財務の役割
先日、あるお客様の新規事業計画書の作成をお手伝いしました。
ある商品を仕入れてインターネットで販売する事業です。以下、
お客様とのやり取りです。
私:
どれぐらい売れば黒字化する見込みですか?
お客様:
売上によって経費も変わりますので計算に苦労しています。
300万円の売上高でも経費を抑えれば利益は出ますし、
500万円の売上高だと経費も増えますので逆に赤字になる
可能性も・・・
私:
売上を基準に考えるよりも経費を基準に考えてはいかがでしょ
うか?まずは、いくら売れそうかではなく、現実的にいくら経
費を必要とするかを検討してみましょう。家賃や正社員の人件
費など、売上がゼロでも必ずかかる費用はどれぐらいでしょう
か?
お客様:
月100万円ぐらいでしょうか。
私:
今回の事業に投資できる資金は、自己資金と借入金を合わせて
700万円ですよね。仮に全然売れなくても7か月は持ちます
ね。ただ、初期仕入れなども必要でしょうから、概ね6か月以
内に黒字化しないといけません。
お客様:
6か月以内ですね。どれぐらい売れば黒字化するのでしょうか?
私:
目標売上高は商品の粗利益率によって変わります。粗利益率は
どれぐらい取れそうですか?
お客様:
20%は取れると思います。ただ、モールの手数料が5%かか
ります。
私:
では粗利益率15%で計算しますね。
【固定費100万円÷粗利益率0.15=666.6万円。】
おおよそ666万円の売上高でトントンです。実際に達成でき
そうな数字でしょうか。また、そもそも固定費100万円の陣
容で666万円の販売は可能でしょうか?
お客様:
いえ、今の人数だと500万円ぐらいが精一杯です。
私:
そうですか。では、固定費をもっと下げませんか?
お客様:
いえ、できれば固定費は下げたくないですね。
私:
それでは粗利益率を上げるしか方法はありませんね。仮に粗利
益率を20%で計算すると、丁度売上高が500万円で収支ト
ントンになります。25%だと400万円でトントンです。
お客様:
それぐらいの売上高なら当初考えていた通りです。ただ、粗利
益率が20%以上必要なのですね。
私:
はい、100万円の固定費で物理的に660万円の売上高を上
げることができない、また、固定費は下げない方針とのことで
すので、粗利益率を上げるしか方法は残っていません。
お客様:
分かりました。売上高を基準に考えるより、自分が必要とする
経費から売上高を予測する方が、現実的で分かりやすいですね。
新規事業などの読みにくい売上計画を作る時は、「いくら売れ
そうだ」と考えるよりも、「いくら売らねばならない=損益分
岐点」を基準に試算する方が現実的です。このように算出した
損益分岐点売上高を実現できる蓋然性を確認しましょう。
机上で論理を組み立てることはもちろん重要です。しかし、実
践できなければ意味がありませんので、計画は売上予測からで
はなく、自身が投資可能な経費から作成してみてはいかがでし
ょうか。