免許も不要で、よくスーパーやハンバーガー店で店員さんが身に着けている無線機です。
更に、無線機は音声伝達のみに特化しているため、故障も少なく、いささか乱暴な扱いに対しても丈夫であり、電池も容量を選ぶことができるなど、より過酷かつ多様な状況下での信頼性や運用性も高くなります。

免許は簡単に取れる

私も大学に入って直ぐにアマチュア無線の免許を取りました。
確か車より先に取ったように思います。
電話級(現第4級)という、最低のクラスでしたが、それでも十分だと思います。
受験対策も簡単で、完全丸暗記という本を一冊やれば、そのままズバリの問題が出る上に、合格ラインはあまり高くなかったので、少々間違えても大丈夫でした。
(初級アマチュア無線予想問題集2024年版 完全丸暗記)
https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/83556/

上記ドラマの場合も、山岳医や山岳看護師が出て来ますが、難しい資格を取るような方々にとっては、アマチュア無線の試験など楽勝でしょう。

時代は変わったが…

上記のように、昔はアマチュア無線の愛好家もたくさんいたので、非常通信を発信すれば、誰かが聞いている可能性は高かったでしょう。しかしながら、今は愛好家の数も格段に減りましたので、非常通信を発信しても、誰も聞いてくれないことになりかねません。
そこで、AIなど昔にはなかった技術の活用が望まれます。
ちょっとした展示会でも無線機の出展はあり、最近ではスマホと連携したようなIT化したシステムも考案されているようです。そこで、山小屋や平地にある無線局はたとい無人であっても、第一報はAIなどで処理して、必要な人たちへインターネット経由でスマホなどに連絡することなど、今の技術をもってすれば、実に簡単なことだろうと思います。世の中は常に進化しているはずです。

遥かに厄介なことが…

そして、そんな技術的なことより、遥かに厄介なことが発覚しました。
アマチュア無線の非常通信について、現状どうなっているか?を調べてみました。
総務省のページです。
(アマチュア局による非常通信の考え方)
https://www.tele.soumu.go.jp/j/ref/material/amahijyo/

『一般社団法人日本アマチュア無線連盟において、「アマチュア局の非常通信マニュアル」とやらを見るように』とあります。
https://www.jarl.org/Japanese/2_Joho/2-4_Hijou/emergency-communication-manual.pdf

率直に言って、こんな長い長いマニュアル、誰が真面目に読む気になるでしょうか?これでもか!?というくらい、余計なことばかりが書いてあり、『本当に非常通信を発しなければならないことになった場合』、何をどのような手順で行うのか?とてもではないが、このマニュアルから読み取ることは不可能です。普通は略図などを交えて説明してあるはずですが、それがないのです。たといやり方があったとしても、非常に煩雑な手続きと、少しでも手順が異なれば理不尽な責任を負わせるようなことがありそうな気がしてなりません。結局、不便且つ典型的な絵に描いた餅そのものです。全く持ってナンセンス極まりないと言えます!!!おそらく、上記社団法人、お役人様の天下り先でしょうから、お役所あるあるってことなんでしょう。

一刻も早く整備しなければならないのでは?

アマチュア無線における制度等の改善、整備は山の安全に限らず、全ての災害に対しても関係して来ます。災害はいつ起こるかわかりません。上記マニュアルのような非現実的な状況とは早々に決別し、誰にでもわかる、可能な限り多くの人々が参加できる仕組みを作らねばならないと考えます。

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辻村豊
専門家

辻村豊(技術コンサルタント)

合同会社 播羊化学研究所

材料や素材の研究開発、製造工程、特許に関する企業の困りごとを丁寧にサポート。専用の実験室で実証実験や試作も行っており、少量からでも対応が可能です。技術系社員の育成、技術承継も相談に応じます。

辻村豊プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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