法務局での遺言書保管について
「相続登記はいつまでに申請しなければいけないのでしょうか」
相続の相談に来られた方からこのような質問を受けることが少なくありません。
令和3年3月現在、相続登記について申請期限は定められていません。そのため、法律上は、不動産所有者死亡後いつ申請しても構わないという回答になります。
しかしながら、相続登記をしないまま長期間放置しておくと不都合な問題が生じます。
実際に登記をしようとした際に相続人が更に亡くなっていて当事者が増えるということがあります。
具体的に一つの例を挙げてみます。
相談者様の家族構成は父・母・兄です。土地の登記名義は相談者様のお父様で、平成26年に他界されました。その後お兄様が平成30年に亡くなり、さらに令和元年にはお母様が亡くなりました。
お父様の相続人は自分一人だけになったと思い、そろそろ相続登記をしなくてはと当事務所にいらした相談者様でしたが、お話しを伺ってみると、亡お兄様には妻と子供がいることが分かりました。この場合、お父様の相続財産については相談者様、亡お兄様の妻・子供が遺産分割協議の当事者になります。
手続きのため必要な戸籍(お父様・お母様・お兄様の出生から死亡までの戸籍謄本、相談者様・お兄様の妻と子供の戸籍謄本等)を相談者様にお伝えしたところ、とても自身では揃えられそうにないと判断され、戸籍収集から登記申請まで当事務所へ依頼されました。
お父様が亡くなられた直後であればお母様、お兄様、相談者様の家族内の協議で進めることが出来たのですが、長年放置した結果、収集すべき戸籍は増え、疎遠になっていた親族との協議も必要になったという事例でした。
尤も、最初の相続開始後、相続人に変わりがなければ相続登記を放置しても支障がないという訳ではありません。例えば、誰が相続するのか話し合いがまとまっていなくても、相続人の中の一人が法定相続割合で申請すれば相続登記は受理されます。ややこやしい事例ですが、相続人の一人が借金を抱えていたとして、その返済が滞った場合、債権者は債務者である相続人の代わりに法定相続割合で登記を代位申請することが出来ます。そして債務者が登記名義人となることにより、債権者は債務者の持分を差押え、競売を申し立てることが可能となります。法律上の義務がないからといって放置しておくと不都合な登記がなされたり、他の方の名義になり取り戻せないこともあり得るのです。
なお、令和3年2月10日、法制審議会は相続登記の義務付けを内容とする、法改正に関する要綱を採択しました。改正法律案は近く国会に上程されます。
改正案では、相続により不動産を取得したことを知ってから「3年」以内に登記を申請しなければ「10万円」以下の過料を科すこととされています。
期限や罰則の有無の変更はあるかもしれませんが、将来的に相続登記が義務化される可能性は濃厚です。もう一つ、この法改正案で気になるのは、既に発生している相続にも義務を課すという事です。つまり、今相続登記が未了で放っておいてある状態の不動産にも相続登記申請義務が課される方向なのです。
「相続したけれども義務ではないのなら…」と登記に手を付けずにいた方も多いかと思われますが、相続登記が義務化される前に登記の専門家である司法書士にご相談下さい。