相続トラブル回避!遺留分対策としての生命保険活用法
相続はときに相続人同士の揉め事に発展することがあります。いわゆる「争族」といわれる状況であり、話し合いによる解決が難しくなることも珍しくありません。ここでは、争族対策として保険を活用する方法について説明していきます。
生命保険を活用した争族対策
相続人同士の話し合いが揉め事に発展しやすい場合として、被相続人が残した財産が自宅とわずかな預貯金のみといったシチュエーションを挙げることができます。十分な現金や預貯金があれば、相続財産に不動産が含まれていても誰が何を相続するか解決しやすいのですが、すべての相続において「不動産と十分な現金・預貯金がある」といった状況を期待できるわけではありません。
たとえば、次のようなケースについて考えてみましょう。
- 被相続人:父
- 相続人:父と同居の長男、別居の次男
- 相続財産:8,000万円相当の自宅
このとき、長男と次男の法定相続割合は2分の1ずつですので、4,000万円ずつ相続することになります。しかし、相続財産は自宅のみであるため、自宅を残したい場合は2分の1ずつ分け合うことができません。
長男は父と同居していましたので、自宅を相続して住居を維持したいと考えるのが自然でしょう。ただし、長男が自宅を相続すると次男の遺留分を侵害することになってしまうのです。
遺留分侵害額請求に備えた生命保険の活用
このようなときに役立つのが生命保険の活用です。あらかじめ次男に生じるだろう遺留分を計算したうえで、被相続人である父を被保険者とする保険金額2,000万円の生命保険に加入し受取人は長男を指定します。
前提として、民法における定めを確認しておきましょう。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
※e-Govより抜粋
したがって、次男の遺留分侵害額請求割合は「自己の相続分の半分にあたる4分の1」であり、遺留分の発生に伴い次男が長男に請求できる金額は2,000万円となることを事前に知っておくことが大切です。
たとえば父親が「自宅は長男に相続させる」旨の遺言書を残していた場合、長男は自宅を相続することになりますが、次男の遺留分が侵害されますので、次男は遺留分侵害額請求を行うことができます。一方、長男は父親の死亡に際し2,000万円の生命(死亡)保険金を受け取っているため、この死亡保険金を次男の遺留分侵害額請求に充てることが可能になります。
また、死亡保険金は遺留分算定の財産には原則的に含まれない(受取人固有の権利)ため、この生命保険金2,000万円は遺留分算定の際に考慮しなくてよいというメリットがあります。
争族を回避するための方法
最高裁判所が公開しているデータによれば、遺産分割事件は平成23年から令和2年までの10年間の間に増加していることがわかります。平成23年には全国総数が10,793件であったところ、事件数が最も増加した平成30年には13,040件にも上っており、数年の間に1.2倍に膨らんでいる点は注目すべきでしょう。
※最高裁判所「司法統計情報(年報)」遺産分割件数 終局区分別 参照
遺言書による争族回避
遺言書を作成しておくことで、どの財産を誰にどれだけ相続させるかを明確にすることができます。法定相続割合とは異なる財産分配も可能だからこそ、相続人にとって公平となるよう考慮し慎重に遺言書を作成することが大切です。
一方、遺言書があっても相続人同士でトラブルが起こることもあります。具体的には次のようなことが起こった場合を挙げることができます。
- 遺言書の作成方法に誤りがあり有効性が疑われる
- 特定の相続人に対し著しく有利な相続内容である
- 相続人に遺留分を侵害された人がいる など
遺言書の作成は法的に正しくなければいけませんので、必要に応じて専門家に依頼するなどして、相続発生時のトラブル回避に努めましょう。また、記載内容の一部として、なぜそのような遺産分割方法を採用したのか、遺留分が発生する可能性がある場合はどう対処すべきかなど、相続人の立場に立ったメッセージを付記しておくことも重要です。
まとめ
相続人が互いに揉めることはできるだけ回避できるよう、ここでは生命保険や遺言書を活用した争族対策について説明しました。自分の相続について考え始めるようになったら、できるだけ早いタイミングで専門家に相談し、法的に正しくトラブルを起こさない相続の準備を進めていくことをおすすめします。
当事務所では、行政書士に加え連携する税理士や司法書士とともに相続全般のトータルサポートを行っておりますので、争族を回避するための準備についてもぜひお気軽にご相談ください。